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第21話

 なんだ……?

 体が動かない……。

「え、えへへへ。わ、わたしのスキルに一度かかったらもう二度と動けないのです」

 女の声が背後からする。

 僕は裏拳を繰り出そうとするが、腕がまるでいうことを聞かない。

「ど、どうなってるんだ……?」

 目を動かすことや口を動かすことは出来るが、体が動かせない。

 首も動かないので後ろを振り向くことさえも出来ない。

「わ、わたしの影踏みは相手の影を踏んで動きを封じるスキル。わ、わたしがあなたの影を踏んでいる間はあなたは何も出来ないのです」

「はっはっは。よくやったぞアントワネット!」

 その時、男の声が左側から聞こえてきた。

 威厳のあるような低くて渋い感じの声だ。

 首が動かせないので姿を確認出来ない。

 すると、

「これでこいつはもうサンドバッグも同然だな!」

 声の主が僕の頭を掴みながら僕の正面に回ってきた。

 ガタイがよく髪の毛の長い爬虫類のような顔つきの男だった。

「え、えへへへ。ルチ将軍、あ、ありがとうございますです」

 ルチ将軍っ!?

 こ、こいつが……僕の目の前にいるこいつがルチ将軍……!!

「初めましてだな、クズミン・アルバラード。オレ様がクダラ大帝国の首領にして将軍のルチ・マンチカンだ」

「お、お前がルチ将軍かっ!」

「はっ、それにしてもまだ年端もいかぬこのような小僧一人にうちの兵士たちが一体何百人殺されたんだろうな。なぁ、クズっ!!」

 ルチ将軍はそう言いつつ僕の顔面に膝蹴りを放つ。

「ぐっ……なんて硬い顔をしてやがるんだ。ったく、情報通り物理的にお前を殺すのは無理らしいな」

 顔をゆがませたルチ将軍は鎧の隙間から小さな錠剤のようなものを取り出した。

「こいつの中にはドラゴンも数秒で死に至る猛毒が入っている。こいつで貴様を殺してやる。さあ、口を開けろっ。嫌なら鼻に突っ込むぞっ」

 僕の口に指をひっかけ強引に開かせようとするルチ将軍。

 僕はあえて抵抗はせず口を大きく開けた。

「ん、ずいぶんと素直な奴だな。死を覚悟したってわけか?」

「好きにしろよ」

「はっはっは。ではそうさせてもらうぞっ」

 ルチ将軍は笑いながら僕の口の中に毒薬を投げ入れる。

 するとその直後、

「ぐはあぁぁっ……!」

 僕は内臓が溶けるような激痛を覚え「がはっ……」と吐血した。

「はっはっは。やはり毒には勝てないようだな。貴様も所詮はただの人間だということだっ」

 地面に倒れ込んだ次の瞬間だった。

 僕はルチ将軍とアントワネットという女性兵士から離れた位置に復活を果たしていた。

 それを見て、

「な、なんだっ!? 貴様なぜ生きてるっ!?」

「き、消えたと思ったら向こうに出てきたです。ど、どういうことです……?」

 ルチ将軍とアントワネットは目を見開く。

 ……僕は死んでも生き返れる。

 しかも生き返る場所は死んだ位置から微妙にずれるのだ。

 それによって、僕は復活と同時にアントワネットの【影踏み】から逃れることが出来たというわけだった。

「き、貴様、何をしたっ!」

「これから死ぬ奴に話したって意味ないだろ」

「ぐぬぬっ……」

「ル、ルチ将軍、ど、どうするです?」

 険しい顔で歯ぎしりをするルチ将軍と、そのルチ将軍の顔を見上げおろおろしているアントワネット。

 僕はその二人の後頭部を掴むと顔面同士を勢いよくぶつけた。

「ぶばぁっ……!」

「うぎぃっ……!」

 二人はふらふらとよろめき立っているのがやっとの状態。

