ドレスなんて本当にずいぶん長いこと着ていない
真っ白なシンプルなドレス
そんなに重くない
コルセットはつけないでくれた
『王命ですので』
メイドはそう言った
私がドレスを苦手なのを、ご主人様が気遣ってくださったのだと思う
「こちらでお待ちください」
そう言われて待っていると、ご主人様がやってきた
ドレス姿の私を見て
「きれいだ、アリシア」
私にそう言ってくれた
ドレスを着るのは久しぶりなので、私は恥ずかしくなった
そんな私を
「さあ、行こう、アリシア」
そう言ってご主人様が再び抱き上げた
ご主人様は私を両手で抱き上げたまま、城内を歩く
私たちを、皆が見ている
「ご主人様、皆が見ています」
「そうだな」
「恥ずかしいです」
「俺は恥ずかしくないし、お前が恥ずかしくてなんで俺が困る?
お前は俺のものだ、俺がこうして腕に抱いて歩いて何が悪い?」
「・・・」
「恥ずかしいかアリシア?」
「はい」
「なら俺を見ていろ、俺だけを見ていろ、ほかのことなんかどうでもいいから俺だけを見ていろ」
「・・・はい」
こんな至近距離でじっとご主人様を見つめる
周りの人たちから見られるよりずっと恥ずかしくなる
私はどうしていいかわからないので目をつぶる
目をつぶってもご主人様がどんどん歩くのがわかる
そういえばどこに向かっているんだろう
お城の中庭に向かってる
人が、集まっている
「ご主人様、降ろしてください、人がいっぱいです」
「うるさい静かにしてろ」
「でも」
「アリシア、俺の言うことが聞けないか?」
「・・・申し訳ありませんご主人様」
私がそう言うと、ご主人様は少し考え事をして、ニヤッと笑った
何か意地悪なことを考え付いた子供のように
「そうだな、そういえば少し重く感じ始めたところだ」
「降ります」
「誰が降りていいと言った?アリシア、お前が決めることじゃない」
「・・・でも、重いのでしょう?」
「そうだな、ちょっと重く感じ始めたところだ
だから、お前も少しは協力しろ」
「・・・どうやって?」
「ほら、お前の両手を、俺の首にかけろ」
「・・・」
「早くしろ、アリシア」
私は言われた通りにする
そしたら、もっとご主人様の顔が近くなった
「もっとしっかりつかまれ、アリシア」
「・・・」
「早くしろ」
私はもっと深く、ご主人様の首に手をまわした
私たちのお互いの顔が、触れ合う
「そうだ、それでいい、アリシア」
ご主人様の言葉が私の耳に直接触れる
ご主人様の顔を見れない
恥ずかしくて
「陛下、準備が整いました」
「そうか、わかった」
目を閉じているとご主人様と誰かのやり取りが聞こえた
そういえばなんでここに連れてこられたのだろう
「アリシア、目を開けろ」
「はい」
言われて目を開けて、すぐご主人様と目が合う
私は大急ぎで目をそらす
人がいっぱい中庭に集まっている