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第17話

 爆発の威力をもろに受けた俺は瞬間的に死に、そして生き返った時には半透明のスライムは地面の上にばらばらに散らばっていた。

 圧倒的な威力に耐え切れず内部から破裂したようだった。

「……キラークイーン……」

 俺はつぶやく。

 キラークイーンは自爆して跡形もなくなっていた。

「俺のために……」

 死を選んだのか……?

 ぱらぱらと壁面が崩れ落ちる中、呆然と立ち尽くす俺。

 すると、

『シュー!』

 と呼吸音のような鳴き声が聞こえた。

 俺は声のした方を見た。

「!」

 そこには一センチにも満たない蜂を模した人型のモンスターがいた。

 俺はすぐさまステータスを確認する。

【ベビークイーン ランクH 特技 毒針】

「……は、ははっ」

 こいつはキラークイーンの生まれ変わりか、それとも忘れ形見か。

 俺は声を震わせながら、

「……ベ、ベビークイーン」

 と呼んでみた。

『シュー!』

 俺を見上げ元気よく返すベビークイーン。

 そして羽を器用に動かし飛び上がると俺の肩の上に乗った。

「ベビークイーン…………も、戻ろうか」

『シュー』

 ランクが落ちて喋れなくなってしまったが、それでもキラークイーンの面影のあるベビークイーンを連れ、俺は解呪の洞窟をゆっくりと歩き出した。


「すまんかった! この通りじゃ!」

 占いの館に結果を報告しに行ったところ、おばあさんは俺に土下座をして謝罪した。

「解呪の洞窟の水に触れてもなお生き返ったということはお主の体は呪われているわけではなかったということじゃ。わしの見立てが違っておったせいで仲間のモンスターを死なせてしまうとは……本当に申し訳ない!」

「いや、やめてくださいよ。その可能性も分かっていた上で自ら進んで行ったんですから」

「そうだぞ、グランばあさん。さあ早く立ってくれ。そんなことされたらクウカイが困るだろ」

 マジョルカがおばあさんを無理矢理立たせる。

「ではせめてもの罪滅ぼしじゃ、今晩はうちに泊まっていっとくれ。それぐらいはええじゃろ。なっ」

 おばあさんがすがるように俺の腕を掴むので断り切れなかった俺は「は、はい。じゃあお言葉に甘えて」と返事をした。

 マジョルカを先頭に階段を上がる俺たち。

 占いの館の二階部分はおばあさんの居住スペースになっていてかなり広々としていた。

「宿屋代一泊分浮いたしラッキーね」

 ソファにどさっと腰掛けるシルキー。

「不謹慎ですよシルキーさんっ」

「何よ、湿っぽい空気だったからよかれと思って――」

「いや、いいんだエイミ。シルキーも気にするな」

 キラークイーンがいなくなってしまったのは悲しいがお葬式みたいなムードはごめんだ。

 それにベビークイーンもいるんだし。

「クウカイさん……」

「べっつにあたしはもとから気にしてないわよっ……」

 シルキーは頬を膨らます。

「さあっ、これからどうするかを話し合うからみんな耳を貸してくれ」

 マジョルカは手を叩くと声を上げた。

「どうするかって何よ?」

「次に行く町の候補が三つあるんだがどこに行くか多数決で決めてもらう」

「三つもあるんですか?」

「ああ。どれもここから同じくらいの距離だから正直どこから行ってもいいんだが、たまにはリーダーらしくみんなの意見も聞こうと思ってな」

 みんなの顔を順々に見ていくマジョルカ。

「一つ目の候補はキンシャザの町、ここでは毎年格闘大会が開かれているんだ。二つ目はカムラの町、大きい町だから沢山のクランの本拠地になっている。あの有名な銀の旅団の本拠地もあるぞ」

 銀の旅団?

