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第11話

「お互い既に知っているかもしれないが自己紹介しておこう。わたしは黄昏の赤のリーダーのマジョルカ。職業は魔物使いでレベルは207だ。今は四体のモンスターを使役している。ダイヤタートルと手乗りライガーとハイドラゴンと極楽鳥、みんなランクGだ」

マジョルカは部屋の四隅にいたモンスターを順に指差した。

「えっあたしもやるの? 面倒くさいわね、もうっ」

文句を言いながらシルキーが続く。

「あたしはシルキー、黄昏の赤の副リーダーよ。職業は盗賊でレベルは77。好きなものはお金で嫌いなものは男よっ」

最後に俺を見て言った。

どうやらかなり歓迎されていないようだ。

「では次私いきますね。私の名前はエイミです、84レベルの魔物使いです。仲間のモンスターはランクDのモスクイーン一体だけです」

「じゃあ最後はクウカイだ」

やっぱり俺もやる流れだよな。

三人ともそんなに注目しないでくれないかな。緊張する。

「あ、お、俺は馬場空海……クウカイでいい。魔物使いでレベルは18だ。仲間はランクIのキラーハニークラウンとモスクイーンの二体だ」

「ランクIか、面白いモンスターだな。こいつわたしに譲ってくれないか?」

マジョルカがクラウンを撫でながら言う。

「え、それはちょっと――」

「ふっ冗談さ、本気にするな」

わかりにくい冗談だ。

クラウンがまんざらでもない顔をしていることに少し腹が立つ。

「じゃあ、エイミとクウカイは空いている部屋を適当に使ってくれ。明日は八時に出発するからな、夜出かけるならほどほどにしておけよ。何か質問はあるか?」

「いえ、ありません」

「大丈夫だ」

マジョルカの部屋をあとにするとシルキーは一階に下りていった。

俺とエイミは二階の空き部屋にそれぞれ入る。

「あー疲れた」

ドアを閉めると俺はベッドに飛び込んだ。

「まさか俺が女三人と旅をすることになるとはな……」

ちょっと前までなら考えられなかった状況だ。

『オォォン』

『キキッ』

クラウンとクイーンが自分たちもいるとアピールする。

「わかってるよ。お前たちも一緒だな」

 部屋にあった時計を確認すると午後四時を回ったところだった。

 俺は歩き疲れていたので少し仮眠をとることに。

「お前たちも疲れただろ、少し休めよ」

 声をかけるが、

『オォォン』

『キキッ』

 二体は首を横に振る。

「なんだ、疲れてないのか?」

その時ドアをノックする音がした。

「クウカイ、わたしだ。入ってもいいか?」

マジョルカの声だ。

「ああ、開いてる」

俺は返事をするとベッドから起き上がった。

「邪魔するぞ」

マジョルカが四体のモンスターを引き連れ部屋に入ってきた。

俺のモンスターと合わせて合計六体のモンスターがひしめき合い、急に部屋が狭く感じる。

「何か用か?」

「早速だが合成するところをこの目で見てみたいんだ。協力してくれないか?」

「それは構わないけど今すぐは無理だな。クラウンもクイーンもレベル1だからな。俺の読みではレベル10以上にしないと合成は出来ないはずだ」

「だったらレベルを上げに町の外に行こうじゃないか。レベル上げに最適な場所を知っているぞ」

マジョルカはあごをしゃくる。

「あーとそうだなぁ、この町に来るまで歩きっぱなしだったから正直休みたいんだ」

「そうなのか? 残念だ……」

 おもちゃを買ってもらえなかった子どものような顔になると振り返り部屋を出ていこうとするマジョルカ。

大きい背中が小さく見えた。

クラウンとクイーンが俺をみつめる。

 悪いことをしているわけじゃないのに居心地が悪い。

……まったく。

「待てマジョルカ。やっぱり行くよ、レベル上げ」

「何、本当か! それなら今すぐ行こう、さあ、早くっ」

顔を輝かせて俺の手をがしっと掴む。

俺はぱんぱんになった足をよろめかせながらマジョルカに引っ張られ部屋を出た。


 イルーゾの町の南側の丘に着いた俺たちは、レベル上げのためにモンスターを片っ端から狩っていくことにした。

「ここには様々な強さのモンスターが出るからレベル上げにはちょうどいいだろう。お前のモンスターの手に負えない奴が出たらわたしのモンスターが倒してやる」

 マジョルカはそう言うと極小サイズの虎のようなモンスターを撫でた。

「こいつは手乗りライガーだ。他のモンスターは大きくて目立つから宿屋に置いてきたよ。だが安心しろ、こいつはわたしの手に乗れるくらい小さいが強さは折り紙付きだからな」

