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最底辺冒険者の逆襲
最底辺冒険者の逆襲
シオヤマ琴
異世界ファンタジーダークファンタジー
2025年02月03日
公開日
10万字
完結済
クズミン・アルバラードは十五歳の新米冒険者。
誰もがスキルを一つ持って生まれてくる世界で、クズミンはスキルのない無能だった。
そんなクズミンをライドンたちは仲間に加えてやった。
その恩義に報いるため、クズミンは汚れ仕事を買って出ていた。
そんな折、強力なモンスターが彼らの前に現れた。
クズミンは死を覚悟したが、最後は仲間とともに戦って死のうと決意する。
がしかし、そんなクズミンをいけにえにしてライドンたち仲間は逃げてしまった。
あっけなく死を迎えたクズミンだったが、そこで【強復活】という隠されたスキルが発動する。
それにより強い体で黄泉がえりを果たしたクズミンは、強力なモンスターを撃破し、さらに自分を見捨てた仲間たちへの復讐を誓った。

第1話

「スキル、精神統一」

 チェゲラが呼吸を整えると木の上から弓を射った。

 びゅんと放たれた矢がゴブリンの頭を見事に貫通する。

 地面に倒れたゴブリンを見て、仲間のゴブリンたちが周りを警戒し出した。

『ギギギ……』

「おらぁっ。スキル、破壊剣っ!」

 ライドンは茂みから颯爽と飛び出すと、一体のゴブリンめがけ剣を振り下ろす。

『ギギェェーッ……!』

 ライドンの剣はゴブリンの肩から入り腰から抜け出た。

 ゴブリンの体からは血しぶきが上がり、上半身と下半身が真っ二つになる。

『ギギッ!』

 残ったゴブリンが逃げ出した。

 だが、よりにもよって僕の方に向かって逃げてくる。

「クズ、そっち行ったぞ!」

「う、うんっ」

 僕は震える手で腰の短剣を引き抜くと「やあっ」とゴブリンに向かって短剣を振り払った。

 しかしナイフは空を切る。

『ギギギッ』

 馬鹿にしたような笑みを浮かべ、僕の横を走り抜けていくゴブリン。

「クズ、何してんだっ!」

「マリン、逃がすなよっ!」

「わかってるって。スキル、雷撃っ!」

 マリンは空に手を掲げるとスキル【雷撃】を唱えた。

 その瞬間、

 ズドーンッ!

 天から一筋の雷がゴブリンの頭上に落ちた。

 雷の直撃を受けたゴブリンは煙を上げながら地面に倒れる。

「ナイス、マリンっ!」

「いえーいっ」

 ライドンが声を飛ばすとマリンが親指を立てて笑顔で返した。

「ったく……それに比べてクズはいつまでたってもクズだなっ。ほら、さっさとゴブリンの耳と魔石を回収しろよっ」

「うん、ごめんっ」

 僕は倒れているゴブリンの死体からそれぞれ耳をナイフで切り取ると、それらを皮袋に詰めてから、今度はゴブリンのお腹を斬り裂き開く。

 そしてゴブリンのお腹の中に手を突っ込んだ。

「おえっ、毎回思うけどよくそんなことが出来るな」

「そんなことしか出来ないの間違いでしょ」

「言えてる」

 ライドンとマリンとチェゲラは僕を見下ろしながらせせら笑う。

 モンスターを倒した証拠として体の一部を切り取りギルドに持ち帰ると、いくらかのお金と交換してもらえるのだ。

 それと、モンスターの体内にはまれに魔石と呼ばれる青い宝石のような物質が埋まっていることがあり、これもまたギルドに持っていくと、大きさに応じて換金してもらえるのだった。

