ワタシのアトリエに届いた一件の依頼。
なんてことはない肖像画の依頼だ。参考用に添えられた写真には、コンブの纏わりついたような色の服に身を包んだ、精悍な顔つきのニンゲンのオスが写っている。
肖像画なんてイワシの群れの数程描き上げてきたはずのワタシの筆は、今止まってしまっていた。ニンゲンの部分はとっくに描き終えているにも関わらずだ。
その原因は、依頼文の末尾に添えられた、とある一文。
「背景は空色にしてください」
依頼文に書かれたこのニンゲンの半生によると、彼はどうやら空に憧れていたのだとか。それで背景を空の色にして欲しいとのことだ。
「空色ねえ……」
いったい空はどんな色をしているのだろう。考えたところで答えは出ない。
「空を見たことがある」という同胞に話を聞いてみたりもしたが、「
カレンダーを確認し、迫る納期に溜息を一つ。アトリエの窓から見上げると、そこには
パレットの上で混ざり合うのは、青と黒の絵の具の海。そこには光をも飲み込むかのような、深淵から見上げたソラの色が織りなされていた。