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第22話

 そして翌日。

 ベンザが銀の旅団の副リーダーのカティアスに真犯人がキリートであったことを説明してくれたおかげで、俺たちは無事カムラの町を出発することが叶った。

 カティアスが話の分かる人間だったことも幸いした。

「もう行くのか?」

 とベンザ。

「ああ、お前には感謝してるよ」

「なあに、おれの方こそ感謝してるぜ。キリート団長を倒してくれたんだからな」

 ベンザは続ける。

「それにしても初めて会った時はスライムに殺されそうになってた奴があのキリート団長をな……」

「それはもういいだろ」

「えっ、何? あんたスライムに殺されそうになってたの? ダッサ~」

 シルキーが「ぷぷっ」と笑う。

「しょうがないだろ。右も左もわからなかったんだから」

 ベンザが助けてくれてなかったら今もスライムの体の中だったかもしれないんだ。ベンザには本当に感謝している。

「でも今はこいつがいるから大丈夫だ」

 俺はハピネスキングを見上げた。

『もちろんだとも』

 ハピネスキングは威風堂々立っている。

「でもこいつレベル一だよな。キンシャザの町に行くんだからもっとレベル上げといたほうがいいぜ」

「どういうことですか? キンシャザの町に何かあるんですか?」

 エイミが訊いた。

「あ? キンシャザの町に行くってことは格闘大会にあんたらも出るんだろ?」

「だからってなんでハピネスキングのレベルを上げる必要があるんだよ」

「本気で言ってんのかクウカイ? キンシャザの格闘大会はいわば魔物使いの祭典みたいなもんだろうが」

「どういうことよ」

 とのシルキーの問いに今度はマジョルカが答える。 

「言ってなかったか? キンシャザの町の格闘大会は魔物使いが育てたモンスター同士を戦わせる大会なんだよ」

「え、そうだったんですか?」

「あたしてっきり人間同士で戦うのかと思ってたわ。じゃああたしは出られないじゃない」

「そうなるな。悪い、シルキー」

 とマジョルカ。

「優勝したモンスターのマスターはどんな願いでも一つだけ叶えてもらえるらしいからな。頑張れよクウカイ!」

 ベンザに背中をばしっと叩かれる。

「お、おう」

 どんな願いでも、か……。

 不死の体を元に戻してくれって願いも有効かな?

