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第2話 誰がウソツキ?

翌朝、普通のモーニングコールには比にならない程の大きな悲鳴で目を覚ました。


「誰か、誰か!!  死んでるわ!」


近くでそんな叫び声が聞こえたので、ドアを開けてみる。そこには、顔を真っ青にして怯える女性と、首に真っ赤な跡をつけた女性の死体が転がっていた。昨夜喧嘩していた女性2人組だ。もう目は光っておらず、体も少しひんやりしてきている。


「どうされたんですか…、?」


ホテルマンが駆けつけたが、その人は言葉も出なかった。彼は若いし、このホテルで人が死んだのは初めてだと伺える。無理もないだろう。


今この場には、死んでしまった彼女と来ていた女性、叫び声で起きたハンスさん、ホテルマンの男性、そして私が集まっていた。


「君は昨日、彼女と喧嘩していただろう!  君が殺したのではないか?」


怯えた様子で、フィッシャーさんが口を開く。


「そんなことないわ!  彼女とは喧嘩していたけれど、私は先に寝ていたもの。」


「そんなの、監視カメラがないここじゃあなんの証拠にもならない!」


「何も知らないアナタに言われたくは無いわよ!」


女性も頭に血が上ってしまっているし、そもそも友人が死んでしまっている。このままではこの二人まで喧嘩になりそうだ。ここでルーカスが口を開く。


「いえ、そちらの女性の可能性は低いのでは?  首を絞められていますが、抵抗していたようです。ほら、ここに彼女のつけ爪が。そして、彼女より貴方の方が小柄だ。」


「たしかに…」


ルーカスの言う通り、死体の横にはつけ爪も落ちており、抵抗したのだと伺える。

容疑をかけられていた女性はホッとしたような顔をして、ハンスは少し冷静になっていた。ホテルマン達も、納得していた。


「じゃあ一体誰が、?」


少しの沈黙を破ったのはホテルマンの彼。


「怪しい人は、いますよ。この中にね?」


この中にいる犯人の動揺を煽るように、少し笑いながらルーカスは誰かに問いかけた。


「私をあんなにも疑ってたアナタこそ、殺したんじゃないの?」


「えぇ、私もそう思いますよ。ハンスさん」


殺気が溢れ出していて今にも人を殺しそうな彼女は、怒りか、悲しみかで震えた声を出す。そして、そこにルーカスを便乗する。なぜ彼、ハンスを疑うのか?


「なんで私を疑うのだ!」


ハンスは顔を真っ赤にして怒鳴る。自分が疑われるのが嫌なのは分かるが、まるで本当に犯人のように見える。


「説明してあげましょう。

まず、アナタはトランクをブーツと仰っていたね?」


「あぁ、酔っ払っていたからな?」


「いくら酔っ払っていても、真夏にブーツが出てくるなんておかしいでしょう?  英国の方言が隠せていない。

次に、食べ方だ。昨夜のディナー、君はジャガイモも綺麗に切って食べていた。」


「それがなんの証拠になる?」


「ドイツから出たことのない君が、ジャガイモを切って食べていた。潰さずにね?  まるで食べ方がイギリス人じゃないか。

そして最後、君は監視カメラの有無を知っていた。ホテルマンでもない君が、なぜしっかりと知っているのか。」


言い終わると、ハンスは顔を真っ青に変えていた。きっと、推理は的中していたのだろう。


「どうして、どうして彼女の命を奪ったの!!」


彼女の友人だった女性が叫ぶ。仲の良い友人を、知らない男に。そうされたら誰だってこうなってしまう。


「僕が殺したさ、認めるよ。

彼女に虐められてたんだ、イギリスに住んでいた頃に。

だから、復讐をしたんだ。いい気味だよ!  本当にね。」


一気に雰囲気が重くなる。

殺された彼女は、ハンスを虐めていた?  ハンスは仕返しただけ?  仲の良かった女性は、ぐるぐると脳を回し、彼の言葉を飲み込もうとする。

外ではパトカーの音。いつの間にか誰かが呼んでくれていたようだ。


「ありがとうね、彼女を連れてきてくれて!」


警察に連行されるとき、ハンスは疲れたように笑ってそう言った。

女性は彼女を連れてきた後悔と、彼女が虐めていたという事実と、死んだ彼女への想いを涙にして、外に生み出していた。



そうして、誰も幸せになんてなれない、ハンスの復讐劇が幕を閉じた。

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