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第20話

「死んでいる、だって……?」

 その時だった。

 銀色の鎧を着た男たちがドドドっと部屋になだれ込んできた。

「おおうっ!? なんだよあんたらっ!?」 

「我々は銀の旅団だ! 抵抗するな!」

「はっ? ちょっと待てよ、一体どういう、いてっ!」

 俺は数人の男たちによって組み伏せられてしまう。

「おい、どういうことだよっ?」

「貴様をここにいるガンツ殺害の罪で拘束する!」

「ちょっと待てって、俺はやってないっ」

「黙れ!」

「いててっ」

 関節を決められ身動き出来ない。

『主よ、この者たちを倒してもよいか?』

 ハピネスキングが構えるが、

「いや駄目だ。お前は手出しするな」

 事態がより悪化する気がする。

 とにかくこれは何かの誤解だから、無駄に抵抗せずおとなしく従った方がいいかもしれない。

「お前はこのことをマジョルカたちに伝えてくれ、頼む」

『承知した』

 ハピネスキングにそう言い残し、

「ほらさっさと歩け!」

 俺は男たちに連行された。


 俺が連れられてきたのは銀の旅団本部の地下にある牢屋だった。

「俺は殺しなんてやってない」

「どうだかな。貴様の仲間の女が昨日酒場でガンツに絡まれていただろう、ええ?」

「だからって――」

「ガンツは貴様の部屋で死んでいたんだぞ!」

「だから知らないって言ってるだろっ」

 鉄格子越しに銀の旅団の男と押し問答を繰り返していると、カツカツと靴音が聞こえてきた。

 音のする方を見て銀の旅団の男は身をただす。

「キ、キリート様っ!?」

「ご苦労様。きみはもう行っていいですよ」

「はっ」

 入れ違いに牢屋の前にやってきたのは銀の旅団のリーダー、キリートだった。

 中性的で整った顔立ちに長い手足。

 俺もこんな風に生まれたかったな。

「大丈夫ですか? 部下が手荒な真似をしたのだとしたら謝ります」

「いや、そんなことよりここから出してくれ。誤解なんだ」

「うーん、しかし現状ではあなたが緑の蟷螂軍のガンツさんを殺したという状況証拠が揃っていますし……」

 キリートは残念そうにうつむく。

「証拠って……そもそも銀の旅団はなんでいきなり俺の部屋に来たんだ? おかしいだろ?」

「うちのクランにあなたの部屋で殺人があったと連絡が入ったのですよ」

「だったらその連絡をした奴を捜してくれ、そいつが俺をハメたんだって」

「ハメた?」

「ああ、きっとそうだ」

 俺は自殺願望はあっても殺人願望は微塵もない。

「あなたはマジョルカさんの仲間でしたね」

「ああ。クウカイだ」

「クウカイさん……うちのクランに連絡をした人間を捜す必要はありませんよ」

「なんでだよ? 絶対そいつが怪しいだろうが」

 するとキリートは俺の目をしっかりと見据えて言った。

「だってその連絡をしたのは僕なのですから」


 何……?

 今なんて言った、こいつ?

 俺は鉄格子越しに不敵に笑うキリートを見て固まった。

「以前からガンツさんの行動には目に余るものがありました。そこにきて昨日の一件です。なのでガンツさんには僕が罰を与えました」

「……お前が、殺したのか……?」

「ああいう人種は口で言ってもわかってくれませんから」

 悪びれた様子は一切見せずキリートは涼しい顔で佇んでいる。

 確かにガンツの行動にはむかついたが、だからって殺すなんて……。

「……なんで俺の部屋にガンツの死体を置いたんだ?」

「だってあなたは仲間の女性が絡まれているのに何もしようとしなかったじゃありませんか。僕はそういう人間も嫌いなのですよ」

「いや、それは俺が魔物使いだからやり合っても勝てないし……ってそうだ! 俺は魔物使いなんだからガンツみたいな大男殺せるはずないだろっ」

 そうだ。

 そう主張すれば誰だって俺が犯人じゃないとわかってくれるはずだ。

「でしたらクウカイさん、あなたのモンスターも殺人の共犯として捕まえましょう」

「なっ……!」

「ではこれから僕が直々に捕獲してきます。といっても抵抗されたら殺してしまうかもしれませんけどね」

 涼やかな笑みを見せながらキリートは去っていった。

 まずいぞ。

 ハピネスキングは今どこにいるんだ。

 マジョルカたちと一緒にいるのか?