 なんか聞いたことあるような……。

「そして三つ目だがオージョレの町だ。前二つに比べるとかなり小さな町ではあるが自然豊かでいいところだ。ちなみにわたしの故郷でもある」

 マジョルカは続ける。

「ってなわけでどの町がいいか挙手してくれ。ではまずはキンシャザがいい奴?」

「……」

 誰も動かない。

「じゃあカムラの町がいい奴?」

「はーい」

「はい」

「……俺も」

 シルキーとエイミが手を上げた。

 俺は二人が上げたのでなんとなくそれに倣う。

「カムラの町に決まりね」

「まだ途中だぞシルキー。では最後のオージョレの町がいい奴手を上げてくれ」

 マジョルカが手を上げながら言った。

「途中も何ももう――」

 するとマジョルカのモンスターたちも四体揃って手を上げた。

「よし、五対三でオージョレの町に決まりだな」

「ちょっと何よそれ、反則でしょっ」

「なんでだ? モンスターが手を上げてはいけないなんて言ってないぞ」

 とぼけた顔をするマジョルカ。

「多数決とか言って初めっから自分の故郷に行くつもりだったんでしょっ」

「決まったことに文句を言うなシルキー。さあ、グランばあさんが夕飯を用意してくれているはずだからエイミ、クウカイ食べにいこうか」

 言うなりマジョルカは部屋を出ていった。

「あっちょっとまだ話は終わってないわよっ……」

 シルキーの声は閉められたドアにぶつかってかき消えた。


「皆の衆、達者でな」

「グランばあさんもまた会いに来るまで生きてなよ」

 翌朝おばあさんに見送られてエスターの町をあとにした俺たちは、マジョルカの故郷でもあるオージョレの町に向かって歩き出した。

「オージョレって何があるわけ? 小さい町なんでしょ」

 荒野を行く道中シルキーが訊く。

「言っただろ。自然豊かな町だ」

「それだけ?」

「ああ」

「なあ、俺の体の件はどうなってるんだ? そこにも不死の体を治せそうな奴はいるのか?」

 俺は肩の上にベビークイーン、頭の上にはラッキースライムを乗せながらマジョルカに顔を向けた。

 マジョルカは俺の体を治す手伝いをする、俺はマジョルカにランクZのモンスターを見せてやる、そういう約束の下一緒に行動しているわけだが。

「いや、オージョレにはそんな奴はいないぞ」

「なんだそれ」

 じゃあなんのために俺たちはオージョレに向かって歩いているんだ?

