目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第3話

 ブルが消えてから二週間が経った。

 結論から言うとブルの失踪は城内においてなんの問題にもならなかった。

 ブルには普段から何も言わず勝手に単独行動をとる癖があったようで、魔王も幹部も誰一人問題視していない。

 そのおかげで俺がブルを殺してしまったことは誰にもバレずに済んでいる。

 知っているのは俺以外でこの城唯一の人間であるヨミと俺と同室のミケだけだ。

 そのミケは今トレーニングルームにある巨大なルームランナーで汗を流していることだろう。

 あいつの夢は幹部になって魔王に会うことらしいからな。少しでも強くなりたいのだろう。

 そして俺はというと、自分の部屋のベッドの上で惰眠をむさぼっていた。

 前線に出て勇者たちと戦ったり町や村を襲ったりするのは基本は蟻たちがこなす。

 なので俺たちはやることがないのだ。

 もちろん前線に出てもいいのだが俺にそのつもりはない。

 そもそも魔王の配下になったこと自体不可抗力なのだから。

 そのまま部屋で無為に時間を過ごしていると突然チャイムが鳴った。城内放送だ。

 男の声で、

『幹部のモレロだ。諸君よく聞いてくれ。幹部のブルが勝手にいなくなって二週間が経った。これには魔王様も大変ご立腹だ。よって魔王様の命により新たな幹部を募りたいと思う。我こそはと思う者は正午までに中庭の闘技場まで集まってくれ。以上だ』

 ぷつっと放送が切れた。

 すると廊下から「クルル様ー! クルル様ー!」というミケの声が聞こえてきた。

 どんどん部屋に近づいてくる。

 そしてドアを開けるなり部屋に飛び込んできた。

「クルル様、さっきの放送聞きましたかニャ!?」

「そりゃ城内にいるんだから聞こえたさ」

「幹部ですニャ! 幹部ですニャ!」

「暴れるなよ、毛が抜けるだろ」

 ミケの黒い体毛が床にはらはらと落ちる。

 部屋の掃除は俺の担当なんだから汚さないでくれ。

「幹部になれるチャンスですニャ」

「ああ、そうだな。頑張れよ」

「ニャ? クルル様は行かないんですかニャ?」

 不思議そうに首をかしげる。

「俺はいいよ」

「なんでですかニャ、クルル様なら幹部になれる可能性大ですニャ」

「だから――」

 俺は今の状況も不本意なんだってば。と言おうとしたのだが「一緒に行きましょうニャ!」と俺の体を甘噛みすると、そのままくわえて走り出し中庭まで連れていかれてしまった。

中庭にある闘技場には既に沢山の魔族たちが集まっていた。

 蟻をはじめとして、虫と人間が合わさったような者や鳥と人間が合わさったような者など多種多様な魔族がいた。

 みんな我こそが新たな幹部と息巻いている。

 それはミケも同じでおれの隣で鼻息を荒くしていた。

「なあミケ、よく考えてみろよ。お前は幹部になりたいんだよな、でも幹部になれるのは一人だけだろ。もし俺が、仮にだぞ、幹部に選ばれたとしたらお前は幹部になれないんだぞ」

「ニャ?」

「だから俺は参加しない方がお前にとってもいいことなんだぞ」

「……ニャ?」

 バカなのかこいつは。

「よくわからないですがクルル様が幹部になったらボクは嬉しいですニャ」

「う~ん、あのなぁ……」

 そうこうしていると半魚人みたいな奴と一緒にヨミが城から出てきた。

「モレロ様だ」

「あの人間と一緒だぞ」

「しっ。静かにしろっ」

 会場がざわつく。

「あれは幹部のモレロ様ですニャ。カッコイイですニャ~」

 とミケは言うが、俺には不気味な半魚人にしか見えない。

 ヨミからメガホンを手渡されたモレロが闘技場の中央に立つ。

「城内放送でも言ったがこの中から新たな幹部を選びたいと思う。今からオレがお前たちに向かって魔力を放出するから最後までこの闘技場に立っていられた者が新幹部だ。では用意はいいか?」

 すると、

「モレロ様の魔力をくらうのかよ!?」

「聞いてないぜっ」

「ま、待ってください、棄権しますっ」

「お、おれもっ」

「オレもやっぱりやめるっ」

 次々と闘技場から下りていく魔族たち。

 チャンス!

 俺もこの流れで闘技場から下りてしまおう。

 そう思ったが、時すでに遅く、

「いくぞ、はっ!」

 モレロが全方位に魔力を放った。

 ブルの時と同じで黄色く輝く魔力の衝撃波が襲ってくる。

 俺は瞬間的に腕で顔を覆ってこれをガードしたが、周りにいた魔族たちはモレロの魔力を体に受け場外に吹っ飛ぶ。

 ……あれ?

 大して圧を感じない。

「ほう。オレの魔力に耐えられる者が三体もいるのか」

 見ると俺の隣のミケと闘技場の反対側にいた蛙の顔をしたこじゃれた恰好をした魔族もそれぞれモレロの魔力に押し出されないでいた。

「ク、クルル様。この前のブル様の魔力攻撃に比べればこれはなんとか耐えられますニャ」

 モレロの魔力を受けながら少し苦しそうにミケが言う。

 俺は正直全然余裕なのだが。

 向こう側にいる蛙人間も俺と同じで澄ました顔をしていた。

「ではもっと魔力を上げるぞ。はっ!」

 言うとモレロの体から発せられる魔力が一段と強くなる。

「ぐニャニャ!? こ、これは結構やばいですニャ」

 黒い体毛を激しく揺らしながら必死に耐えるミケ。

「ゲコッ……」

 蛙人間のマフラーもすごい勢いでたなびいている。

「まだまだいくぞ。はっ!」

 モレロはさらに魔力を強めた。

 すると、

「ニャー!?」

「ゲコココ、ゲコーッ……!」

 ミケと蛙人間は圧に耐えきれずに場外に吹っ飛ばされ、闘技場に残っているのは俺だけになった。

 モレロは魔力を発するのをやめ俺をねめつける。

「なかなかやるな。お前名前は?」

「えっと、クルルですけど」

「クルルか。よし、今からお前が新しい幹部だ」

 あ……。

 こうして俺は魔王の配下になってわずか二週間で魔王軍の幹部となってしまった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?