「うううう……疫病神とまた2人きり……」
肩を落とすハンスをリタは励ます。
「力を合わせて頑張りましょう!」
「能天気なポジティブが鼻につくんだよ!」
ハンスはリタに詰め寄った。
「お前のせいで死にかけただろ! プリンスが来なかったら、俺たちは今頃モンスターの胃袋の中だ!」
「そ、それは確か
「どんなに頑張ったって俺たちはもうビリ決定。ここからは失格回避の消化試合なの!!! っていうかさあ」
ハンスは大きなため息をついた。
「そうだよ。どうせ最下位なんだ。ここからは別行動しようぜ。10分後にここを立て」
「なぜ一緒じゃダメなんです?」
「お前と一緒に歩きたくないの」
「でも私、一人じゃ迷子になってしまいます」
「知らん! どうせ校長が助けにくるだろ。じゃ、もう俺は行く。絶対10分間は待機してろよ」
「なんだかかくれんぼみたいですね」
「遊びじゃねえわ! はあああ、血圧が上がりそう」
ハンスはプンプン怒りながら藪の中へと消えていった。
◇
「ハンスさんにまた迷惑をかけてしまいました。私がふがいないばっかりに……」
ひとりぼっちの草むらの中でリタは大きなため息をつく。
そもそも魔笛でモンスターを呼び出してしまったのがケチのつき始めである。とはいえ過ぎてしまったことを悔やんでも仕方がない。
(とにかく出来ることをやらなければ)
そう前向きな気分になったところで、ふと倒れているモンスターが目に入った。
「お可哀そうに……この子も私の犠牲者ですね……」
ほんの数分前、元気よく走っていたのに、今ではぴくりともしない。
(命って儚い……)
せめて生々しい傷跡を癒やしてあげよう、とリタはヒールを投げかけようとしてハッとした。
(あ、駄目だ。私のヒールは生き物を砂にするんだった)
しかし、すぐにまた思い直す。
(でも、それもまた弔いの形ではないかしら)
この子の亡骸には責任がある。
リタは右手をモンスターに向けて
「ヒール!」
声高らかにそう叫んだ。
◇
「はああ、やっとゴールだ……疲れたぁ」
ゴール地点でハンスはよろよろと座り込む。
「あいつ、無事に着くかな? くそ。やっぱり一緒に来ればよかった」
あまりにも苛ついて、放置してしまったけれど、あの方向音痴では遭難する可能性があり、となると失格の可能性が高くなる。
「あああ、疫病神だなぁ……あいつ……けどまあ、仕方ない。迎えにいってやるか」
そう言って立ち上がったとき、ごオオオ、という不穏な音が聞こえた。
「ん、なんだ、この音は、既視感があるぞ」
嫌な予感が脳裏をかすめる。
「いや、まさか、魔笛はないし、モンスターが、なんて絶対にないよな」
と、藪をかきわけて、黒い巨体が現れた。
「ギャオオオオオオオオ」
それはハンスを目にすると、後ろ足で立ち禍々しい雄叫びをあげる。
「やっぱりモンスターなんですけど!!!!!」
ハンスは腰が抜けそうになるのを必死になって堪え全速力で走り出す。
「ハンスさあん。大変ですっ」
どこからかリタの声も聞こえてきた。
「えっ? どこ?」
ハンスは逃げながら視線を巡らせる。
「ここですーここ」
見ると、モンスターの背中にリタが載っている。
「ぎゃー!!! お前、なんだ、復讐か? ほったらかしにしたから、モンスターを使って復讐にきたのか?」
「違いますよー。そんなことより大変なんです!」
リタは猛スピードで走るモンスターから振り落とされないように、しっかりとぬめる背中にしがみつきながら大声で言った。
「私、生まれて初めて治癒魔法が、いいえ、蘇生魔法が使えましたー!!!! 嬉しいです! 聖女への道を一歩踏み出せました!」
喜色満面の笑みにハンスはゾッとしながらも、思いをこめてこう叫んだ。
「この疫病神!!!!!」