俺のレベルは31まで上がっていたので、わりとすんなりアンデッドモンスターを四体仲間にすることに成功した。
【包帯おとこ ランクC 特技 呪い】
【浮遊する魂 ランクC 特技 火の玉】
【孤独ななきがら ランクD 特技 なし】
【むくろ伯爵 ランクD 特技 呪い】
「くっさっ!」
アンデッドモンスターを仲間に出来たのはいいが死臭がものすごい。
強烈な臭いに鼻を塞いでいないと会話も出来ない。
「キラークイーン、お前は平気なのか?」
『……は、はい。わたしは大丈夫です』
「まいったな。アンデッドモンスターって臭い奴ばっかりじゃねぇか」
早いとここいつらのレベルを上げて合成してしまおう。
おっとその前に俺が殺される必要があるんだったな。
包帯おとこには既に殺されているから他の三体に俺を殺してもらわないと。
っていうかどうせ殺されるなら野生のモンスターより味方のモンスターの方がましだな。
俺は浮遊する魂に向かって、
「ちょっと火の玉をぶつけてくれないか」
と頼んでみる。
『シャア?』
「いいんだ。構わないからやってくれ。殺すつもりでな」
『シャア』
「大丈夫だから、一思いにやってくれ」
中途半端が一番困る。
浮遊する魂は躊躇うそぶりを見せていたが、俺に根負けしたのか、次の瞬間火の玉を吐いた。
「うあぁっ!」
火は瞬く間に燃え上がると俺を包み込んだ。
「うがぁぁっ……!」
喉が焼かれ声も出せなくなり……俺は死に至った。
「ぐはぁっ、はぁっ、はぁっ……ぐ、苦しかった……」
なんとか黒焦げの状態から復活を果たした俺だったが、二度と焼死はごめんだ。
苦しすぎる。
「……お前、手加減したんじゃないのか? 死ぬまで時間がかかったぞ」
『シャア?』
俺のHPはたったの4しかないんだからもっと一瞬で殺してくれよ。
「ったく……じゃあ次はむくろ伯爵頼む。苦痛を与える殺し方は駄目だからな。いいな?」
『グギギ?』
むくろ伯爵は首を百八十度ひねる。
「バカなのか? お前。さっきの見てただろ、苦しいのは無しだ。頼むぞ」
『グギギ!』
むくろ伯爵は持っていた先のとがったステッキを俺の心臓めがけて突き刺した。
「かはっ……」
その直後、何事もなかったかのように生き返る俺。
「いいぞ、やれば出来るじゃないか」
今のはほとんど苦痛を感じなかったぞ。
俺は孤独ななきがらにも自分を殺してもらうと、そいつらのレベルを10まで上げた。
するとやはり【合成しますか?】の文字が出てきたので、俺は包帯おとこと浮遊する魂、孤独ななきがらとむくろ伯爵をそれぞれ合成した。
【輪廻する魂 ランクH 特技 呪い 火の玉】
【むくろ公爵 ランクJ 特技 呪い】
結果、ランクHとJのモンスターが出来た。
「この調子だとこいつらをもう一回合成すればランクK以上のモンスターが出来そうだな」
『……そ、そうですね』
俺はキラークイーンに先頭に立ってもらって、二体のアンデッドモンスターのレベルを上げる。
むくろ公爵の臭いは、目に染みるような死臭がするので、俺からはなるべく離れてもらった。
三十分ほどで二体のレベルは9にまで上がり、あと1レベルというところで、またも前から包帯おとこが沼地を歩いてきた。
『……あ、あの包帯おとこ、腕に何かぶら下げてますよ』
キラークイーンが口にする。
「え? よく見えないけど……」
すると視力が衰えている俺の代わりにキラークイーンが目を細めた。
『……あ、あれは勧誘の腕輪じゃないでしょうか』
「マジかっ?」
こっちに近付いてきてようやく俺にも見えるようになると、
「おお、本当だ!」
確かに勧誘の腕輪が包帯おとこの腕に引っかかっている。
「ラッキー。きっと探してた腕輪に違いないぞっ」
沼地で勧誘の腕輪をぶら下げたモンスターに出遭える確率が一体どれだけあるだろう。
探してた腕輪じゃないはずがない。
「キラークイーン、撃退しろっ」
『……は、はいっ』
危なげなくこれを撃退したキラークイーンは、沼地に落ちた勧誘の腕輪を拾うと俺に手渡してくる。
『……ど、どうぞ』
汚ねぇ……。
勧誘の腕輪には沼のどろがへばりついている。
こんな腕輪本当に欲しい奴いるのか?
