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第5話

 アイズの町を出てすぐ夜になった。

 まだらんとトッコーを目の前で失った俺はスラを連れ街道をただ歩いている。

 夜になったら強いモンスターが出るということは知っていたが、何も出来なかった不甲斐ない自分が許せなくて軽く自暴自棄になっていた。

 強いモンスターが出たなら出たでいいや。もうどうでもいい。

 それくらいに考えていた。

 だがそういう時ほど意外と運がよくなるもので、強いモンスターに遭遇することはなかった。

 代わりに三匹のスライムが俺とスラの前に現れた。

 俺はいなくなったモンスター恋しさからか、その三匹を仲間にすることに決める。

「スラ。スライムたちにみね打ちだっ」

 俺が合図するとスラが三匹のスライム相手にみね打ちを繰り出す。

 そしてもちろんとどめは俺が刺す。

 やはり運がいい。

 三匹ともむくっと起き上がったのだ。

 俺は勧誘の腕輪を当て三匹とも仲間にする。

 そしてまた街道を歩き出した。スライム四匹を従えて。

 どんな状況だろうが心境だろうが、やはりお腹は減る。

 朝日が昇り始めた頃、俺もスラたちも仲良く腹の虫が鳴った。

 スラたちにはいつも通りそこら辺の草を食べさせればいい。

 そう思ってスラたちを自由にさせ、俺は一人木の下で横になり休んでいると、上から何かが俺のお腹に落ちてきた。

「なんだ……?」

 俺のお腹の上には果物があった。

『プギー!』

 木の上にいたスラいちが鳴き声を上げる。

「お前が落としたのか? スラいち」

『プギー!』

 木を見上げるとスラいちが木になった果実に体当たりをした。

 するとその果実がまた落ちてくる。

「おっと……なんだ? もしかしてこれ俺にくれるのか?」

『プギー!』

 スラいちは返事をしながら自分も飛び下りる。

 これ食べられるのかな?