 魔石の回収はモンスターの体内を手でまさぐるという汚れ仕事なので誰もやりたがらないが、僕はパーティーのメンバーのためそれを率先してやっていた。

 僕の名前はクズミン。パーティーのみんなからは略してクズと呼ばれている。

 僕の所属しているパーティーは<穿つ刃>といって、剣士のライドンと魔法使いのマリンと弓兵のチェゲラと駆け出し冒険者である僕の四人で構成されている。

 冒険者ランクはライドンがBランクでマリンとチェゲラがCランク、僕がEランクだ。

 上からA、B、C、D、Eとランクが分けられていて、そのランクに応じてギルドで受けられる依頼や待遇などが変わってくる。

 Aの上にはさらにSランクというものがあるらしいけど、Eランクの僕には縁のない話だった。

 僕が足を引っ張っているせいでパーティー全体のランクはCランク。

 なのでマリンとチェゲラはともかく、もしかしたらライドンは僕をあまりこころよく思ってはいないかもしれない。

 それでもこの三人は最低ランクの僕をパーティーに入れてくれた。

 その恩を返すため、僕はこうしてゴブリンの体内に手を入れて魔石を探すのだった。

「駄目だ、今回のゴブリンたちも魔石は持っていないみたいだ……」

 僕が口を開くと、

「マジかっ、ここまで来てゴブリン三体だけかよっ、くそっ」

 ライドンが地面を蹴り上げる。

「ゴブリン三体ってことは銀貨が三枚か」

「じゃあ一人銀貨一枚ずつじゃん。ついてな~い」

 ゴブリンは一体討伐するごとにギルドから銀貨一枚が貰える。

 銀貨一枚だと大体一人分の一回の食事代くらいにはなるだろうか。

 銅貨が百枚で銀貨一枚、銀貨が百枚で金貨一枚と交換出来る仕組みになっている。

 ちなみにマリンが一人銀貨一枚ずつと言っているのは別に計算間違いをしているわけではない。

 僕はもとから頭数には入っていないのだ。

 僕が<穿つ刃>に加入する際、宿泊代と食事代を払ってやる代わりに報酬の取り分は僕以外の三人で三等分にすると取り決めがなされていた。

 僕はそれでも全然構わなかった。

 というのも僕を受け入れてくれるパーティーなど<穿つ刃>以外どこにもなかったからだ。


この世に生を受けた者は、その瞬間より必ず一つスキルを持って生まれてくる。

 大多数の人間はその生まれ持ったスキルによって職業を決めるのだが、僕には何故かスキルがなかった。

 そんな他とは違う欠陥品の幼い僕を両親は孤児院に捨てていった。

 十五歳まで孤児院で育てられた僕だったが、年齢制限によってそこも退院させられ、行き場をなくした僕が生きるために冒険者になったのがつい一か月前のことだ。

 しかし、スライムですら二匹以上で出てきたら満足に倒せない僕を仲間にしてくれるパーティーなど皆無だった。

 そのため、僕は一匹でいるスライムをみつけては、ちまちまと倒して手に入れた銅貨でその日暮らしをしていた。

 そんな身寄りのない僕を見かねて、ライドンたちは声をかけてきてくれたのだった。

 だからタダ働きだろうが文句を言われようが、僕はライドンたちのために懸命に働いている。

 今の僕にとっては、ライドンたちだけが唯一家族と思える存在だったのだ。

 僕たちのパーティーで一番強いのはライドン。

 早いとこもっと強くなって、ライドンたちの足を引っ張らないようにしないと。

「さてと、もう暗くなってきたし町に戻って換金したら飯にしようぜ」

「ああ、そうだな」

「賛成~」

「う、うん」

 ライドンの号令のもと、僕たちは近くの町へと帰ることに決めた。

 森の奥深くからきびすを返してもと来た道を戻る。

 とその時だった。

『グオオォォォーン!!』

 地を這うような獣の雄たけびが聞こえたと同時に、見たこともないような大きなモンスターが木々をなぎ払って僕たちの前に姿を現した。

 黒光りする巨体を揺らしながら、鼻息荒く僕たちを見据えている。

「ベ、ベヒーモスっ!?」

「なっ、なんでこんなところにっ……!?」

 ライドンとチェゲラが声を上げた。

「ベヒーモスって?」

「あんたそんなことも知らないのっ? ベヒーモスっていうのはBランクの冒険者が数人がかりでやっと勝てるモンスターよっ。今のあたしたちじゃ勝ち目はないし、かといって逃げることも不可能だわっ」

「そ、そんな……」

 ライドンとチェゲラとマリンはベヒーモスと対峙しつつ、剣や弓を取り出して身構える。

 しかし、いつもの強気な態度とは打って変わって、三人は手足を震わせていた。

 その様子を見て、ここで死ぬのかと悟った僕は、微力ながらも協力しようと、腰の短剣を引き抜く。

『グオオォォォーン!!』

 ベヒーモスの咆哮が森中に響き渡った。

 体が振動でびりびりと震える。

 僕たち四人は目を見合わせ心を一つにした。

 たとえ勝てなくとも仲間とともに最後まで戦うのだと。

「スキル、精神統一っ」

 チェゲラがスキルを発動させ矢を射った。

【精神統一】は狙った場所に矢を放てるチェゲラ自慢のスキルだ。

 チェゲラが放った矢はベヒーモスの右目に向かって飛んでいく。

 だが、ベヒーモスは顔を横に振るとその矢を軽々とはじいてみせた。

「スキル、雷撃っ!」

 そこへマリンが続ける。

 雷鳴をとどろかせベヒーモスの頭上に一筋の雷が落ちた。

「やった」

 僕はその光景に思わず声を出すが、ベヒーモスは無傷だった。

 それどころか、

『グオオォォォーン!!』

 火に油を注いだだけのように見える。

「くそっ、こうなりゃ……」

 ライドンが剣を握り締めつぶやくと、

「スキル、破壊剣っ!」

 スキル【破壊剣】を口にした。

 ライドンの剣撃を二倍に高めるスキルだ。

 もしかしたら倒せるかもしれない――と思った直後。

 ザシュッ!

 僕の隣にいたライドンは、あろうことか僕の左足を斬り落とした。

 僕は体勢を崩してその場に倒れてしまう。

「ぐあぁぁっ! ……な、なんでっ……!?」

「わりぃなクズ、オレたちが生き延びるためだっ」

 そう言うとライドンは地面を蹴って立ち去っていった。

「なっ……!?」

 僕はライドンの背中をみつめ手を伸ばす。

 そんな僕にチェゲラとマリンの声が降ってきた。

「クズ、最後にオレたちの役に立ってくれたなっ。あばよっ」

「あんたの死は無駄にはしないわっ。じゃあねっ」

「そ、そんなっ、二人とも……!」

 片足を失った僕は、それでも懸命にライドンたちを追いかけようと地面の土を掴む。

『グオオォォォーン!!』

 しかしながら、次の瞬間、ベヒーモスの巨大で鋭い角が僕の体を貫通した。

「がはっ……!」

『グオオォォォーン!!』

 僕の体が突き刺さったまま、ベヒーモスは誇らしげに再度雄たけびを上げる。

 そして、ブンッと角を振り上げ僕を上空高く舞い上がらせると、壊れたおもちゃに興味を失った子どものように、僕を無視してベヒーモスはその場を離れ駆け出していった。

 高いところから地面に落下した僕。

 涙でにじんだ僕の瞳には、もう仲間三人の姿は映ってはいなかった。

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