 とにかくキリートが真犯人だってことを伝えないと。

 ……いやその前にハピネスキングをどうにかしないと殺されてしまう。

「ハピネスキングっ……」

 と、

『呼んだかな? 主よ』

 ふいに背後から声がした。

 後ろを振り返ると、暗がりの中からハピネスキングが姿を見せた。

「なっ、お前!? なんでこんなとこにいるんだっ?」

『忘れたか。吾輩には瞬間移動があることを』

 ハピネスキングが悠然と語る。

『主がガンツとやらを殺していないことはわかっている。そもそも非力で臆病な主に人は殺せまい。よって助けに来た』

 非力で臆病って……。

「マジョルカたちには俺が捕まってること伝えてくれたのか?」

『もちろんだとも。みな吾輩と同じ考えだ』

 仰々しく親指で自分を指差すハピネスキング。

『さあ吾輩の手を取るのだ、主よ。瞬間移動で脱出する』

 ハピネスキングは手を差し出してくるが、

「……いや、ちょっと待ってくれ」

 このまま脱獄なんかしたら取り返しのつかないことになるんじゃないか……?

 俺はこの世界で殺人を犯した逃亡犯として逃げ回ることになってしまうのでは。

「ハピネスキング。頼みがあるんだが……」


 そして一時間後、カツカツと聞き覚えのある靴音が牢屋に届いてきた。

「クウカイさん。あなたのモンスターはどこにもいませんでしたよ、どうやらあなたを置いて逃げたようですね」

 キリートが鉄格子越しに俺の前に立つ。

「そうかい。残念だったな」

「別に構いませんよ。あんなモンスターの一匹くらいどうとでもなりますから。それよりあなたの処遇ですがガンツさん殺害の罪で公開処刑となりました」

「白々しい。俺がやってないことはお前が一番よくわかってるだろ」

「ふふふっ。そうですね」

 キリートは微笑んだ。

「お前、どうせ今回が初めてじゃないんだろ。ガンツ以外にも殺してるんじゃないのか?」

「だったらどうだというのですか。社会のゴミを掃除しているだけですよ。僕の存在はいわば必要悪なのです」

 キリートにここまで言わせれば充分だろう。

「だそうだ。聞いたかベンザ」

「ベンザ? ベンザさんはここにはいませんよ。ここには僕とあなたの二人きりです」

「……いや、ここにいるっすよ。キリート団長」

 牢屋の奥の暗がりから出てきたのはベンザだった。

「ベンザさん!? なんでここに?」

 キリートが驚きの声を上げる。

「こいつに連れてこられたんす」

 ベンザは牢屋の奥を指差した。

 すると暗がりからハピネスキングも姿を見せる。

「クウカイさんのモンスター!?」

「さっきの話はどういうことっすか、キリート団長っ」

「ふふふっ、なるほど……僕はあなたにしてやられたというわけですね」

 顔を押さえ静かに笑うキリート。

「俺のモンスターは瞬間移動出来るんだ。さあ、お前の企みはこれで崩れたぞ。マジョルカたちも真相を知っているしな」

「……そうですか。しかし少々計画が狂いましたがあなた方全員を殺せば済む話ですよね」

 キリートは俺と目を合わせて言った。

 その目は信念を貫き通そうとする目をしていた。

 そして次の瞬間――

 すぱっ。

 キリートが腰に差していた剣を抜き鉄格子を一刀両断する。

「っ!」

「クウカイ、団長はマジでおれたちを殺す気だぜ!」

『二人とも吾輩に触れるのだ、早くっ』

 ハピネスキングが両手を広げた。俺たちを連れて瞬間移動するつもりだ。

 俺とベンザはハピネスキングの腕を掴む。

「行け、ハピネスキング!」

「逃がしませんよっ」

 キリートはハピネスキングめがけて剣を突き刺した。

 ぐさっ。

 その時俺の目にはハピネスキングの体にキリートの剣が貫通するのがスローモーションのように映っていた。

 そして、直後ハピネスキングは俺とベンザとキリートを引き連れ町の外に瞬間移動した。

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