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第21話

 瞬間移動した先に待っていたのはマジョルカたちだった。

 キリートはハピネスキングから剣を引き抜き蹴り飛ばす。

「……本当に瞬間移動したようですね」

 周りを見渡しながらつぶやく。

「クウカイ、大丈夫かっ」

「クウカイさん!」

「ハピネスキングが刺されたっ、どうすりゃいい!」

「早く勧誘の腕輪を使いなさいよっ」

 シルキーの言葉ではっと我に返った俺はハピネスキングに駆け寄ると腕輪を押し当てた。

 キリートに刺された傷が治っていく。

「マジョルカっ。あいつは俺たち全員を殺す気だぞ!」

「団長の職業はおれと同じ剣聖だがレベルは三六五だ! こっからどうすんだ、なんかプランはあるんだろうな、クウカイ!」

 ベンザが声を上げた。

「三六五だって!? 聞いてないぞそんなの!」

「ふふふっ、ちょうどいいことに僕の正体を知っている人たちが揃っているじゃないですか。すみませんが全員死んでもらいますよ」

 剣を振り払いすたすたと近付いてくるキリート。

「エイミはモンスターたちと一緒に下がっていろ! シルキーはエイミのそばにいてくれ、ここはわたしのモンスターが相手をする!」

 マジョルカはそう言うと四体のモンスターに合図をした。

 ダイヤタートルと手乗りライガーとハイドラゴンと極楽鳥がキリートに向かっていく。

 キリートの剣を避けつつ炎を吐き対抗するモンスターたち。

 マジョルカのモンスターはどれも最強クラスに強いはずなのに、それを四体相手に一人で互角に渡り合っているキリート。

「くそ、埒が明かねぇ。おれも行くぞっ!」

 ベンザも剣を抜き駆け出した。

 すごい戦いを前に俺はすることが何もない。

 かかしのように突っ立っている。

『主よ、吾輩たちはただ見ているだけか?』

「仕方ないだろ、俺たちが出ていっても足手まといになるだけだ」

『吾輩の主は情けないことを言うのだな』

「俺は事実を言ったまでだ」

 それに五対一だ。さすがになんとかなるだろう。

 そう思っていたのだが……。

 どさっ。

 極楽鳥が片方の羽を斬られ地面に落下した。

 腕輪を使って回復させようにもマジョルカは近付けないでいる。

 一体減ってパワーバランスが崩れたのか徐々にキリートがおしてきた。

 なんて奴だ……。

 レベル365は伊達じゃない。

「どうしました? 全員でかかってきてもいいんですよ」

 薄ら笑いを浮かべるキリート。

 息を切らしているもののまだ余裕がありそうだ。

 どうする?

 マジョルカのモンスターたちで歯が立たないならどうしようもないぞ。

 とそこへ、

『主よ、吾輩にいい考えがあるのだが』

 ハピネスキングが話しかけてきた。

「なんだよ、いい考えって?」

『それはだな、まず吾輩と主が手をつなぐのだ。そして吾輩がキリートの背後に瞬間移動するから主はキリートの腕を掴む、掴んだら瞬間移動で上空一万メートルの高さまでとぶ。そして主はキリートから手を放し再度瞬間移動で地上へと戻るのだ。上空一万メートルから落下すればキリートも無事ではすむまい』

