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第14話

「おいクウカイ、朝だぞ起きろ」

「ん……んん……」

 目を開けるとマジョルカとエイミの顔があった。

「本当に公園で野宿したんだな」

「……ああ、まあな」

「寒くなかったですか?」

「大丈夫だ」

 昨日買ったマントが意外と暖かかったから快適に眠れた。

「シルキーはどうした?」

「あそこにいるぞ」

 あごをしゃくるマジョルカ。

 見るとシルキーが水道の陰に身を隠すようにしてこっちを見ていた。

「何してるんだ? あいつ」

「そいつの臭いがきついんだそうだ」

『我ですか? 失礼なお嬢さんですねっ』

 むくろ男爵が憤慨する。

 俺は一晩中一緒にいたのでだいぶ慣れたが、それでもむくろ男爵は臭い。

 早いとここいつを何かと合成させてアンデッド以外のモンスターにしないとな。

「ねぇ! そいつ、野生に返しなさいよっ!」

 シルキーが向こうの方で声を上げた。

『なんと無礼な、我を野に放つですって』

「それはやめておこう、せっかくのランクKのモンスターだ。シルキーもこっちに来いっ」

 マジョルカが返す。

 このクランのリーダーはマジョルカなのでマジョルカの言うことは絶対だ。

 シルキーはこれみよがしに鼻をつまみながら近付いてくる。

「クウカイ、さっさとそいつ合成しちゃってよねっ」

「あいよ」

 俺だってそうしたいと思ってるさ。

「わたしはこれからマゼフじいさんに挨拶にいってくるがお前たちも来るか?」

「俺はすぐにでもレベル上げとアンデッド以外のモンスターを仲間にしたいからパスだ」

「あたしもパス。あのじじい嫌いだもん」

「私も遠慮してもいいですか」

「なんだ、エイミもか?」

「すみません、私のモスクイーンはまだレベル1なのでレベル上げをしておかないとみなさんの足を引っ張ってしまいますから」

「そうか。じゃあわたし一人で行ってくるからみんなは町の外で自由にやっててくれ」

 そう言うとマジョルカは四体のモンスターを連れ井戸の方に向かっていった。

「エイミはあたしよりレベル高かったわよね。だったらモスクイーンよりもっと強いモンスターを仲間にした方がよくない?」

「え、ええ。それはそうなんですけど……みね打ちが使えるモンスターがいなくなってしまったので新しく仲間にするのが難しくなってしまって」

「クウカイ、あんたのモンスターみね打ち使えるでしょ。手伝ってやりなさいよっ」

 シルキーはびしっと俺を指差す。

「ああ、それは全然構わないけど」

 シルキー相手ならいざしらずエイミの力になれるのなら喜んで引き受けようじゃないか。

「いいんですか? クウカイさん」

「当たり前だろ」

「あたしもついでだから久しぶりにレベル上げしようかしら」

 腕まくりをしながらやる気を見せるシルキー。

「この辺りはメタリックスライムが結構出るからレベル上げにはうってつけだしねっ」

 そう言うなりシルキーは町の外に向かって駆け出した。

「あっ、待ってくださいよシルキーさんっ」

 エイミと俺は後を追った。


 シルキーの言う通り、ウェゴの町周辺にはメタリックスライムが大量にいた。

 だが逃げ足が速いためなかなか仕留めきれない。

 そんな中、シルキーは持ち前の素早さで次々とメタリックスライムを狩っていった。

 レベル77の盗賊は伊達じゃない。

 シルキーのおこぼれにあずかるように俺とエイミもレベルを上げていく。

 そしてみね打ちを利用しながらモンスターも仲間にしていった。

 エイミは思い入れがあるらしくまたもアップルエイプとキュアスライムを仲間にすると、さらに粘りに粘ってメタリックスライムも仲間にした。

 俺はというと、とにかくアンデッド以外のモンスターをと考え、ランクBの四つ葉スライムとランクCのグレーグリズリーを仲間にした。

 そしてこの二体のレベルを10まで上げると一刻も早く別れたかったむくろ男爵とグレーグリズリーとで合成した。

 その結果……。

【灰色ゾンビ ランクL 特技 ヒール みね打ち 呪い 火の玉】

「くっせぇっ!」

 またもやアンデッドモンスターが生まれてしまった。

「ちょっといい加減にしなさいよね! またアンデッドじゃないのっ」

「んなこと言われても合成したら何になるかなんてわからないんだからしょうがないだろ」

「臭いったらないわよっ。臭さで殺す気っ!?」

「俺だって好きでこんなのを出したわけじゃないぞ」

 灰色ゾンビを前にして鼻を押さえながら言い合いをする俺とシルキー。

「クウカイさん、シルキーさんやめてください。灰色ゾンビさんがかわいそうですよ」

『うっうっ……臭くてすみません』

「ほら灰色ゾンビさん、泣いちゃってるじゃないですか。よしよし」

 エイミは灰色ゾンビの頭を優しく撫でている。

 なんでエイミは平気なんだろう……?

