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第7話

「ぶはぁっ! はぁっ、はぁっ……あぶねっ」

 俺はキラーハニービーの毒で死んだ瞬間、生き返った。

 すると、

「……がぁっ!?」

 また体の硬直が始まった。

 なんだこれっ、死んで生き返っても体に残った毒はそのままかよっ!

 嘘だろっ。

 これじゃまたスライムの時と同じ、死の無限ループじゃねぇかっ!

 その時、

「クウカイさんっ、駄目、どうしようっ!」

 エイミの姿が目に映った。

 クラウンがキラーハニービーを倒して助けたのだろう。

 エイミが無事でよかった。

 だが問題はこの状況だ。

 生き返っても毒が体にある限りずっと死に続ける。

 と、

「キュアたんがいればキュアが使えたのにっ……」

「!」

 エイミが放った一言が倒れている俺の耳に届いた。

 キュアだって!?

 それが使えれば助かるのかっ!?

 キュアならクラウンに覚えさせたはずだっ。

 やべっ、息苦しくなってきたぞっ。

 俺は痙攣する腕を必死に動かし、口をぽかーんと開けて俺を見下ろしているクラウンに手を伸ばした。

「……ギュアァっ!」

 キュアを俺に使えっ!

『オォン?』

 体をひねるクラウン。

 バカかお前っ!

 察しろ、クラウン!

 息が出来なくて死にかけてる俺をぼーっと見下ろしてんじゃねぇっ!

「えっ、もしかしてこのスライムさんもキュアが使えるんですかっ?」

 俺の様子を見て運よくエイミが勘づいてくれた。

 俺は震えながら何度もうなずく。

「スライムさん、早くキュアを使ってくださいっ!」

『オォン!』

 エイミに急かされ、クラウンがその場で回りながら跳び上がると、刹那俺の体が暖かい光に包まれた。

 そして……。

「がはぁっ! はぁっ、はぁっ……」

 体から毒が消えたらしく、俺はなんとか死のループから抜け出せた。

 よろよろと立ち上がると、クラウンの背中とエイミの肩に手を置く。

「……クラウン。エイミ。ありがとな……おかげで助かったよ」

 出来ればもっと早く気付いてほしかったが。

『オォン』

「いえ、間に合ってよかったです」

 とエイミは笑顔で返す。

 うーん、厳密には一度死んでるんだが……それは秘密にしておこう。


「それでは私は故郷に帰ります。助けてもらってありがとうございました」

「いや、助けてもらったのは俺もだから。お互い様だ」

「クウカイさん、クラウンさん、さようなら……」

 仲間のモンスターを失ってしまったエイミは、クランに入るための試験とやらを諦めることにしたようだ。

 とぼとぼと背中を丸めて去っていく姿を見て何も感じないわけではないが、俺にはどうしようもない。

 すると、ドンとクラウンが俺にぶつかってきた。

「うわっと!」

 俺はその衝撃で吹っ飛ばされる。

「……あ、あぶねぇなっ。それやめろって言っただろ!」

 俺のHPは4しかないんだからな。

『オォン』

 クラウンは何かを目で訴えかけてくる。

「なんだよ……? まさかエイミを手伝えってんじゃないだろうな」

『オォン!』 

 どうやらそうらしい。

「手伝うってことは、モスクイーンだったっけ? をお前がみね打ちで攻撃して、そいつのとどめをエイミに打たせようってわけだよな?」

『オォン』

「俺が言うのもなんだがそれって反則じゃないか? エイミは黄昏の赤っていうクランに入るための条件としてモスクイーンを仲間にする試験を受けてるんだぞ。その九十九パーセントをお前がお膳立てしてやってもいいのか?」

『オォン?』

「なんでわかんねぇんだよ」

「だから――」

 俺が話を続けようとするとクラウンがじりじりと詰め寄ってきた。

 二メートル近くある巨体は威圧感がある。学生時代いじめっ子に詰め寄られた時のことを思い出した。

 こいつは俺より圧倒的に強いせいか、それとも合成で出来たモンスターだからか、スラたちに比べて俺への忠誠心が低い気がする。

「近いって……ああ、わかったよ。やるよ」

 まったく、これじゃどっちが使役してる側かわからない。

「じゃあエイミを追いかけて引き留めておいてくれ。俺も後から行くから」

『オォン!』

 跳び上がって喜びを表現するとクラウンはぼよんぼよんとエイミの後を追っていった。

「あいつの性格は玉にきずだな……」

 クラウンの背中を見送りながらつぶやくと俺も後を追った。


「えっ! 私に協力してくれるんですかっ?」

 エイミに追いついた俺がモスクイーンを仲間にする手助けを申し出ると、エイミは途端に表情をほころばせた。

「ああ」

 俺は乗り気ではないのだがクラウンがやる気満々だから仕方がない。

「でも私すごく弱いですよ。同じ魔物使いのクウカイさんならわかると思いますけど。仲間のモンスターがいないと何も出来なくて……」

「わかるよ。俺はレベル15だけどMP以外の数値はオール4だからな」

「え……オール4なんですか?」

 エイミは目を丸くする。

 何かおかしなことを言っただろうか?

「エ、エイミはどれくらいなんだ?」

「えっと、レベルは84でパラメータは力が3でそれ以外は……全部12です」

「へ、へー、そうなんだ……」

 力以外はトリプルスコアかよっ。

 それにしても……。

「レベル84もあるんだな、エイミは」

「はい。私の仲間だったアップルがメタル打ちという特技を覚えてくれていたので、メタリックスライムをとにかく沢山倒してレベルを上げましたから」

 メタリックスライムっていうのは多分昨日出遭った銀色のスライムのことだよな。

 あいつは確かに経験値が高かった。

「あの、でも、いいんでしょうか? これって黄昏の赤に入るための試験なのに。誰かの手を借りるなんて……」

 エイミは俺と同じことを考えたようだ。

 まともな娘でほっとする。

「条件はどうなってるんだ? 誰かに手伝ってもらったら駄目とか言われたか?」

「いえ、言われてはいないです」

「だったらいいんじゃないか。それにこいつがきみを助けたがってるしな」

「え、クラウンさんがですか?」

 エイミはクラウンを見上げた。

 クラウンは王者の風格を漂わせるかのようにただ堂々としている。

「ああ。だから手伝わせてくれ」

「あっはい、もちろん。こちらこそよろしくお願いしますっ」

 何度も頭を下げるエイミ。

 その度に大きな胸が揺れる。

 やばいやばい、つい目がいってしまう。そらさないと。

「? クウカイさん、空がどうかしましたか?」

「い、いや、なんでもないっ」

 たまらず見上げた夜空には、数えきれないほどの星たちがきれいにまたたいていた。

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