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第20話

 交渉が決裂したことを知ってか知らずか、僕のもとへは今まで以上にクダラ大帝国の兵士たちがやってきていた。

 クオーツ王国の兵士とは対照的にクダラ大帝国の兵士たちはみな勇猛果敢に僕に挑んでくる。

 ルチ将軍の命令は絶対なようで、中には爆弾を体中に巻き付けながら向かってくる者もいた。

 僕はそんな兵士たちを躊躇せず皆殺しにしていった。

 殺す覚悟が出来ているのならば殺される覚悟も持っていて当然という持論を盾にして、僕は兵士たちに家族がいようが命令で動いていようがお構いなしに敵兵の命を奪い続ける。

 ……どうでもいいことだが、寿命を終えたら僕は間違いなく地獄に落ちるだろうな。

 クダラ大帝国の領土内に侵入してから五日、僕は既に数えきれないだけの兵士の息の根を止めていた。

 寝る間だけはさすがに無防備になるので、僕は森の中で身を隠すようにして仮眠をとった。

 死んでも生き返れる以上隠れる必要もないのかもしれないが、万が一身動きが取れなくなるような特殊な攻撃をされると困るので安全策をとっていたのだった。

 一方クダラ大帝国の国民はというと、僕が兵士以外には手を出さないということが行き渡ったらしく、時折り「ルチ将軍を殺してくれ」と小声でささやいてくる者もいた。

 小さな村ではそれがさらに顕著で、ルチ将軍の恐怖政治によってまるで奴隷のような扱いを受けていた村人たちからは、水や食糧、寝床を提供してもらうこともしばしばだった。

 僕は知らなかったが、クダラ大帝国は貧富の差が非常に激しい国だということが中に入ってみて初めて分かった。


 一週間が経過して、僕がこれまでに仕入れた情報によると、ルチ将軍は今いる場所からさほど離れていないゲルググの町というところに、僕を捕まえに出向いているということだった。

