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【第二話】死と隣り合わせだけど一度にガッポリ稼げるお仕事です

 今から十年前、世界規模の大震災が起きた。

 震度七を超える地震が同時期にあちらこちらで発生し、地殻変動を繰り返した。それがようやく収まった頃には、地球は姿形を変えてしまい、幾つかの国が地図から消えていた。


 しかし、それは始まりに過ぎない。地殻変動で隆起した箇所から、大小様々な大きさと形をした扉のような異物が現れたのだ。

 そしてそのうちの一つが開いたかと思えば、中から見たことのない生き物が次から次へと出てきた。


 それが、魔物。

 漫画やゲーム等、あくまで空想上の生き物でしかなかった存在が、突如として現実世界に現れたのだから、人々は対応に追われた。

 文字通り、世界が一変したのだ。


 その結果、まずは日本が決断した。

 最初に魔物が確認されたのが東京だったということもあり、早急に動かざるを得なかったのだ。


 扉の形をした異物から溢れ出る魔物の群れを鎮圧する為に、自衛隊は我が身を省みずに戦った。それは多数の死者を出すことになったが、十日足らずで一先ず事を収めることができたので、日本の決断は間違いではなかった。


 一方、世界では更に幾つかの国が消滅していた。

 魔物への対抗手段として、核を撃ち込んで自滅した国もあれば、祖国を捨てて他国へと逃げる者も多くいた。


 大震災、そして魔物の出現と、誰もが驚く想定外の事態が続いたが、それもようやく落ち着いた頃、世界は新たな進化を目の当たりにすることとなる。「魔力」の有無だ。


 魔物が巣喰う異物の扉は、その形状から「ゲート」と呼ばれるようになっていた。

 門の中から姿を現したのは魔物の群れであり、人々を恐怖のどん底に陥れたが、しかし何も恩恵が無いわけではなかった。


 門の中はまるで洞窟のように真っ暗で、地球の内側の奥へ奥へと進むような感覚に囚われることから「ダンジョン」と総称することになった。

 ダンジョンの内部は、明かりを灯す手段が無ければろくに歩を進めることもできない。そして何より、やけに空気が重く感じた。それは決して気のせいではなく、ダンジョン内は空気よりも重い未知なる気体で溢れていた。


 各国による研究の結果、門の中に漂う気体を体内へと吸収することで、身体能力が劇的に向上することが判明した。後に漫画やゲームの世界よろしく「魔素」と称し、同時に体内へと吸収して得た魔素を「魔力」と呼ぶことが正式に決まった。


 魔素は、魔物の体内にある心臓のような石――「魔石」を手にすることでも得ることができる。そして魔石自体に何らかの力を付与することが可能なことも判明した。


 地球に生きる人間達にとって、魔力は希望だ。未知なる生物である魔物に対抗する為、人々はこぞって魔素や魔石を求め、門を通ってダンジョンへと潜った。

 だが、誰も彼もが魔力に適性があるわけではないのも事実だ。


 適正の無い人間が少しでも魔素を吸収すると、魔力に酔った状態へと陥り、意識を保つのも難しくなる。更に魔素の摂取量が増えると、最悪の場合は死に至る。


 だからだろうか。

 門が地上に出現し、魔物が人々の命を脅かすようになってから半年が過ぎた頃、現存するほぼ全ての国が手を取り合って作られた団体――「探索者組合」が発足された。


 ダンジョンを探索する為には、探索者組合が発行する探索者証の有無が条件となっている。だが、魔力適正の無い人間に探索者証の発行許可は下りない。

 つまり、一般人が自由にダンジョンへ潜ることができる状況では無くなったのだ。


 十年が経過した今、探索者証を発行された日本人の数は、凡そ二千人。

 その中には、自分は選ばれし者だと勘違いした挙げ句、あっさり死んでしまう者もいた。


 しかし探索者組合の手で門とダンジョンに対する法整備を整えた続けた結果、今ではある程度被害を抑えることができるまでになっていた。


     ※


 東京の西側、中央線沿いの武蔵境駅と東小金井駅の中間に、ソレはある。ヒガコ荘から自転車を漕いで僅か二分、本日の目的地――探索者組合に到着した。

 自動ドアを通って建物の中に入ると、脇目も振らずに真っ直ぐと受付に向かう。


「おはようございます。バイト希望の方ですか」

「はい。護衛役ってありますかね?」

「護衛役ですね? 畏まりました。それではまず探索者証を御提示ください」


 言われて、俺は財布の中から探索者証を抜き取る。

 探索者証には名前と登録番号、そして圏外/100と書かれている。


 有り難いことに、俺は魔力適性があった。だから探索者証を発行してもらえたし、これのおかげで日雇いバイトに困ることもない。勿論、金があるなら絶対にしないけど。


「あくた……失礼しました、ちゃが、茶川綴人つづと様ですね。いつもありがとうございます」


 探索者証に記された俺の名前に目を通し、当然のように読み間違う受付職員さん。

 受付担当の職員さんが入れ替わる度、同じことを繰り返しているので、もう慣れた。


「現在待機中のクランの中で、護衛役を募集しているのは以下になります。如何いたしますか」


 探索者組合をギルドとするなら、クランはチームであり、同行する探索者を一纏めに称した際の呼び方だ。


 ダンジョンに潜るには探索者証が必要だが、それはあくまでも前提条件の一つでしかない。実際はクランを組む必要があり、一クランに付き最低五名以上と定められている。これは単純に人数が多ければ多いほど生存率が上がるからだ。