 僕はふらついているアントワネットの腰に差さっていた剣を引き抜くと、その剣でアントワネットの胸を一突きにした。

 さらにルチ将軍の両足をぶった斬り逃げられないようにする。

「ぐあああぁぁっ……!!」

 ルチ将軍が涙を流しながら悲鳴を上げた。

 僕はそんなルチ将軍を見下ろして冷淡な声を降らせる。

「ルチ将軍、お前がセンダン村に毒ガスを積んだミサイルを落としたんだよな?」

「ち、違うっ……!」

「今さら嘘をつくな。お前の命令ならこの国の兵士はなんだってするはずだ。お前が命令したのは目に見えている」

「そ、そうじゃないっ! お、おれはルチ将軍なんかじゃないんだっ! おれはただの一兵卒に過ぎないんだっ……!」

 必死に叫ぶルチ将軍。

 あまりの必死さに興ざめしてしまうほどだ。

「アントワネットがお前のことをルチ将軍と呼んでいただろ。演技には見えなかったぞ」

 演技が出来そうな器用な奴にも見えなかった。

「そ、それはあいつも知らなかったからでっ……お、おれのスキルは変身なんだっ! 頼む、本当なんだ、信じてくれっ……!」

「もういいよ。死ね」

 僕は持っていた剣でルチ将軍の首を斬り落とした。

 ルチ将軍の頭部が地面を転がり僕の足元へ。

「っ!?」

 ところが見上げてくるルチ将軍の顔は、さっきまでの爬虫類顔とは似ても似つかないふくよかな優男のそれだった。

「こ、こいつ、本当にルチ将軍じゃなかったのか……」

 僕が呆然としていた時だった。

 ゴオオオオ……という聞き覚えのある轟音が上空から聞こえてきた。

 僕は空を見上げて、

「なっ!?」

 見覚えのあるミサイルが迫ってきているのが目に映った。

 僕は瞬時にそこから移動した。

 すると――次の瞬間、

 ドゴオオオオォォォォーン!!

 さっきまで僕がいた場所にミサイルが落ちて大爆発を引き起こした。

 爆風が逃げた僕のもとまでやってくる。


 大きな紫色の煙が立ち上り、それが消えていくと町が瓦礫だらけの廃墟となっていた。

 見る限り生存者はいないと思われた。

「ルチ将軍の奴……なんてことを」

 部下の兵士に自分の影武者をさせて、挙句、僕と道連れに……しかも町の人すべてを犠牲にして……。

「ぜ、絶対に許さないぞ、ルチ将軍っ!!」


 ルチ将軍の居場所として考えられる最も有力な場所は首都だと思われた。

 そこで、ゲルググの町へミサイルが落とされてから二日後の夜、僕はクダラ大帝国の首都であるクダラの城下町に潜入することにした。

 僕のせいでまた罪のない人が犠牲にならないように、僕は特徴のある銀髪を布で覆い隠し、一般人のふりをして素知らぬ顔で町に入る。

 前方から二人の兵士が談笑しながらやってくるも、毒ガスを積んだミサイルによってゲルググの町の人たちとともに今度こそ僕が死んだと思っているのか、それとも変装のおかげか、兵士たちは僕に気付くことなく僕の横を通り過ぎていった。

 僕は安堵しつつ町の中心地にあるクダラ城を目指して進む。

 人ごみに紛れながらうつむき加減で歩いていると、

「あ~あ、クズミンって奴死んだらしいぜ。おれあいつがルチ将軍をやっつけるのちょっと期待してたのになぁ」

「馬鹿っ、余計なこと言うな。兵士に聞かれたらどうするんだっ。ルチ将軍の耳に入ったら殺されるぞっ」

 そんな会話を耳にした。

 やはりルチ将軍は国民から慕われているわけではなく、ただただ恐怖政治で国民を支配しているに過ぎないようだ。

 ならばルチ将軍さえ殺せば、クダラ大帝国の兵士たちは僕を狙う理由がなくなるということか。

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