俺は人差し指と親指でつまむように持った。
【むくろ公爵 レベル10と輪廻する魂 レベル10を合成しますか? はい いいえ】
「おい、キラークイーン。今ので合成出来るレベルになったぞ」
俺は腕輪を持つ手とは逆の手で【はい】をタッチした。
二体が光に包まれ重なり合う。
そして……。
【むくろ男爵 ランクK 特技 ヒール みね打ち 呪い 火の玉】
ランクKのモンスターが誕生した。
「くっさっ!」
『臭いとはなんですか、臭いとは』
むくろ男爵が俺を見る。
「いや、悪い。それよりお前も喋れるんだな」
俺は死臭に耐え切れず鼻を押さえながら言う。
『当たり前です。我はランクKのむくろ男爵ですよ』
死体に燕尾服着せただけに見えるが……。
「早速で悪いが俺は死ねない体なんだ。どうにかする方法を知ってるか? 治す方法でも殺す方法でもどっちでもいい」
キラークイーンには聞こえないよう耳打ちする。
近付くとより一層臭いが仕方がない。
『ふーむ。不死の体ですか、そうですねぇ……』
腕を組み手の上にあごを乗せるむくろ男爵。
ん? この反応、もしかして何か知ってるのか?
期待が高まる。
『……ふっふっふ。知りませんね』
「知らないのかよっ」
思わせぶりな態度とりやがって、使えねぇ。
こうなるとただただ臭いだけのモンスターじゃないか。
「もういい。とりあえず町に戻ろう。腕輪もみつけたことだしな」
『それがいいでしょう』
キラークイーンに話しかけたつもりだったが、むくろ男爵が返事をした。
……こいつ邪魔だな。
キラークイーンとむくろ男爵を連れて泥だらけの勧誘の腕輪をギルドに持っていくと、受付の女性は嫌な顔一つせずそれを受け取った。
「はぁい、ご苦労様でしたぁ。ではこちら金貨二枚になりますぅ」
「どうも」
「見たことないモンスターさんたちですねぇ」
「あ、そうですか。すいません臭くて……」
「いいえ、大丈夫ですよぉ」
女性は笑顔を絶やさない。
だがモンスターに慣れているはずのギルドの客たちは違った。
みな一様に顔をしかめ鼻を覆う。
強烈な死臭を放つむくろ男爵がいるから仕方のないことだが。
かく言う俺も鼻を覆っているしな。
俺は「すいませんでしたー」と言葉を残してそそくさとギルドをあとにした。
「三人のいる宿屋はどこだろうな……?」
『男爵たる我に似合った宿屋でしょうね』
むくろ男爵が燕尾服の襟を直しながら言う。
だからお前には訊いていない。
っていうかもっと離れてくれないかな、臭くてたまらない。
まいったな、こんな奴連れて宿屋に入れるのか……?
すると俺の懸念は現実になってしまう。
「申し訳ありませんが他のお客様のご迷惑になりますのでご遠慮いただけますか」
せっかく宿屋をみつけた俺だったが玄関で止められてしまった。
「そ、そこをなんとかなりませんか?」
「本当に申し訳ございませんがやはり――」
「何してるんだ? クウカイ」
背後からマジョルカの声が聞こえた。
振り向くとマジョルカとエイミとシルキーが立っていた。
「こんな時間まで合成してたのか?」
「あ、ああ。まあな」
「くさっ! あんたのモンスターめっちゃ臭いじゃないの! おえっ、気持ちわる~」
シルキーが大袈裟に振る舞ってみせる。
「せっかく食べた晩ご飯が出ちゃうじゃないっ。そいつどっかにやってよっ」
『我を臭いですと!? 聞き捨てなりませんね。我はアンデッドの中のアンデッド、むくろ男爵ですよ』
「知らないわよそんなのっ。もう行こう二人ともっ」
シルキーはむくろ男爵に近寄らないように遠回りしながら宿屋に入っていった。
「むくろ男爵さんですか? 私はエイミといいます、よろしくお願いしますね」
『あなたは礼儀正しいお嬢さんですね。今度我のティータイムに招待しますよ』
「ありがとうございます」
鼻が詰まっているのだろうか、エイミはいつもとなんら変わりなく笑顔で接している。
「クウカイ、お前自身のレベルは上がったのか?」
マジョルカが鼻を押さえながら訊いてくる。
「ああ、35になったぞ。キラークイーンもレベル18になったしな」
「そうか。それで不死の体について何かわかったか?」
「いや全然だ。あのおじいさんには悪いが俺はもうアンデッドモンスターを仲間にする気はないぞ。宿屋にも泊まれないからな」
アンデッドが仲間にいると生活に支障が出る。
「まあお前の自由だ。好きにすればいいさ」
「今日は適当に公園でもみつけて野宿するよ」
「風邪ひかないでくださいね」
エイミが心配してくれる。
「じゃあ朝になったら迎えに行くからな」
「ああ」
俺はマジョルカたちと別れると公園に向かった。