「マジで何しに行くのよ?」

「お前たちを親父とお袋に会わせたいと思ってな」

「マジョルカさんのお父さんとお母さんにですか?」

「ああ。会ってくれるか? エイミ」

「もちろんですよ」

 エイミは力強くうなずいた。

「え~、面倒くさいわ」

 シルキーがぼやく。

 俺も同意見だ。

 他人の親に会うなど緊張しかない。

「そんなこと言わないでください。きっと楽しいですよシルキーさん」

「楽しいわけないでしょ。あんたどういう神経してるのよ」

「マジョルカさんのご両親ですよ。どんな方々なのか興味あるじゃないですかっ」

 エイミがシルキーの腕をゆさゆさ揺する。

「わかったから放してよ、うっとうしい」

「クウカイはどうだ? 会ってくれるか?」

「うん? あ、ああ。そうだな、もちろん」

 会うのは嫌だがそう言ってエイミに絡まれるのもまた面倒だ。

 どうせ俺が何を言ってもオージョレには行くことになるのだろうし、遠い親戚と会う時みたいにだんまりを決め込んでおけばいいだろう。

「サンキュー、クウカイ。実家に帰ったらわたしの手料理を食べさせてやる。期待してろよ」

 マジョルカは俺の背中をぱんと叩くと歩くスピードを速めた。


 辺りが暗くなってくると、俺たちはいつもの如く野宿の準備を始める。

 マジョルカがテントを組み立て、シルキーと俺で薪と食材を調達し、エイミが食事を作る。

 今日はエスターの町を出たばかりなので食材は買っておいたものを使った。

「おっ、今日はカレーか?」

 マジョルカが鍋を覗き顔を明るくする。

「はい、そうです」

「あたしカレー大好き。クウカイが仲間になって唯一よかったことはカレーの存在を教えてもらったことね」

 とシルキー。

 もともとこの世界にカレーなどなかったのだが、俺が作ったものを食べさせたらみんなの好物になったのだ。

 伊達に年中家にこもっていたわけではない。カレーならスパイスから作れるくらいの腕はある。

 俺が料理番のエイミに作り方を教えてやってからは、食材が揃っていれば必ずと言っていいほどカレーが出てくるようになった。

 晩ご飯の後は風呂だ。

 湖や川などの水を岩を積んでせき止め、炎で熱する。

 この時に活躍するのがマジョルカのモンスターたちだ。

 ダイヤタートルが水中で岩を動かし、手乗りライガーが炎を吐く。

 女性陣が風呂に入る際は俺は木に縛られる。

 なぜかというと、前に一度用を足しに立った俺が着替えているシルキーの下着姿を偶然見てしまったからだ。

 だから俺は文句も言わず今も木に縛られている。

 ……あの時は本当の本当に殺されるかと思った。

「風呂あいたぞ」

 マジョルカが草むらから出てきた。

「いつも先に入ってすみません、クウカイさん」

「いいのよ、こいつは最後で」

 後に続いてエイミとシルキーもやってくる。

 みんな髪が濡れて髪型が普段とは違うからいつもながら風呂上りは不思議な感じがする。

 エイミにロープをほどいてもらってから俺はモンスターたちと風呂に入った。

 そしてテントに戻ると三人はもう寝ていた。

 これもいつものことだから気にはしない。

 マジョルカのモンスターが女性陣が寝静まっているテントの前で交代で夜の見張りをしているのだが、やけに俺をじろじろと見てくる。

 俺じゃなくて野生のモンスターを警戒しろよな。

「はぁ……おやすみ」

 俺は自分のテントに入って横になるとベビークイーンに一言言ってから目を閉じた。

 ちなみにラッキースライムは『オスと一緒は断る』と言うので向こうのテントに邪魔している。


「おい、起きろクウカイ。朝だぞ」

 テントの外から鳥のさえずりとマジョルカの声が聞こえてきて、俺はいつものように目覚める。

 エイミが用意してくれていた朝ご飯を食べるとまた旅の再開だ。


 俺たちは昼過ぎにマジョルカの故郷オージョレに着くことが出来た。

「わあ、ここがマジョルカさんの故郷なんですね」

「ちっさい町ねー。っていうかこれ町なの?」

 マジョルカからは町だと聞いていたが一見したところ町というより村と言った方がしっくりくる。

 家々の周りには田畑があり、家畜の姿もちらほら見える。

「早速わたしの実家に行くか」

 マジョルカは先頭切って歩き出した。

 すると、

「マジョルカじゃないか、帰ったのかい?」

「おんや、マジョルカ。久しぶりだね~」

「マジョルカ姉ちゃんだー!」

「マジョルカ、うちに寄っていきなよ」

 行きかう村人から声をかけられるマジョルカ。

「マジョルカさん人気者ですね~」

「そんなんじゃないさ。ここの人間は自給自足で生活してるから外の人間が物珍しいだけだよ」

「そうなんですか。それにしてもマジョルカさんのご両親に会えるの私楽しみですっ」

「あたしは全然楽しみじゃないけどね」

「まあ、そう言うなシルキー。お前たちを紹介しておきたいんだ」

 言うとマジョルカは一軒のボロ家の前で立ち止まった。

「ここがわたしのうちだ」

「何ここ、お化け屋敷?」

「シルキーさん、失礼ですよ」

「いやいいんだエイミ。実際何年も手入れしていなかったんだからな」

 何年も手入れしていない?

「ただいま!」

「お邪魔します」

 俺たちはマジョルカの家に入る。

 そしてそのまま家の中を突っ切って裏口へと案内された。

「ちょっと、マジョルカどこ行くのよ」

「ご両親に挨拶しなくていいんですか?」

「こっちにいるんだよ」

 マジョルカは笑顔で返す。

 裏口のドアを開けると、エイミとシルキーは押し黙ってしまった。

「親父、お袋。今帰ったよ」

 なぜなら「こっちだ」とマジョルカに連れていかれた裏庭にあったのは、二つの墓だったからだ。

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