 とても強そうには見えないが、マジョルカが自信あり気に言うのだからそうなのだろう。

 俺が手乗りライガーを眺めていると、

「ほら、早速敵が現れたぞっ」

 マジョルカが声を上げた。

「化石スライムとラグーンドラゴンだっ。クウカイは化石スライムをやれ、ラグーンドラゴンは任せろっ」

 俺が命令を下す前に石で出来たようなスライムに向かってクイーンが手を伸ばす。

 掴まえて近くに引き寄せたところをクラウンが巨体で上から押しつぶした。

 きらきらと消滅していくスライム。

 一方、大空を駆る巨竜は大きな翼で風を巻き起こした。

 俺たちの周りに台風のような風が舞う。

 だがマジョルカは一歩も引かず手に乗せた手乗りライガーを空に掲げた。

 次の瞬間、手乗りライガーが空に向かって炎の玉を吐いた。

 荒れ狂う風の影響を全く受けずにラグーンドラゴンへと飛んでいき命中する。

『ガァァ!』という叫び声を上げてドラゴンは消滅した。

 さすがマジョルカが言うだけあって強い。

「レベルを確認してみろ」

 マジョルカが勧めるのでステータス画面を見る。

「弱そうなスライム一匹倒しただけなのにレベルが一気に上がってるぞ」

「黄昏の赤に入ったからだ。同じクランに所属する者同士は同じ場所にいれば経験値を分け合えるんだ。だからラグーンドラゴンを倒した分の経験値もお前のモンスターに入ったってわけさ」

 クランに入るとそんないいことがあるのか。

 じゃあこれからは戦闘はマジョルカに任せっきりでもレベルは勝手に上がるってことか。

「おっ、また来たぞっ」

 次に現れたサイのようなモンスターの群れも手乗りライガーはあっという間に全滅させた。

 そして俺のクラウンとクイーンのレベルはともに12になった。

【キラーハニークラウン レベル12とモスクイーン レベル12を合成しますか? はい いいえ】

「おいマジョルカ。今から合成するからよく見とけよ」

「おおっ、本当か。頼む」

 俺は【はい】を選択、するとクラウンとクイーンが光りだす。

 そしてお互いが磁力で引っ張られるように引き合い重なると、光が一層強くなった。

「うっ、まぶしいっ」

 マジョルカも俺も目を閉じる。

 しばらくして光がおさまると、そこには女王蜂を模したような人型のモンスターが立っていた。


【キラークイーン ランクK 特技 毒針 みね打ち キュア 自爆】

「すごい……本当に二体のモンスターが合わさったぞ……」

 マジョルカがわなわなと震えている。

【覚えられる特技は四つまでです。ヒールを覚えさせたい場合はどれか一つ消してください】

「なあ、感動してるとこ悪いんだがヒールってどんな特技なんだ? ついでにキュアもよくわからないから教えてくれると助かるんだけど」

「あ、ああ……。ヒールというのは回復技だ、怪我やダメージを回復させる。キュアは状態異常を治す技だよ。といってもモンスターは勧誘の腕輪で回復させることが出来るからどちらもあまり必要ないかもしれないが」

「そうなのか」

 じゃあヒールはいらないか。

 俺はキラークイーンにヒールを覚えさせるのはやめにした。

「なあ、マジョルカ。俺が合成出来るのは殺されたことがあるモンスターとそいつを合成して出来たモンスターだけらしいんだが」

「ああ、そうみたいだな」

「つまりこれから先新たなモンスターを合成するためには俺はそいつに殺される必要があるんだけど」

「頑張ってくれ」

「いや、頑張ってくれって……」

 要は俺に死ねってことだろ。

 ……まあ別にいいけどさ。

 まかり間違って生き返ることなく本当に死ねれば儲けものだしな。

「クウカイ、お前のレベルは18だったな。18ではランクの高いモンスターは仲間に出来ないだろうからしばらくは自身のレベル上げに専念した方がいいかもな」

「そうか。あんたは200くらいだったか?」

「207だ。わたしの体感ではレベルが150もあれば野生で出てくる最高位のランクGのモンスターでも仲間に出来るだろう」

 レベル150か……面倒くさいな。

 俺はレベル上げなんかに興味はない。

 早くこの死ねない体をなんとかして本当に死にたいだけだ。

 だがマジョルカはそんな俺の本心は知らない。

 なので、

「もう少しここで敵を倒してレベル上げをしておくか。な、クウカイ」

 と俺を誘ってくる。

「うーん、そうだなぁ……」

「何を迷うことがあるんだ。ランクZのモンスターを作るためにはレベル上げは必要だろ。わたしはお前の不死の体を治す手助けをする、お前はランクZのモンスターをわたしに見せる。そういう約束だろうが」