「二人とも、灰色ゾンビさんに謝ってください」

「いや、でも……」

「さあ早くっ」

 エイミの迫力に負けて俺とシルキーは灰色ゾンビに頭を下げた。

「悪かった」

「ごめん」

『いえ、僕なんか別にいいんです』

「じゃあ仲直りの握手をしましょう」

 え……。

 ただれてぐじゅぐじゅになっている灰色ゾンビと握手を交わすと、シルキーはエイミに聞こえないように俺の耳元でささやく。

「あいつの手どろどろだったわよ、あたしの手腐ったりしないでしょうねっ」

「俺が知るかよ。どうにかなったら後でキラークイーンにキュアをかけてもらえ」

「次はクウカイさんと灰色ゾンビさんで握手ですよ」

 エイミは笑顔で言う。

 俺は灰色ゾンビと対峙すると手を出した。

 灰色ゾンビが俺の手をぐちゃっと握る。

 うへー、気持ち悪ぃー。

 体中に鳥肌が立っているが俺は感情を顔には出さないように努めた。

「なあお前って俺の不死の体をどうにか出来るか?」

 一応訊いてみたが『すみません。僕、脳が腐っているのでわかりません。へへ……』と不気味な笑みを浮かべた。

 ……こんなモンスター早いとこ合成して消してやる。

 その後もシルキーを筆頭にメタリックスライムを狩りまくった。

 そしてマジョルカが合流した時には、シルキーのレベルは77から82へ、エイミは84から87へ、俺は35から50へと上がっていた。

 さらにエイミのモンスターのアップル、キュアたん、モスちん、メタリンもそれぞれレベル20前後になっていた。

 もちろん俺のモンスターも、キラークイーンは31になり、合成させるつもりのモンスターもレベル10以上になっていたので、四つ葉スライムに苦痛なく殺してもらってからみんなの前で合成をすることに。

