僕とラウールは地面に倒れたまま動けずにいた。
そこからさらに一時間が経過した頃、
「う、うぅっ……」
ラウールが体を起き上がらせた。
「な、なんとか回復したぞ。お前はまだ動けないようだな」
僕のそばまで寄ってくるとラウールは僕を見下ろして言う。
「だがここからどうするかが問題だな。殺してもよみがえってしまうのでは意味がない」
少し考えてから、
「ふむ、世界評議会の本部へと連れていくしかないか。あそこならばお前を一生眠らせておくだけの麻酔薬があるからな」
ラウールはどこかに連絡を取り始めた。
するとしばらくして見たこともない鉄の塊が空を飛んでやってきた。
僕は身動きできないままそれを目で追った。
「な、なんだあれは……?」
「開発中の無人飛行機、通称ディグドローンと呼ばれるものだ。お前には知る必要のないことだがな」
その後、着陸したディグドローンとやらにラウールは僕を抱えたまま乗り込むと、そのディグドローンはどこかに向けて飛び立つのだった。
「な、何を考えておるんじゃラウールよっ。そやつを本部に連れてくるなどどうかしておるのかっ!」
「そうですよラウールっ。ここは世界評議会のメンバーとあなたしか入ってはいけない聖域なのですよっ!」
「申し訳ありません。しかし殺しても生き返ってしまう以上麻酔で一生眠らせておく以外手だてがみつからなかったのです」
いつの間にか落ち着きを取り戻し、涼しげな顔で答えるラウール。
僕を抱えたまま一礼すると、ラウールは怪しげな部屋に僕を連れていった。
「い、今のが世界評議会の連中か……?」
僕は意識を失わないように必死に気を保ちながらラウールに問いかける。
「はい、そうですよ。今の皆様がこの世界のリーダーの方たちです」
「そ、そうか。あいつらが僕を殺す命令をあんたに下したってわけだな」
「そうなりますね」
そう返すと、ラウールは僕を部屋の中央にあったベッドのような台に寝かせた。
「さてそれではクズミン様、あなたにはこれから寿命が尽きるまでここで永遠に眠っていてもらいます。なに、痛みは一切ありませんよ。麻酔ガスをこの部屋に充満させるだけですから」
それだけ言って部屋を出ていくラウール。
部屋のドアが完全に閉じられると、部屋の四隅からブシュ―っとピンク色の煙が噴出する。
こ、こんなところで一生寝て暮らすなんてごめんだ。
僕は何とか体を動かそうとする。
だがわずかに指先が動くだけ。
「はあ~……痛そうだけどやるしかないのか」
僕は嫌々ながらつぶやくと、非常に不本意ではあるが――自分で自分の舌を噛みきった。
スキルの効果で完全復活を遂げた僕は、すぐさま部屋のドアを破壊して麻酔部屋から抜け出す。
その際、大きな音をさせてしまったので、何事かとラウールや世界評議会のメンバーたちが集まってきた。
僕は驚き慌てふためいている評議会の年寄りたちは無視してラウールに向けて駆け出すと、
「スキル、メタルド――」
ラウールがスキルを発動するより一瞬早くラウールの首をはね飛ばす。
床に落ちて転がるラウールの首を見て、評議会の年寄りたちがおのおの悲鳴を上げた。
「あんたたちが僕を殺すようラウールに命じたんだってな」
「そ、それはっ……」
「う、嘘じゃ! ラウールの奴が嘘を言ったんじゃっ!」
「そ、そうだわっ、わたくしたちは何も悪くありませんことよっ」
「お、お主を殺すわけなかろうがっ」
「ほ、ほら怒りを鎮めんかいっ」
口々に言いながら、評議会の年寄りたちは目を見合わせじりじりと後退していく。
「あんたたち全員の総意だって聞いたぞ」
僕の目の前には五人いる。
評議会のメンバーは確か二十二人だったから、あと十七人がこの施設内のどこかにいるのだろう。
「だ、だからそれはラウールが勝手に言ったことでわしらはそんなことは――」
「黙れ」
僕は喋り続けていた一人の老人の喉仏に四本の指を突き刺した。
「ごほぉぁあっ……!?」
老人が喉を押さえ倒れ込む。
「あと二十一人」
僕があっさりと評議会のメンバーを殺すのを見て話しが通じないと悟ったのかみんなが我先にと逃げ出した。
だが相手は頭でっかちの年寄りばかり、逃がすはずもなく。
ザシュ!
「あと二十人」
ドゴッ。
「あと十九人」
パチュン。
「あと十八人」
ゴキッ!
「あと十七人」
僕は次々と評議会の年寄り連中を殺していった。
そしてその後、施設内にいた他のメンバーたちも全員みつけだし、すべて血祭りにあげてやった。
「ふぅ~……」
僕は施設を出ると、中に置いてきた二十三人分の死体とともに施設を焼き払う。
世界評議会などくそくらえだ。
ゴウゴウと燃え盛る施設を背にして、
「村に早く帰ろう」
僕はルビーさんの待つセンダン村へと歩みを進めるのだった。
久しぶりにセンダン村へと戻った僕を、ルビーさんは笑顔で出迎えてくれた。
「おかえりなさぁ~い、クズミンさぁ~ん!」
僕の両手を手に取ると嬉しそうに破顔させる。
「ただいま帰りました」
「はい、無事みたいなのでほっとしましたぁ」
言いながら自分の胸を押さえる仕草もまた可愛らしい。
「あっ、今からお昼ご飯にしようと思っていたんですぅ。ちょっと待っててくださいね、クズミンさんのご飯もすぐに作りますからぁ」
「はい、ありがとうございます。じゃあその間少しだけ外にいますね」
僕はそう言い残して、家をあとにした。
村の一画にあるニーナたちのお墓の前で僕は目を閉じる。
「ただいまニーナ。村長たちもただいま帰りました。またこの村でお世話になりますね、よろしくお願いします」
頭を下げて僕は気付く。
ニーナの墓石の前に、綺麗な一輪の花が供えられていることに。
多分ルビーさんが供えてくれたのだろう。
村の中には野菜しかないので、わざわざ村の外に出てまで花を摘んできてくれたのか……。
「まったく……村の外はゴブリンが出るから危ないって言っておいたのに……」
僕は優しい気持ちで胸がいっぱいになり、自然と目から大粒の涙をこぼしていた。