「……あ、ああそうだな。レベル上げしていくか」

 俺はマジョルカに気圧され仕方なくレベル上げに付き合うことになってしまった。

 マンモスのようなモンスターや角が三本ある馬のようなモンスター、スライムの集合体などありとあらゆるモンスターをキラークイーンと手乗りライガーで倒していった。

 途中背後からグリズリーのようなモンスターに鋭い爪で襲われあっけなく死んでしまったが、何事もなかったかのようにすぐに生き返った俺はそこからさらにレベル上げを続けた。


そして、気付けば日が暮れていた。

「マジョルカ、もういいだろ。明日は早いんだしそろそろ終わりにしよう」

「そうだな。お前のレベル上げのつもりだったがわたしもレベルが二上がって二〇九になったところだし、この辺で宿屋に戻るか」

「ああ、そうしよう」

 俺が直接戦ったわけじゃないがもうくたくただ。

 こちとら三日三晩歩きっぱなしだったんだ。もう休ませてくれ。

 宿屋に戻るとシルキーがカウンターに突っ伏して居眠りしていた。

「いいのか? こいつ寝てるけど」

「構わないさ。ここは客なんてめったに来ないからな。ここの持ち主のばあさんだって金儲けは期待してないよ」

「ならいいけどさ」

 シルキーを横目に俺とマジョルカは二階に上がる。

「あっ、マジョルカさん、クウカイさんも。二人でどこ行ってたんですか?」

 俺たちを見てエイミが廊下の向こうから駆けてきた。

「クウカイのレベル上げを手伝ってたんだ。合成するところも見たかったしな」

「そうだったんですか……って本当だ。クウカイさんのモンスター、また新しくなってるじゃないですかっ」

「ああ、キラークイーンっていうんだ」

「へ~、キラークイーンさんですか~、きれいでかっこいいです」

 エイミがキラークイーンを執拗なまでにいろいろな角度から眺める。

 すると、

『……そ、そんなにじろじろ見ないでもらえますか。は、恥ずかしいです』

「「「えっ!?」」」

 俺とエイミとマジョルカは声を揃えた。

 俺はキラークイーンに目をやる。

「お前、今喋ったか……?」

『……は、はい』

 キラークイーンは申し訳程度にこくりとうなずいた。

「まさか……人間の言葉を話せるなんてっ……」

「……すごいです」

 マジョルカもエイミも呆気にとられている。

 人語を話せる魔物はあり得ない存在らしい。

「お前、なんで喋れるのにずっと黙ってたんだよ。喋る機会なら沢山あったろ」

『……は、恥ずかしかったので』

 顔を紅潮させうつむく。

 モンスターのくせに恥ずかしがるなよな。

「おい、お前以外にも話せるモンスターはいるのか?」

 マジョルカが訊ねた。

『……え、えっと、ランクK以上ならみんな話せます』

 キラークイーンは人差し指をちょんちょん合わせながら答える。

「なんだと、それは本当かっ」

『……た、多分ですけど』

「ふふっ、これはすごいぞ。モンスターと話せる時が来るとは……」

 興奮して天を仰いでいるマジョルカは放っておいて俺はキラークイーンに顔を向ける。

「なあ、キラークイーン。変なことを訊くがお前は俺を殺せるか?」

『……こ、こ、殺すなんてとんでもないです。クウカイ様はわたしのご主人様ですから。そ、それにクウカイ様は不死身ですよね』

「そうですよ。何を訊いているんですか? クウカイさんっ」

「悪かった、質問を変える……お前より上のランクのモンスターは俺の不死の体をどうにか出来ると思うか?」

『……ど、どうにかというのは治すということでいいんですよね? ……わ、わたしより上位のモンスターならもしかしたら可能かもしれません』

「そっか」

 モンスターが合成の結果喋れるようになるとは嬉しい誤算だ。

 この先不死の体に関しての貴重な情報を持ったモンスターが生まれるかもしれないし、俺を殺せる特技を持った奴が合成で誕生するかもしれない。

 どちらにしろ、これでランク上位のモンスターを誕生させる目的が増えた。

キラークイーンを連れ部屋に戻った俺は、ベッドに倒れこむように横になった。

 マジョルカとエイミに晩ご飯に誘われたが断っておいた。