 一瞬戸惑うが、よく考えたら俺は死なないんだった。

 試しに一口食べてみる。

「うん……おいしい」

 りんごのような食感と味だがりんごよりも水分がかなり多い。

 おかげで空腹だけでなく乾いていた喉もうるおせた。

「この木ならそこら中に生えてるじゃないか」

 見渡すと街道に沿って同じ木がずっと生えている。

 これなら食べ物も飲み物ももう心配いらないな。

 まあ何も食べなくても俺は死にはしないんだけど。

 夜の間ぶっ通しで歩いていたのでだいぶ疲れていた俺は木の下で眠りについた。


腕に何かが当たる感触がしてふと目が覚める。

 何時間眠っていたのか、気付くと日が落ちかけていた。

「……あれ? お前たち。少し見ないうちに体中泥だらけじゃないか」

 スラはわりときれいだったが、スラいちとスラじろうとスラさぶろうは泥で汚れていた。

 すると俺の腕に装着している勧誘の腕輪の宝石部分に自らスラたちは当たっていく。

「何してるんだ?」

 緑色の光に包まれ回復するスラたち。

 ん? もしかして……。

 俺はスラたちのステータスを確認した。

 すると、俺が寝ている間にスラが中心となって勝手にレベル上げをしていたようで、スラたちのレベルはみな10以上になっていた。

 そして、もう一つ驚くことに【合成】という見たことないアイコンが表示されていた。

 俺はそれをタッチしてみる。

【スライム レベル10とスライム レベル10を合成しますか? はい いいえ】

 という文字が現れた。

「合成……ってどういうことだ?」

 これがゲームなら二匹が一匹になって今よりもっと強くなる、みたいなことなんだろうけど。

 いかんせんなんの説明もないからわからない。

「なあ合成って知ってるか?」

 スラたちに訊いてみるももちろん返ってくるのは『プギー?』のみ。

「うーん。大体せっかく名前を付けてるのに表示される名前は種族名なんだよな」

 これじゃあ誰と誰を合成させるのかもわからないじゃないか。

「まあでも普通に考えればこれ、合成した方がきっと強くなるよな」

 自分に言い聞かせつつ俺は【はい】を選択した。

 次の瞬間、スラじろうとスラさぶろうが白く光って磁力でお互いに引き寄せ合うかのように合わさった。

「うわっ、まぶしいっ」

 一瞬光が強くなってそれから少ししておさまった。

 俺は目を開ける。

「え……」

 そこにいたのは……変わり映えしない、なんの変哲もないスライムだった。


【スライム ランクA 特技 体当たり 丸飲み みね打ち】

「あれ? 合成したのに何も変わってないぞ」

 っていうかレベルが1に戻ってしまっていたので、むしろ弱くなってる気がしないでもない。

 しいていえば、レベル1からみね打ちを覚えていることくらいか。

「なんだこれ、合成ってなんだよ」

 普通は二体のモンスターを合成させたら強くなりそうなものなのに。

 意味がわからない。

【スライム レベル13とスライム レベル10を合成しますか? はい いいえ】

 頭を悩ませていると、またしても文字が出た。

 スラとスラいちを合成させるってことだよな。

 正直、スラいちはともかく、スラにはそれなりに愛着があるんだけどな……。

 自暴自棄になっていた俺はよく考えないまま、

「もうどうにでもなれっ」

【はい】を押した。

 するとまたスラとスラいちが光り出して重なり合った。

 光が辺りを包み込む。

 そして出来上がったのが……。

【スライム ランクA 特技 体当たり 丸飲み みね打ち】

「んだよこれっ。やっぱり弱くなってるじゃねぇか」

 もうモンスターに名前を付けるのやめよう。

 なんか急にやる気がなくなってしまった。

 せっかくレベル10以上まで育っていたスラたちがいなくなり、レベル1のスライム二匹だけになってしまったので、俺はふて寝をすることにした。

 どうでもいいことだが、俺は三十五歳を超えた辺りから眠くなくても目をつぶれば眠れるような体になっているのだ。

 夕日に照らされた木の下で俺は目を閉じた。一応護衛のつもりでスライムたちは横に置いて。

 俺は死なない体だから強いモンスターが襲ってこようがまるで問題ないのだが、スライムの特技である丸飲み、みたいな半永久的に苦痛を味わうようなことだけは避けたい。

 なので対スライム要員として二匹のスライムを俺の横に配置した。

 うとうとしかけた頃だった。

『プギー!』

 横にいたスライムが鳴き声を上げた。

「な、なんだっ! どうしたっ」

 俺はとっさに立ち上がると周りを見た。

 するとそこにはメタリックな輝きを纏ったスライムがいた。

 一目見て直感する。

 こいつを倒せば沢山の経験値がもらえるはずだと。

 元来面倒くさがりな俺にとっては絶好のチャンス。鴨が葱を背負ってやって来た。

 俺はメタリックなスライムを刺激しないようにそっと足元の石を拾うと、小声でスライムたちに「あいつを倒すぞ」と呼びかけた。

『プギー』

『プギー』

 スライムたちも小声で答える。

 俺の経験上こういうモンスターは逃げ足が速い。

 目を合わせないようにして、近付けるところまでじりじりと近付いていく俺とスライムたち。

 あと五メートル。

 あと四メートル。

 あと三メートル。

 とここでメタリックなスライムがこっちを見た。

 俺たちはだるまさんが転んだをしているが如くぴたりと止まった。

 目線が再びずれる。

 俺たちはまたそっと近付いていく。

 あと二メートル。

 あと一メートル。

 とその時、メタリックなスライムが突如逃げ出した。

「やべ、気付かれたっ……」

 俺は持っていた石を投げつけた。

 ゴッ。

 メタリックなスライムに命中する。

 しかし少しひるんだだけで倒せはしなかった。

 俺の睨んだ通り、逃げ足が異常に速い。

 普通に走ったんじゃ追いつけない。

 そう思った俺は、スライムを掴むとメタリックなスライムめがけて思いきり投げた。

「スライム! 飲み込めっ!」

 スライムは宙で回転しながら口を大きく開けた。

 そしてメタリックなスライムを丸飲みにした。

 スライムの体の中で息が出来ないメタリックなスライム。

 一分ほど粘ったが、力尽きたようで、スライムの体の中できらきらと光りながら消滅した。

「ははっ、やった!」

 俺はスライムたちのステータスを確認した。

【スライム ランクA 特技 体当たり 丸飲み みね打ち】

【スライム ランクA 特技 体当たり 丸飲み みね打ち】

 すると、やはりレベルが1から11まで一気に上がっていた。

 ちなみに俺のレベルはというと、パラメータこそまったく増えてはいないものの、レベルだけはかなり上がっていた。

 レベルが高ければ強いモンスターも勧誘できるんだったな。

 とここでまたもや、あの【合成】という文字が現れた。

 さっきは確かレベル10のスライムで出た。

 ってことはレベル10以上同士で合成が出来るってことか?

 それとも他に何か条件があるのか?

 うーん、魔物使いの知り合いでもいれば詳しい話が聞けるのだが。

 とにかくここは考えどころだ。

 せっかくメタリックなスライムを倒して経験値を大幅に稼いだんだ、このままスライムたちは残しておいて別の強いモンスターを仲間にするという手もある。

 どうするか?

 優柔不断な俺は悩みに悩んでいた。

 するとそんな俺に対して、何かをアピールするようにスライムたちが飛び跳ね出した。

「……? なんだよ。合成しろって言いたいのか?」

『プギー!』

『プギー!』

 ぴょんぴょんと俺の周りを飛び跳ねる。

 よし!

 俺は【合成】の文字に触ると、

【スライム レベル11とスライム レベル11を合成しますか? はい いいえ】

 の画面を出した。

 そして意を決して【はい】を選択した。

 その瞬間、スライムたちが白く光り、引き寄せ合うように合わさった。

 一段と光が強まる。

「まぶしっ……」

 腕で光をさえぎってしばらく待つと光が弱まっていった。

 目を開けた俺の視界に入ってきたのは――ただのスライムではなく王冠を被った大きなスライムだった。

【クラウンスライム ランクH 特技 体当たり 丸飲み みね打ち 自爆】

「クラウンスライムだって……?」

 どうせまたスライムが出てくるのだろうと、たかをくくっていた俺が唖然としていると、

【覚えられる特技は四つまでです。キュアを覚えさせたい場合はどれか一つ消してください】

 との文字が出た。

「キュア? 駄目だ、わからないことだらけだ」

 誰かに訊きたい。助言を頼みたい。

 でもここには俺とクラウンスライム以外誰もいない。

 ……くそ、仕方ない。

 俺はキュアというのは音の響きから判断して回復系の特技だろうと推測し、覚えさせることにした。

 そこで一番地味な体当たりを忘れさせた。

 変更後のステータスがこれだ。

【クラウンスライム ランクH 特技 キュア 丸飲み みね打ち 自爆】

 どうしてこの前にスライム同士を合成させたときはそのままスライムだったのに、またスライム同士を合成させたら今度は別のモンスターに変わったのかまるでわからない。

 魔物使いの先輩がいたら是非ご教授願いたいところだが、俺にはそんな知り合いはいない。

「うーん……まあ、とりあえずよろしくな。クラウンスライム」

 俺がおっかなびっくり背中に手をやると、クラウンスライムは『オォン!』と低い声で返した。

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