「じゃあそろそろ行くか!」

「はい」

「はーい」

「ああ」

 マジョルカの号令で俺たちはカムラの町をあとにして、キンシャザの町へと向かって歩き出した。




「手乗りライガーかハイドラゴンどっちがいいかな……」

 マジョルカはキンシャザの町の格闘大会に出すモンスターを決めかねていた。

「ダイヤタートルと極楽鳥は駄目なの?」

 シルキーに向き直るマジョルカ。

「ダイヤタートルは守りは高いが動きが遅いし、極楽鳥はその反対で素早いが耐久性に欠けるからな。トーナメントの大会ではバランスがいいモンスターの方が有利なんだ」

 キンシャザの格闘大会はトーナメント形式らしい。

「そうなんですか。だったら私はメタリックスライムのメタリンにしようかと思ってましたけどアップルエイプのアップルに出てもらった方がいいですかね?」

「そうだな。メタリックスライムはHPが低すぎるからな、アップルエイプの方が無難だろうな」

「わかりました。頑張ろうアップル!」

『グルル!』

 アップルエイプが両手を振り上げた。

 格闘大会で優勝すればなんでも一つ望みが叶えられるらしい。

 もちろん俺の望みは安らかな死だが、果たしてそんな願いも叶えてもらえるのだろうか。

「クウカイ、お前はハピネスキングを参加させるのだろう?」

 マジョルカが訊いてくる。

「うーん、そうだなぁ……」

『主よ、吾輩では不満か?』

「いや、不満てわけじゃないけどさ……」

 ハピネスキングは確かに強いが、マジョルカのモンスターとあたったら勝てる気がしない。

 レベルを上げるなり合成するなりしないと優勝は難しいだろう。

「キンシャザの町付近には夜になるとドラゴンがわいて出てくる。そこで大会が始まるまでレベル上げをするといいさ」

「そうですね。私そうします」

 エイミが力強くうなずいた。

 俺たちはキンシャザの町に向かって歩いている途中だ。

 マジョルカ曰く、キンシャザの町には遅くとも夜までには着けるだろうとのことだ。

「ねぇマジョルカ、ここら辺でちょっと休憩しない? あたしお腹すいちゃったわ」

「あ、実は私もです」

「そうか。クウカイはどうだ?」

「賛成だ」

 お腹はともかく足の方が限界に近い。

 相変わらずの体力のなさに改めて四十二歳という現実を痛感する。

 日差しが強いので俺たちは大きな木の影に腰を下ろした。

「いい天気ですねー」

「いい天気過ぎよ、まったく」

 シルキーはシャツをぱたぱたと揺すっている。

「二人とも、ほらっ」

 マジョルカが木になっていたカジュの実をもぎとるとエイミとシルキーに投げて渡した。

「クウカイもほらっ」

「おお、サンキュ」

 俺もそれを受け取るとかじりつく。

 水分が多くて喉が潤う。

 モンスターたちは自分で高いところにあるカジュの実を採って食べていた。

「ハピネスキングさんはランクNでしたよね。ランクZのモンスターがどういうものか知っているんですか?」

『吾輩に訊いているのか?』

「はい」

『残念ながら吾輩は知らないな』

 エイミの問いにハピネスキングが首を横に振る。

「そうですか~。でも少しずつランクZに近付いてきてますよね、マジョルカさん」

「そうだな。この分だとランクZのモンスターを見ることが出来るのも時間の問題かもな」

「それはいいが俺の体のことも忘れないでくれよな」

 ランクZのモンスターを見せる代わりに俺の不死の体をどうにかして元に戻すという約束のはずだ。

「わかっているさ。その件はわたしに任せておけ」

 マジョルカはカジュの実をつぶして果汁を飲み干すと口を拭った。

 マジョルカはそう言うが本当に俺の体を元に戻そうとしてくれているのだろうか。

 というのももし俺の体が元に戻ったらもう復活出来ない以上モンスター同士の合成は出来なくなる。

 つまりランクZのモンスターを拝むことも出来なくなるってわけだ。

 マジョルカがそのことに気付いているのかはわからない。

 気付いていなければいいのだが。

「キンシャザの格闘大会にはそのために出るようなものだからな」

「ってことはマジョルカが優勝したらクウカイの体を治してほしいって願うの?」

 シルキーがマジョルカを見る。

「ああそうだ」

「マジで? もったいないわね~。十中八九マジョルカの優勝なんだからもっと有意義なことをお願いすればいいのに」

「いいんだよ。クウカイのおかげで所持金はたんまりあるし、他の願い事も特に思いつかないからな」

「じゃあ私ももし優勝出来たらクウカイさんの体を元に戻してほしいってお願いします」

 とエイミが俺の方を向いた。

「ありがとうエイミ。マジョルカも」

「はぁ~、あんたたちってほんと欲がないっていうかつまらないっていうか……」

 呆れたように言う。

 シルキーにはなんとでも言わせておけばいいさ。

「さあそろそろ出発するぞっ」

 マジョルカは立ち上がると声を上げる。

 俺たちもそれに倣い立ち上がると、再度キンシャザの町を目指して歩を進めた。


 マジョルカの言う通り、俺たちは夜になる前にキンシャザの町に到着した。

「キンシャザの町にようこそ。あなたたちも格闘大会に参加するために来たの?」

 町の入り口にいた女性が俺に話しかけてきた。

「ええ、そうですけど」

「だったら早く受付でエントリーを済ませたほうがいいわよ。大会は明日だけど受付は今日までだから」

「あ、そうなんですか。親切にどうも」

 俺は会釈をして去ろうとするが、

「優勝したらどんな願い事でも叶うのよ。あなたは何を願うつもり?」

 人と話をするのが好きなのだろうか、女性はなおも話し続ける。

「あー、えっと……」

 俺の願い事は俺の秘密に直結するから軽々には話せないのだが。


 俺が戸惑っているとマジョルカが口を挟んできた。

「願い事っていうのは国王が聞いてくれるのか?」

「いいえ、黄金の聖杯に願いを叶えてもらうのよ」

 と女性が返す。

「黄金の聖杯?」

「そう、黄金の聖杯に水をなみなみと注いで願うの。そうするとどんな願いだって叶うのよ」

「嘘っぽいわねー」

「嘘じゃないわよ、わたしもこの目で見たことあるんだからっ」

 シルキーの言葉に女性は大きく首を横に振ってから自分の目を指差した。

「その人は大金持ちになりたいって言ったの、そしたら沢山の金貨が空から降ってきたのよ」

「わあ、すごいですっ」

 エイミが手を揃えて感心する。

 願いってそんな非科学的な方法で叶うのか?

 俺が思っていたのとはだいぶ違うぞ。

 ……まあ、異世界に不死の体で飛ばされてる時点で、科学もくそもあったもんじゃないのだが。

 しかし、そういうことなら話は別だ。

 国王に叶えてもらうような願いと違ってマジでどんなことでも叶いそうじゃないか。

 だとしたら俺の体を治すことだって夢じゃないかもしれないぞ。

 俄然やる気がわいてきた。

「俺ちょっと外でレベル上げしてくるわ」

「おい、クウカイっ……」

「俺の分の受付もやっておいてくれっ」

 マジョルカたちにそう言い渡し俺はハピネスキングとともに町の外に戻った。

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