 人間の三大欲求の内の二つがひしめき合っていたが食欲より睡眠欲が勝った結果だ。

「……なあ、俺もう寝るけどお前はご飯食べに行ってもいいんだぞ。お金ならまだ少しあるから」

 部屋の隅っこにそっと立っているキラークイーンに声をかける。

 こいつはモンスターのくせに喋ることが出来るのだ。

 ランクK以上のモンスターはみんな喋れるらしい。

『……い、いえ。わたしはクウカイ様とともにいます』

「お腹減ってないのか?」

『……こ、これがあれば大丈夫です』

 とキラークイーンは机の上に置いてあったカジュの実を手に取った。

『……そ、それに人の多いところはあまり得意ではないので』

「そうか。それなら別にいいけどさ」

 なんとなくだが思考回路が俺と似ている。

「ところで上位ランクのモンスターを作り出すにはどうしたらいいんだ? 俺これまで適当に合成してたんだけど」

『……き、基本的にはランクの高いモンスターと合成すればいいと思いますけど、す、すみませんわたしも詳しくはわかりません』

「そっか、いいよ気にするな」

 あからさまに恐縮するキラークイーンに俺は優しい言葉を投げかけた。

 なまじ喋れるせいかモンスターなのについ気を遣ってしまう。

「じゃあ悪いけど電気消してくれるか」

『……は、はい』

 俺は明かりの消えた部屋の中、死んだように眠りについた。

 翌朝、宿屋の持ち主のおばあさんに宿屋の鍵を返した俺たちはイルーゾの町を出た。

 親切にもおばあさんはおにぎりを作って持たせてくれた。

 俺は赤の他人が作ったおにぎりでも平気で食べられるので、朝ご飯代わりに船の上でそれを口にした。

 船の上というのはイルーゾの町からウェゴの町までの定期船上のことだ。

 どちらも港町なので船で行き来が出来るらしい。

「このペースなら昼前には着けるだろうな」

 潮風を浴びながらマジョルカが言った。

「物知りのおじいさんに会うんですよね」

 エイミは長い髪をなびかせている。

「ああ、そうだ。あのじいさんならクウカイの不死の体について何かわかるかもしれないからな。ついでに異世界とやらのこともな」

「何かわかるといいですね、クウカイさん」

「……うっぷ、あ、ああ……そうだな……」

 俺は吐き気を我慢しながら返した。

「大丈夫ですか? クウカイさん。顔が青白いですけど……」

「だ、大丈夫……」

 ではない。おにぎりなんか食べるんじゃなかった。

 船に乗るのは初めてなので自分が船酔いする体質だなんて知らなかったのだ。

「あんた、男のくせに船酔い? だらしないわねー」

 とシルキーが俺を呆れた様子で眺める。

 俺のいた世界ならその発言はセクハラに値するぞ。うっ……気持ち悪い。

「俺ちょっと後ろの方に行ってるから……」

 そう言い残すと俺はデッキの後方へ移動した。

 万が一吐くことになっても、吐くところを仲間のみんなに見られたくはないという理由からだ。

 向こうも見たくないだろうしな。

『……ク、クウカイ様』

 キラークイーンが心配そうに俺の背中をさすってくれるがやめてくれ。余計吐きそうになる。

 そんなことより……。

「お前のキュアでなんとかならないか?」

 キュアは状態異常を治す特技のはず。

 気持ち悪いのも治せるんじゃないだろうか。

『……ど、どうでしょう。わかりません』

「い、いいから、かけてみてくれ」

『……わ、わかりました……キュア!』

 キラークイーンはキュアと唱えた。

 暖かい光に包まれる俺。

『……ど、どうですか? 治りましたか?』

「うっぷ……駄目だ。全然意味ない」

 船酔いには効かないようだ。

 いっそ吐いてしまえば楽になるのだろうが、俺の中でブレーキがかかって吐くに吐けない。

 俺はよろよろとベンチに横になると、目を閉じ時が過ぎ去るのをただ祈るように待った。

 そして吐き気に耐えること一時間、ようやく俺たちの乗った船はウェゴの町に到着した。

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