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第12話

 そして1時間後……。

 ハンスとリタは2人1組で藪の中を進んでいた。


「……俺の半径3 メートル 以内に近づくな」


 木ぎれで作った杖でヤブをかきわけながら、ハンスはリタに釘を刺した。


「くっついてた方が安全じゃないですか? ジャングルには危険生物がたくさんいそうです」

「お前が一番の危険生物なんだよ!」


 ハンスは叫び、はああ、と大きなため息をつく。


「さっきから転んだり躓いたり。足引っ張られてばっかりだ。取ることないな。こいつはマジで」

「はい! 私は無能で無害です!」

「有害な無能だからヤバいんだろうが! っていうか、鎌は?」

「教室においてきました!」

「この役立たず!」


 と、藪の奥でガサガサと音がした。


「ひゃああああ」


 ハンスは悲鳴を上げて飛び上がる。


「あ、すみません、3メートル以内に近づきます」


 律儀にそう断るとリタはハンスの傍らをすり抜け、音のする方に歩み出た。

 目の高さほどある草をかき分けると、小さな狐が寝ているのが見えた。


「あ、狐さんですよ。可愛いです」


 リタはにっこり笑って言った。

 ふわふわした金色の毛並み、閉じられた目、ピンと伸びたひげ、どこもかしこもが愛らしい。眠っているようだが奇妙なほど息が荒い。


(はっ! この狐さんもしかして)


 よく見るとお腹のあたり滲む赤い血が目に入った。


「大変です。怪我をしています」


 リタはしゃがむとハンスを振り返る。

 ハンスは胸をなでおろしながら


「ほっとけよ。早くゴールしないとポイントが減る。その後小金稼ぎもしたいんだ。こんなとこ滅多に来られない。何かお宝が落ちてるかもだろ」

「でも……」


 リタは狐の心臓に手をやった。


「鼓動が弱くなっています。ヒール……」

「まてまてい! 殺す気か!!?」

「砂にしたら軽くなって持ち帰りやすいかと……」

「確信犯!? つか、もう、仕方ないなあ」


 ハンスは渋々狐に手をかざした。

 狐の白い毛で覆われた胸元がぽーっと光が灯ったように明るくなる。

 しばらくすると呼吸が戻り、目が開いた。

 そしてすごい勢いで起き上がると藪の中へ消えていく。


「よかったあ……」


 リタは毛むくじゃらな背中を見送ると


「……ハンスさん、素晴らしいです!」


 バディに感動を伝えた。


「……あんな初歩的な治癒魔法なんて誰だって使える」

「私にはできません!」


 リタは静かにこう言った。


「治癒魔法が使える人は、優しい心の持ち主です。ハンスさんは優しさのコントロールができるから、命を救うことができる……本当に羨ましいです……」


 キラキラした目で見つめられ、ハンスはぐっと息をのむ。

 そして顔を赤くするとこう言った。


「ふんっ。まあ、ここまでは俺がポイントを稼いだから、こっからはお前がなんとかしろよ」


 リタの顔がぱああっと明るくなる。


「私に頼ってくれるんですね! 嬉しいです。任せてください!」


 威勢よく言うと、すっすと速足で歩いていく。


「こいつ、ポンコツだけど、やる気だけはあるんだよなあ……」


 ハンスの声が背後から聞こえてくる。


(少しずつ私のことを認めてくれているようですね。ふふっ。バディっぽくなってきました!)


 演習に参加してよかったと、心の底からリタは思った。

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