「戦友、戦友ですか、副団長」
「・・・おかしい?だってそうでしょう、私たち」
「戦友だって思ってたのはあんただけだと思いますよ、副団長さん」
男たちが、どこか憐れんだ目で、私を見る
憐れんでいる、目で
「俺たちの誰も、あんたを戦友だなんて思ったことはない
あんたはいつだって、ただの女だった
ただめちゃくちゃ強い魔法で、俺たちと一緒に戦っているだけの女だった
俺たちの誰も、あんたを上官とか仲間とか、戦友とか思ったりはしなかった」
わかってた
本当はわかってた
戦友だなんて思ってるのは私一人だけだって
本当はわかってた
「昔、野営を襲撃されたとき、俺たちは皆ちりじりに戦うしかなかった
明かりは月明かりのみ
俺たちの誰もが、死を覚悟したあの時
あんたが一人、テントから飛び出て、敵たちを切り伏せた、たった一人で
あの時のあんたは、人間の美しさをはるかに超えていた
俺たちの誰もが、言葉を失くしてただ見とれていた
月の光に、なびく金の髪、透き通った水色の瞳、小さくて細いしなやかな体で、血しぶきを浴びて走るあんたの姿を、今も覚えている」
「・・・」
そう思うなら、許してほしい
私をどうか、逃がしてほしい
「俺たちの誰もが、言葉を失くしてあんたを見ていた
決して手に入らない、あんたを」
「私にはもうあの時の魔力はありません、何もできません、だから、許してください」
「・・・だからだよ、だからだ、魔力を持ってない今のあんた、身分を失くし奴隷となったあんたなら、今のあんたなら、俺も、俺たちも手が届く、今のあんたなら」
「騎士の誇りはどうしたんですか?ねえ、あなたたちは騎士でしょう?」
「ははは、悪いけどね副団長、騎士なんて一皮むけばただの男なんだよ
騎士道なんてありやしないんだよ
あんたには一生わからんだろうけどな、まあ今これから、それを知るだろうけれど
・・・俺たちが教えてやるよ
・・・
・・・アリシア・ホワイトさん」
助けて
助けて誰か
助けて
助けてご主人様
ご主人様
ご主人様
「そこまでにしな・・・クズども」
声がした
私と同じ女性の声
見ると、シズさんがいた
「アリシアから離れな、クズども」
「なんだてめえ」
男4人に勝てるわけがない
「逃げて!逃げてシズさん!逃げて!」
ああ
シズさんの名前を呼んでしまった
どうしよう
この男たちにシズさんの名前を教えてしまった
「大丈夫だよアリシアちゃん、今助けるからね」
そう言って、シズさんが消えた
私の目にとまらない動きで、シズさんが動いた
「う」「ぐ」
そんな声を上げて男たちが崩れ落ちる
「あんたたち、今すぐ消えな
あんたたちは王都から離れていたから知らないみたいなので教えてあげるけど、この子は、アリシアちゃんは、
午後はもうすぐ国王陛下と一緒にお茶を飲んで過ごしてるんだよ、毎日」
「なに、奴隷になった、この女と?」
「この子が奴隷なのは陛下に対してだけだ、口の利き方を気をつけな
この子はこの国で一番高貴な女性なんだからね」
「・・・てめえ」
「ほら、さっさと消えな、陛下を怒らせてもいいってんなら話は別だけどね」
「・・・」
男たちは、お腹や肩、あちこちを手で押さえながら、歩いて行った
彼らが見えなくなってから、シズさんが私を見て言った
「大丈夫アリシアちゃん・・・ごめんね、一人にしちゃって・・・間に合って良かったけど、本当にごめんね」
「そんな、シズさん、ありがとうございます、助けてくださって
・・・ごめんなさい、巻き込んでしまって」
「大丈夫だよ、あいつらは何もできやしない、それより、立てる?」
「あ」
「ほら」
シズさんが手を差し出してくれる
「・・・ありがとうございます」
「・・・間に合ってよかった」
もう一度、シズさんがそう言う
立ってわかった
膝が震えている
止まらない
「無理しないで、ほら、寄っかかって」
「・・・はい」
涙が流れる、次から次へと
「・・・怖かったんだね、ほら、アリシアちゃん」
シズさんが私を抱きしめてくれた
「泣きな、泣いていいんだよ、泣きなさい」
そう言われて、私は、泣いた
泣きながら私は、怖かっただけじゃなくて、悲しかったんだということを気づいた
戦友だと思ってたのは私一人だけ
本当はわかっていた
戦友だと思ってたのは私だけだってこと
どんなにがんばっても
どんなにみんなを助けても
どんなに強くなっても
私は認めてもらえなかった
彼らに戦友として、認めてもらえなかった