怖そうな魔術師団長の後をつけて1階上にあがると、王族専用の屋内の魔法練習場へやってきた。
「さて、魔法が見たいと言っておりましたな。いったい、どのような魔法が見たいのですかな?」
レイニーを見つめ、不思議そうな表情で聞いてきた。
どんな魔法って聞かれてもなぁ……。どんな魔法でも良いんだけど。ルナが出来るようになったというファイアショットかな、他の魔法は知らないし。
「ファイアショットを見てみたい……かなぁ」
レイニーが目をキラキラと輝させて楽しみそうな顔をして言うと、団長が首を傾げて聞いてきた。
「レイニー様は、確か中級魔法までお使いになられていましたよね? 私を試しておられるのですかな?」
自分が試されていると感じた団長が、不機嫌そうな表情となった。レイニーがその表情の変化を見て、慌てて言い訳をした。
「あ、その……中級魔法ですと危険ですし……基礎が大切だと本にも書いてありましたので。下級魔法のキレイなお手本を見て覚え直そうかと」これで、ごまかせたかな……?
「ほぉ。さすが魔法好きなレイニー様ですな……」
団長が何度も頷き感心したような表情をして、機嫌が良さそうな顔になったのでレイニーがホッと一息をついた表情をした。
「今日は、私が特別に講師なりましょう。存分に練習をして下さい」
団長が嬉しそうに言ってきた。
「その前に、団長さんのお手本をお願いねっ♪」
レイニーが目をキラキラさせて団長を見つめて言うと、団長が笑顔で返事を返した。
ここの施設は、王宮の一角に位置する王族専用の屋内魔法などの練習場で、その壮麗さと威厳で訪れる者を圧倒する。高くそびえる大理石の壁に囲まれたこの場所は、外界の喧騒から隔絶され、神秘的な静けさが漂っている。入口を通ると、まず目に飛び込んでくるのは広々としたホールで、天井には豪華なシャンデリアが輝き、その光が大理石の床に反射して場内を柔らかく照らしている。
床には、巨大な魔法陣が複雑な模様で描かれており、その中央に立つことで魔力を回復させることができる設計となっている。魔法陣の周囲には、小さな魔法の紋様が散りばめられ、それぞれが魔法のエネルギーを流れる導管の役割を果たしている。
練習場の一角には、5人ほど並んで魔法を放つための訓練スペースが設けられている。ここには魔法の標的となる的が50メートル先に配置され、訓練者が集中して練習できるように隣との間には仕切りが設けられている。誤って魔法が的から外れても安全なように、壁には強力な結界が張られている。
そのうちの一つのレーンには、ルナのように魔法の初心者や魔力の弱い者が使用するための特別な可動式魔法練習スペースがある。このスペースは、訓練者が自分の実力に合わせて距離を調整できるように設計されており、距離の半分の場所で魔法を放つことができる。スペース内には透明な防護壁が設置されており、訓練者を守りつつ、指導者が確認し容易に指導できるようになっている。
さらに奥には、魔法の研究室や実験室が並ぶエリアが広がっている。ここには最新の魔法研究設備が整い、古代の魔法書や錬金術の道具が所狭しと並べられている。窓から差し込む自然光が、部屋全体を明るく照らしており、静かな環境で魔法の理論を深めることができる。
練習場の別の一角には、瞑想や精神統一のための静かなスペースが用意されている。柔らかなカーペットが敷かれたこのエリアでは、心を落ち着かせるための音楽が静かに流れ、瞑想を通じて魔法の集中力を高めるのに最適な環境が整っている。
また、戦闘技術を鍛えるためのエリアも充実しており、ここでは剣術や弓術の訓練が行われる。木製のダミーや標的が整然と並び、訓練者たちは実際の戦闘を想定しながら技術を磨くことができる。
壁際には、魔法や戦闘技術に関する書物が収められた本棚が並び、古代の魔法書や最新の研究書が所狭しと並べられている。これらの書物は、貴重でキケンな魔法などが記載されているために書庫には置かれていない書物だが、王族たちが魔法の理論や実践を学ぶための貴重な資源であり、その知識は彼らの力を一層高める。
王族専用の屋内魔法練習場は、単なる訓練施設ではなく、魔法の伝統と歴史が息づく神聖な場所だ。ここで訓練を受ける王族たちは、魔法の力を身につけるだけでなく、その責任と重みをも学ぶことになる。
団長の顔つきが変わり、魔法を放つ場所まで移動して片腕を的の方へと伸ばした。詠唱を始めると手のひらの先に小さな赤い魔法陣が浮かび上がり、その先に赤い小さなゴルフボール大の炎が現れると的まで放たれた。
バシュ!っと音を立てて的へ命中させた。
レイニーが、わぁ!という表情をしてぴょんぴょんと小さく跳ねて喜んでいた。それを見た団長が嬉しそうな表情をしていたが、徐々に真面目な顔になった。
「さぁ、レイニー様とルナ様の番ですぞ」
団長が二人に声を掛けた。
「あの……わたしは、半分の距離の場所で……お願いします」
ルナが恥ずかしそうに、端の方の距離が半分の場所へ歩いて移動した。
「的に正確に当てる練習なので、当たる距離に移動していただいて構いません。徐々に距離を伸ばしていきましょう」
レイニーが、ルナの方をじっと観察していた。ルナも片腕を伸ばし詠唱を唱え魔法を放った。団長と比べると小さく弱々しく、的に当たると霧散してキラキラと輝き消えていった。
ルナが、わぁ! と声を出して喜んでいた。「ルナが喜んでいるということは、的に届かないか外すことが多いのかな?」とレイニーは思った。