 大体のクランは大所帯で構成されていて、一度の探索で十名から二十名がまとめて潜る。その方が何かと効率が良く、安全性も高いから納得だ。


 ただ、俺のような独り者には辛いシステムと言えるだろう。


「……じゃあ、このクランでお願いします」


 提示されたクランリストの中から、募集定員一名のクランを選ぶ。このクランなら待ち時間が無く、すぐに出発できるだろう。

 クランメンバーは十七名と多めで、俺を含めると護衛役が五名いる。何かトラブルに遭遇したとしても、問題無く対処することができそうだ。


 そして何より、報酬欄には三万円と記されてある。

 ヒガコ荘の一ヶ月分の家賃を支払ってもお釣りが来るのは最高としか言い様がない。


「畏まりました。それではこちらの誓約書を御読みの上、問題がございませんでしたらサインをお願いいたします」


 小さな文字で事細かにびっしりと書かれた誓約書を一読することも無く、言われるがままにサインする。過去に何度も書いたことがあるので慣れっこだが、要はアレだ。

 この依頼を受注するに際し、何があろうとも全て自己責任ですよと確認する書類ってことだ。


 つまり、不慮の事故で死んでも探索者組合や依頼主は責任を取ってはくれない。

 言うなれば命がけのバイトだろうか。

 まあ、だからこそ一度の仕事で一ヶ月分の家賃を稼ぐことができるわけだが。


 それにこの依頼は探索者組合が精査しているものだから、悪事に手を染めることなく真っ当に稼げるのは非常に有り難い。現在進行形で金欠の俺にとっては、正しく天の助けとも言える仕事だろう。

 無論、死ぬ可能性が少なからずあるのが欠点だが、そこは目を瞑るしかない。


 探索者組合に届く依頼内容は、大きく別けて五つある。

 採掘、運搬、護衛、探索、そして退治だ。


 一つ目は、ダンジョン内に数多ある鉱物の採掘業務。

 ダンジョンには常に魔素が漂い続けている。その影響だろうか、地球上には存在しない鉱物を採掘することができる。塵も積もれば結構な額で取引されるので、量を確保可能な大所帯のクランには貴重な収入源となっている。


 二つ目は、採掘した鉱物や仕事道具の運搬業務。

 これは採掘業務に当たる人が兼任することも多いが、人数に余裕がある場合や、大所帯のクランだと、数名が運搬業務に就く。倒した魔物をその場で解体し、魔石や素材を回収する作業も含まれることが多いので、採掘業務に劣らず力仕事と言えるだろう。


 三つ目は、探索者の護衛業務。

 共にダンジョンへ潜ったクランメンバーを、魔物や罠から物理的に守る仕事だ。

 仮に魔物と遭遇した場合、追い払うか退治するまでが一仕事となるので、探索者の中でも戦闘力に恵まれた者が引き受けることが多い。


 四つ目が、探索業務。

 ダンジョンはとにかく広く、そして地下へと続く道がある。探索業務を担当する探索者は、ダンジョン内を安全に行き来できるようにする為、未踏の地を求めて探索し続け、正確な地図を作製するのが主な仕事内容だ。当然、危険が付き物だが、探索者組合からの報酬も飛び抜けて高いのが特徴の一つだろう。


 そして五つ目は、魔物の退治業務。

 ダンジョン内は魔物の巣と化している。

 各々が作業をしていれば魔物と遭遇することも多々あるが、魔物を退治するのが主な役割だ。護衛業務と重なる部分もあるが、こちらは最初から魔物退治を主目的としているので、最も危険な業務と言える。


 で、今回俺が引き受けたのは、三つ目の護衛役だ。

 魔物と遭遇しなければ手持無沙汰の楽な仕事になるし、仮に逆目を引いた場合でも、潜るダンジョンの危険度が低ければ死ぬ可能性は限りなく低くなる。


 だから俺は金欠になる度に何度も足を運んだことのある門を訪ね、その時々で依頼を出しているクランの護衛役を引き受けていた。


 因みに、クランを組んで行動せず、ソロで潜ることも不可能ではない。しかしその場合、探索者組合によって定められたランキングで百位以内に入る必要がある。

 このランキングは探索者としての貢献度と、単純な強さによって決められる。十位以内のランカーともなれば、たった一人で魔物の群れを相手に無双することができるほどだ。


 では、俺の順位は如何ほどなのかというと、日本版の探索者ランクで「圏外」だ。当然、ソロで潜る権利は持ち合わせていない。だから大人しく団体行動を取っていた。


「ご署名ありがとうございます。それではこちらの番号札を持ってお待ちください」


 職員さんは誓約書を確認し、慣れた手つきで判子を捺す。八番と書かれた番号札を手渡されると、俺は手頃なソファに腰かけて出番を待つことにした。


 今日が何事も無く終われば、後は家に帰って原稿を描くだけだ。

 だからどうかどうか、共に潜るクランの人達がまともでありますように……。


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