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第24話

「本選出場おめでとうございます、マジョルカさん」

「ありがとう、エイミ」

 マジョルカがハイドラゴンとともに戻ってきた。

 予選会場はまだどよめいている。

 それもそのはず予選開始三秒でハイドラゴンは勝利を収めたからだ。

 リングの端にいたハイドラゴンは、開始の合図とともに翼を大きく羽ばたかせ突風を巻き起こした。

 その突風でリング上のモンスターはすべて場外へと投げ出されたというわけだ。

「え、えー、では受付番号五十一番から九十九番までの奇数番号の方、モンスターをリングに上げてください」

「俺だな」

 番号の書かれた紙を確認する。俺の番号は五十一番だ。

「頑張ってくださいね。クウカイさん、次元竜さん」

「ああ」

『フシュー……貴様が返事をするな。戦うのは我だぞ』

 次元竜がぎょろっとした瞳で俺を見下ろす。

「わかってるよ。勝ってこい次元竜」

『フシュー……ふんっ』

 次元竜はずしんずしんと大きな体を揺らしながらリングへと赴いた。

 体に比例して態度まで大きくなってしまった次元竜。

 これで負けたら笑ってやるからな。

「では予選第二試合、始めっ!」

 マイクを持った男性が開始を宣言すると次元竜の周りを他のモンスターたちが取り囲んだ。

「おいおい、一対二十四かよ」

「でかいから目をつけられたな」

 とマジョルカ。

「大丈夫なんですか?」

「どうだろう。あいつ動きが遅いからなぁ」

 俺の声が聞こえたのか次元竜がこっちを振り向いた。

 とその時、取り囲んでいたモンスターたちが全方位から一斉に襲い掛かった。

「次元竜っ」

 すると次の瞬間、次元竜の姿が忽然と消えた。

 二十四体のモンスターたちはきょろきょろと辺りを探す。

「上よっ!」

 一人の女性が声を上げた。

 その場にいた全員の視線が上に向く。

 見上げると次元竜がまさに落下している途中だった。

 瞬間移動で空中に飛んだのだろう。

 そして、

 どすん!

 次元竜は二十四体のモンスターたちを押しつぶすようにリングに着地した。

 静寂が辺りを包む。

「あいつ、殺してないだろうな……」

 一体でも殺していたら即失格だぞ。

 次元竜は翼を動かし飛び上がる。

 魔物使いたちがそれぞれ自分のモンスターたちに声をかけると倒れていたモンスターたちがよろよろと起き上がって自分のマスターたちのもとへ歩いていく。

「見ろ。手加減はしたみたいだぞ」

 マジョルカが言う。

 魔物使いたちは勧誘の腕輪を使って自分のモンスターを回復させていた。

「勝者、受付番号五十一番クウカイさんのモンスターです!」

 マイクに乗って司会者の男性の声が会場内に響いた。


「やったな、次元竜」

『フシュー……当たり前だ』

 戻ってきた次元竜に声をかける。

「では続いて二番から五十番までの方、モンスターをリングに上げてください!」

 男性のアナウンスが聞こえた。

「私です。頑張ってね、アップル」

『グルル!』

 アップルエイプはドラミングをして気合いを入れるとリングへと上がっていく。

 他のモンスターたちもリング上に集まった。

「では予選第三試合、始めっ!」

 開始の合図を皮切りにそこかしこで戦いが始まる。

 アップルエイプは怪力を生かして次々とモンスターを場外に投げ飛ばしていった。

「わあ、すごい。アップルその調子っ」

 エイミが手を口に当て声を上げる。

「本選には俺たちみんな出られそうだな」

「……いや、それはわからないぞ」

「なんだよ? マジョルカ」

 マジョルカは難しい顔をしていた。

「あそこを見ろ」

 マジョルカがあごをしゃくる。

 エイミと俺は注意深く人ごみの中を見た。

 その視線の先にいたのは――。

「あ、あいつは……」

「あ、あの人って確か……」

「マコトだ」

 マジョルカが口にする。

 マコト。前にやり合ったことのある不気味な魔物使いの女だ。

 マコトは俺と目が合うとにやりと口角を上げた。

 あいつの主戦力のモンスターは全滅したはずだったが……。

「あいつも参加してるのか?」

「そうらしいな。ほら、エイミのアップルエイプが対峙しているブラッククロコダイルが奴のモンスターだろう」

 とマジョルカ。

 リング上に顔を向けると、アップルエイプとその倍は大きなワニのようなモンスターがにらみ合っていた。

「あのモンスター、かなりできるぞ」

「アップル、気を付けてっ」

 エイミの声が飛ぶ。

 他のモンスターたちは既に場外に落ちていて、リングにはアップルエイプとブラッククロコダイルの二体だけ。

 先に動いたのはアップルエイプだった。

 口からリンゴを吐き出すと、それをブラッククロコダイルの目を狙って投げつける。

 ブラッククロコダイルは大きな口を開けそれをがしゅっと砕いた。

 その隙に、アップルエイプは背後に回り込んで、ブラッククロコダイルの首を絞めた。

「よし、いいぞっ」

「アップルーっ」

『グルル!』

 俺たちの応援の声が聞こえたのか、アップルエイプは腕にさらに力をこめる。

 アップルエイプの腕の筋肉が隆起した。

 ブラッククロコダイルは苦しそうにもがいている。

「これ、いけるんじゃないのか?」

「そうだな」

 マジョルカがそう返した時だった。

 ブラッククロコダイルのしっぽが反り返りアップルエイプの体を突き刺した。

『グルルっ……』

「アップルっ!」

 ブラッククロコダイルはしっぽを一振りして、腕の力が抜けたアップルエイプを場外へと放り捨てる。

 床に落ちたアップルエイプに駆け寄るエイミ。

 すぐさま腕輪を押し当てて回復させた。

「し、勝者は受付番号四番のマコトさんのモンスターです!」

 勝ち名乗りを上げる男性司会者。

 するとマコトが近付いてきた。

「久しぶりやな、クウカイはん」

 俺の目を見て話しかけてくる。

「お前も来てたのか」

「そらそうや。この町で待っていればまたクウカイはんらに会えると思うておったからなぁ。うちの勘もまんざらやないやろ」

 マコトは嬉しそうに目を細めた。

「俺はお前には会いたくなかったがな」

「つれない返事やなぁ。まあそういうところもうちは好きやで」

 そう言うと俺の頬をそっと撫でる。

「こら、やめろ」

「ほなまたな、クウカイはん」

 ウインク一つマコトは去っていった。

「まったく、食えない奴だ。エイミ、アップルエイプは大丈夫か?」

「あ、はい。大丈夫です」

『グルル』

 マジョルカの問いかけにエイミとアップルエイプが答える。

 その後、予選第四試合はカティアスのスライムが勝ち残り本選出場枠はマジョルカのハイドラゴン、俺の次元竜、マコトのブラッククロコダイル、カティアスのスライムに決まったのだった。

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