 腕組みをし、うんうんうなずくハピネスキング。

「それって俺必要か?」

『もちろんだとも。吾輩一人では地上に瞬間移動して戻る時キリートにしがみつかれる可能性があるだろう。そうならないように間にかませるものが必要なのだ』

「それが俺かよ」

 と言ってる間にもベンザがキリートに吹っ飛ばされてきた。

「おい、大丈夫か? ベンザっ」

「……」

 気を失っているようだ。

 マジョルカのモンスターたちを見ると三対一ながら劣勢に追い込まれている。

 やれやれ……上手くいくかわからないがやってみるか。

「わかったよ」

 俺は右手を差し出した。

『うむ』

 ハピネスキングが俺の手を取る。

 しっかりと握手をしたまま

 ハピネスキングが唱えた。

『瞬間移動!』


 ハピネスキングと手をつないだ俺はキリートの背後に瞬間移動で回り込んだ。

 すかさずキリートの腕を掴む。

「なっ!? あなたはっ……!」

 キリートが振り向くが、

「いいぞ、ハピネスキング!」

『承知。瞬間移動!』

 ハピネスキングが唱えた。

 その刹那、目の前にぱっと青空が広がった。

 雲が足元にある。

 俺たちはキリートを連れて上空一万メートルに瞬間移動することに成功した。

「ここは、雲の上……!」

「ああそうだ。いくらお前でもこの高さから落ちたら死ぬだろ」

「くっ……しかしそれはあなた方も同じでしょう。僕はあなたを放しませんよっ」

 そう言うとキリートは俺の腕をがしっと掴んだ。

「ぐあっ」

 指が肉にめり込む。

「さあどうしますか、そのモンスターが瞬間移動をすれば僕も一緒に助かります。しなければ全員地面に落ちて死にますよっ」

 ハピネスキングが予期していた通りの展開になった。

 この後はどうするんだ、ハピネスキング。

 俺はハピネスキングを見た。

 するとハピネスキングは、

『主よ、申し訳ない』

 俺とつないでいた手を放しながら俺を足蹴にして距離を取った。

「いてっ、おいこらっ……」

『主よ、下で待っている。さらばだ』

「待てって……」

『瞬間移動!』

 目の前からハピネスキングが消えた。

「あっ、俺を置いてくなっ……」

「なっ!? あ、あのモンスター、主人であるクウカイさんを見捨てて、いきやがった……」

 キリートがわなわなと震えている。

 もう助からないと悟ったショックからか言葉遣いが乱暴になる。

「ど、どういうことだこれはっ! なんであいつは貴様を見捨てていったんだっ!」

 すごいスピードで落下しながら俺に掴みかかってくるキリート。

 俺の体をぶんぶん揺する。

「バカ、やめろっ。気持ち悪いっ」

「知ったことかっ! 貴様はこれからどうするつもりだっ、何か作戦があるんだろっ、言えっ!」

「何もないって。俺たちはこのまま落ちて死ぬだけだ」

 まあ不死の俺はすぐよみがえってしまうのだろうが。

「くっ……ふ、ふざけるなっ!」

 キリートは持っていた剣を俺の心臓に突き刺した。

「ぐはっ……!」

「くそっ、こんな奴と心中してたまるかっ! オレ様はレベル三六五の剣聖だぞ、生きてやるっ!」

 剣を引き抜き地面に向かって振り下ろすと何やらぶつぶつと唱えている。

 地面までもうあまり距離がない。

「もしかして何か助かる方法でもあるのか?」

「何っ!? な、なんで貴様生きているんだっ、心臓を一突きにしたはずだぞっ!?」

 キリートが振り向いた。

 驚愕の顔を浮かべている。

「ああ、俺は死なないんだ。それより何かしようとしてただろ」

「死なないだと!? バカなことを言うなっ!」

 今度は胴を真っ二つに斬られた。

 だが瞬時に生き返る。

「な、何者だ貴様っ!?」

「その剣で何かしようとしてたよな」

「えーい、剣から手を放せ、邪魔をするなっ!」

「ぐあっ……!」

 俺は蹴り飛ばされてしまった。

 その衝撃で俺はキリートより早く地面に激突した。

「クウカイさんっ」

「生きてるか、クウカイっ」

 エイミたちの声が聞こえる。

 俺はむくっと起き上がると返事をした。

「ああ、生きてるよ」

 いっそ本当に死ねたらよかったのにな。

 そして次の瞬間、

 ドォン!!

 爆音と砂煙が舞った。

 キリートが落下してきたのだ。

『生きているのだろうか? 主よ』

「さあな」

 剣を使って何かやろうとしていたようだったが果たして間に合ったのか……。

 すると砂煙の中から、

「……こほっ、こほっ……」

 キリートのシルエットが見えてくる。

「まだ生きてるぞっ」

 マジョルカのモンスターたちは腕輪の力で回復して戦闘態勢をとっている。

 砂煙が晴れてキリートが姿を現した。

「ギ、ギリギリだったがなんとか、助かった……ぞ」

 キリートはボロボロになりながらも俺の方に向かってくる。

「クウカイ、貴様……許さ、ん……」

 どさっ。

 キリートが顔から地面に突っ伏すようにして倒れこんだ。

「あれ? も、もしかして死んだのか?」

『いや、気絶しただけだろう』

 ハピネスキングが返す。

「おい、クウカイ。何がどうなってやがるんだ?」

 するとそこにさっきまで気絶していたベンザが起きてきた。

 近付いてきて説明を求めてくる。

「えーっと、どの辺りから見てた?」

 ベンザは俺が不死身だってことは知らない。

 出来れば隠し通しておきたいが。

「はぁ? キリート団長が地面に落ちたとこだけどよ。それがどうした?」

「いや、それならいいんだ。とにかくキリートの奴は倒したから後はベンザが上手くやってくれると助かる」

 俺は今のところ牢屋から脱獄した殺人犯てことになってるからな。

「うーん……まあいいぜ。任せとけっ」

 とベンザが言う。

 あまり物事を深く考えない奴でよかった。

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