【四つ葉スライム レベル27と灰色ゾンビ レベル16を合成しますか? はい いいえ】

 俺は【はい】を選択した。

 二体のモンスターが光って重なり合う。

 光が落ち着くのを待ってから目を開けると、そこにいたのは黄金色に輝くスライムの姿だった。


【ラッキースライム ランクM 特技 ヒール みね打ち 丸飲み 火の玉】

「なんだ、ずいぶん可愛らしいモンスターになったな」

「そんなのどうだっていいわ。アンデッドじゃなくなっただけで充分よ」

 マジョルカとシルキーが見下ろす。

【覚えられる特技は四つまでです。呪いを覚えさせたい場合はどれか一つ消してください】

 という文字が出たが、呪いなんて不気味な技覚えさせなくていいや。

「わあ、きれいですね~」

『ふっ、そうだろう。なんせ俺様はラッキースライム様だからな』

 エイミの声に反応してラッキースライムが喋った。

『貴様も人間のメスにしてはきれいな顔をしているな』

「ふふっ、ありがと。ラッキースライムさん」

『して俺様のマスターは貴様か? それともこっちのバカでかいメスか? はたまたこっちの生意気そうなメスか?』

「ラッキースライムさんのご主人様はこちらのクウカイさんですよ」

 エイミが俺に手を向ける。

『なんとっ、この冴えないオスが俺様のマスターか。う~む……だがこの世に生み出してもらったのだ、贅沢は言うまい』

「あたしこいつ嫌いだわ」

「わたしも好きではないな」

 シルキーとマジョルカはラッキースライムを細めた目で見下ろしながら言う。

 奇遇だな、俺も同意見だ。

「なあ、ラッキースライム。一応訊くが、不死の体になった人間を元に戻す方法とか知らないか?」

 どうせ知らないだろ。

『何? 不死? さあ、心当たりはないな』

「やっぱりな」

 別に期待してなかったからいいさ。

『やっぱりとはなんだ。俺様をバカにしているのか?』

「だってお前、ランクMのくせに強そうじゃないもんな」

『人間のオスが吠えるではないか。クウカイだったか? 貴様に俺様のすごさをわからせてやるわ』

 そう言うとラッキースライムは俺の頭の上にぴょんと乗っかった。

「おい、なんのつもりだよ。下りろって」

『このままカジノに行ってみろ。貴様を億万長者にしてやる』

「カジノ?」

「カジノならウェゴの町にありましたよね、マジョルカさん」

「ああ、確かにあるが」

「カジノに行ってどうするんだよ」

『いいから俺様の言うことを聞いてカジノに向かえ、雑兵が』

 握りつぶしてやりたいところだが、こんな弱そうなスライムでも俺よりは強いから今は従ってやる。

「クウカイ、お前カジノに行くのか?」

「ああ、騙されたと思って行ってやるさ」

「やめときなさいよ。所持金全部すって終わりよ。ああいうところは勝てないようにできてるんだから」

「私、ついていってもいいですか? カジノって入ったことないんですよ」

『貴様なら歓迎してやる。ついてこい』

 人の頭の上で偉そうにしやがって。

 もし嘘だったら真っ先に合成素材にしてやるからな。

 マジョルカとシルキーを残して、俺とエイミはウェゴの町に戻ると、カジノに向かった。

「おい、頭の上に乗ってなきゃ駄目なのか? じろじろ見られて恥ずかしいんだが」

『俺様は注目された方が燃えるタイプなんだ。それよりさっさとメダルに両替してこい』

「……はいはい」

 俺はバニーガール姿の女性に金貨二枚を渡し千枚のメダルを受け取った。

「全額両替したぞ」

『貴様金貨二枚しか持ってなかったのか? なんて貧しい奴だ』

 ほっとけ。

『では百枚賭けのスロットの前に座れ』

「百枚賭け? それじゃ十回しか出来ないぞ」

『ふっ、十回もあれば充分だ』

 俺の頭の上でニヒルな笑みを浮かべるラッキースライム。

 どうやらこのスロットマシンは回転するスロットを自分でボタンを押して止めて、図柄を三つ揃えると当たりらしい。

 俺は横のレバーを引いてスロットを回転させた。

 回転スピードは速すぎて目押しなんて出来そうにない。

『目をつぶって適当に押せ』

 俺がボタンに手を置いたまま動かないでいるとラッキースライムの声が降ってきた。

 ええいままよ。

 俺は目を閉じトントントンと小気味よくボタンを押した。

 すると、

「わあ! クウカイさん、揃いましたよ!」

 目を開けると果物の画柄が三つ横に揃っていた。

 ジャラジャラとメダルが出てくる。

「すごいです。一回目で当たりましたよ、ラッキースライムさん」

「これ、お前のおかげなのか?」

『俺様にかかればこんなもの序の口だ。まだまだいくぞ』

 だがそこから五回連続外した。

「大丈夫か? おい」

『なんの、これからこれから』

 そして七回目。

「頑張ってください、クウカイさん」

 エイミの声援を背に俺はボタンを一つ押した。

 すると数字の7で止まる。

 さらにもう一つ。するとまた7で止まった。

「クウカイさん、次も7がくれば大当たりですよ」

「お、おう」

『クウカイ、無欲になって押すんだ』

 今さら無欲になんてなれるか。今の俺は欲の塊みたいなもんだぞ。

 極度の緊張から震える手をもう片方の手でぎゅっと掴む。

 無欲になれ、無欲になるんだ。

 こんなのは当たらなくて当然なんだ。

 自分に言い聞かす。

 ……駄目だ。手の震えが止まらない。

 とその時だった。

 ガチャン。

 長く放っておくと勝手に止まる仕様だったのか、スロットが突然止まった。

 [777]

 おそるおそる見ると7が揃っていた。

「クウカイさん、当たりましたよっ!」

『ふっ、俺様の力だ』

 思いもよらず俺に幸運の女神が舞い降りた。

 スリーセブンが揃ったことでジャラジャラとメダルがスロットから溢れ出てくる。

「おお! すげぇっ! すげぇぞ! ははっ!」

 カジノ中に大当たりの音が鳴り響き、俺はわずか十分足らずで百万枚のメダルを手にしたのだった。

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