 その情報の真偽のほどは定かではないが、それでも僕はそのゲルググの町とやらに向かうことを決めた。

 その道中、珍しく兵士ではなく冒険者たちが僕の行く手に立ちふさがった。

 勝手に自己紹介を始めたので聞いてみると、彼らはSランクパーティーの冒険者たちだということだった。

「僕の捕獲依頼を受けてきたのか?」

「ああそうさ。お前は今世界一有名なEランク冒険者だからな」

「お前の首には金貨百枚の値がついてるんだぜ。知ってたか?」

「あなたの生死は問わないっていう話だからね、抵抗するなら死んでもらうわよっ」

 三人の冒険者たちは僕を囲むように三角形に広がる。

「スキル、氷結っ」

 レベッカと名乗った女の冒険者が僕に向かって手を差し伸ばすと口にした。

 その途端、僕の足元の地面が凍りつきその氷が徐々に僕の足を伝っていく。

「ふふん、あなたはもうこれでお終いよ」

「なんだ、意外とあっけなかったな」

 僕の足が凍りついていくのを見て冒険者たちが言葉を交わす。

「さあ、降参する? じゃないと全身氷漬けになってほんとに死んじゃうんだからね」

 レベッカの言う通り、もう僕の胸の辺りまで氷が迫ってきていた。

 かなり冷たくて寒い。

 でも、

「いや、降参はしないよ」

「あなたほんとに死ぬわよ」

「多分大丈夫」

 言うと僕は足に力を込めて持ち上げてみる。

 すると僕の足を覆っていた氷が簡単に砕け散った。

「「「っ!?」」」

「ほら、問題ない」

 度肝を抜かれている冒険者三人に声をかける。

「もしかしてこれがあんたたちの本気?」

「お、おいお前手加減したのか?」

「そ、そんなわけないでしょっ」

「だったらなんであんな簡単に――」

「今度は僕から行くよ」

 僕はそう言ってから、ヘンリーという名の男の冒険者に向かって駆け出した。

「消えたっ!?」

 僕はあくまでも高速で移動しただけだが、冒険者たちからしたら消えたように見えたらしい。

「う、上かっ?」

「残念、後ろだよ」

 空を見上げるヘンリーの背後に回った僕は、彼の顔と後頭部を掴むと勢いよく左右に回した。

 ゴギィッという音がして首が三百六十回転する。

「ヘンリーっ!?」

「ヘンリーっ!」

 倒れた仲間を見て声を上げる冒険者たち。

「このっ……スキル、火炎砲っ!」

 もう一人の男の冒険者であるクーガーが両手を前に出し、両手で作った輪から炎の玉を発射した。

 炎の玉は大気に触れ、大きくなりながら僕めがけて飛んでくる。

「死にさらせっ!」

 僕は瞬時にレベッカの背後に移動すると彼女を炎の玉に向かって突き飛ばした。

 人間大にまで大きくなっていた炎の玉にレベッカが飲み込まれる。

「きゃああぁっ……!!」

「レベッカっ!」

 炎に焼かれて黒焦げになったレベッカの死体と首の骨が折れたヘンリーの死体が地面に横たわる中、

「あとはあんた一人だけだけどまだやるの?」

 僕は一応訊いてみた。

「く、くそっ! 仲間がやられたってのにおめおめ逃げるわけねぇだろうがっ!」

 クーガーが僕をにらみつけ大声でほえる。

 そして腰に差していた大剣を抜くと僕に飛びかかってきた。

「くらえぇっ!!」

 両手で持ったその大剣を力任せに振り下ろすクーガー。

 だが、僕はそれを片手で受け止めると、もう片方の手でクーガーの胸を殴りつけた。

 その強い衝撃が心臓に伝わったのか「がふっ……!?」と声をもらすと、クーガーは膝から地面に崩れ落ちるようにして倒れる。

「死んだかな?」

 僕は手を伸ばし、彼の胸に触れて確認する。

「うん。死んでるね」

 ――クーガーの心臓の鼓動は完全に停止していた。


 ルチ将軍がいるというゲルググの町に到着した僕を待っていたのは、三百人ほどの兵士たちだった。

 これだけ多くの兵士がそれほど大きくない町に集中しているということは、ルチ将軍がここに出向いているという話もどうやらガセではなさそうだ。

「ここにルチ将軍がいるだろう! 僕に引き渡してほしい! そうすれば他の兵士たちの身の安全は保障する!」

 僕は声を大にして兵士たちに呼びかけた。

「ルチ将軍に会いたければ我々を倒してから行くんだなっ!」

「我らはこれまでの兵士たちとは一味違うぞっ!」

「わかったらかかってこいっ!」

 兵士たちは強気に返してくる。

 そう言われては仕方がない。

 僕は三百人の兵士たちを殺すべく地面を蹴った。


「ぐああぁぁっ……!」

「ぬおっ……!」

「ぐぬぅぅぅっ……!!」

「うわあぁっ……!」

「ぐえぇぇーっ……!!」

 兵士たちの悲鳴がゲルググの町に響き渡る。

 僕は鬼神のごとき強さで死体の山を築いていった。

 そして、あっという間に残るはたったの五人となっていた。

「ま、まさか、これほどとは……」

「人間かこいつ……」

「これがEランクの冒険者だと……」

 圧倒的なまでの力量差に、さすがのクダラ大帝国の屈強な兵士たちも動揺を隠せないでいる。

「銃が一切効かないなんて……」

「どうやって倒せばいいんだ……」

 ちなみに町の人の姿はまったく見えない。

 おそらくは外出禁止令でも出されていて家の中に隠れているのだろう。

 その方が僕にとっても都合がいいので全然構わない。

「もう諦めてルチ将軍のところまで案内してくれないかな?」

「ふ、ふざけるなっ! 我らはクダラ大帝国の選び抜かれた精鋭だぞっ!」

「そ、そうだっ! 諦めるなどあり得ないことだっ!」

「ルチ将軍のためにも絶対に勝ってやるっ!」

 言うなり兵士たちは剣を振り上げかかってくる。

 ここまでくると勇猛果敢というより、ただ無謀なだけにも思える。

 そんなにもルチ将軍が怖いのだろうか。

 それともまだ何か切り札でもあるのだろうか。

「あんたたちがその気なら手加減しないよ」

 僕は一斉に飛びかかってきた五人をまとめて、右腕の一振りだけで上半身と下半身に分断した。

 ただの肉塊となった物体がどさどさっと地面に落ちる。

「はぁ~……さてと、じゃあルチ将軍を――」

「スキル、影踏み」

「っ!?」

 すぐ後ろから消え入りそうなか細い声が聞こえた、次の瞬間――僕は体が動かなくなっていた。

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