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第42話 王子様のその後 ⭐︎

「え、何なになに。どゆこと。何。何かあったわけ!?」


 えぇーっ!? とやけに嬉しそうに、けれど冷やかす気満々のウキウキとしたライト兄様の声に、ヴァーレン様と私は苦虫を噛み潰したような顔でゆっくりとライト兄様を振り返る。


 そこには案の定な顔をしたライト兄様が、その目を爛々ときらめかせて続報を待っているようだった。


「……私はひとまずルーウェン伯爵に話しをしに行くが……ヴァレンタイン卿も同行する形で良かったか?」


「うん、そうさせて貰えると有り難いかなぁ。ルーウェン伯爵とはあんまり交流がないからねぇ」


 大きなため息をついた後にライト兄様を華麗にスルーして話すヴァーレン様の言葉に、ルド様がニコリと返す。


 その間も、ライト兄様はやんややんやと小煩く周囲をウロウロとしながら騒ぎ立てているが、さすがヴァーレン様もルド様も歯牙にも掛けない。


「承知した。……話の流れにもよるとは思うが……ヴァレンタイン卿もせっかく来たのだろうし、話が終われば先に帰るなり、……ルーウェン家と交流を深めるなり、私のことは構わずに動いてくれて構わない」


「…………え? ……まぁ、そう言ってもらえると有り難くはあるけど……。……いいのかい?」


 ヴァーレン様の意味深な言葉の裏を探るように、ルド様は少し戸惑いを見せつつも私の方を見遣る。


 ヴァーレン様の意志は聞いた一方で、ルド様の視線を受けた私はどうすべきが正解なのかわからず、ひとまず困って愛想笑いを浮かべるほかなかった。


「おい、ルド! そー言うとこだぞ、敵に塩を送りやがって! そんなだからお前は昔っから……っんがっ!」


「では行こうか」


 ギャースカと騒ぐライト兄様をガシリと乱雑に小脇に抱えたヴァーレン様は、まだ暴れているライト兄様を容赦なくズルズルと引きずって行く。


 そんな後ろ姿を無言で眺めやり、私とルド様は視線を交わすとひとまず2人の後を歩き出す。


「お騒がせしました……」


「いやぁ、本当に仲が良さそうだねぇ、あの2人。羨ましいなぁ」


 コホンと咳払いをした私に対し、ヴァーレン卿も案外と強いんだね。と呟いたルド様は、楽しそうに謎に目を光らせている。


 腕からは解放はされたものの、未だに前方でギャースカと騒いでいる1人とヴァーレン様を見て、何かを狙っているかのようにキラキラと目を輝かせているルド様の様子に私は苦笑する。


 私は少し先を歩くルド様の後ろ姿を眺めやる。いつも緩くまとめられていた綺麗な金髪は、今日は綺麗に一纏めにされて背中で揺れている。お父様に会うからかしら、とそんなことを思いながらその背中を見遣った。


 貴族然とした明るめの青地生地のきちんとした身なりは、ルド様の瞳の色と相まってとてもよく似合っている。いくらかきっちりとした身なりは、物語から抜け出てきた王子様を益々と連想させた。


「あ、ごめん、早かったよね」


「え、あ、いえ、お気になさらないでください」


 よく通る屋敷周辺の道とは言えきちんとした舗装もされず、今日は普段よりもおめかしをした履き慣れない靴である。


 くるりと金色の尻尾を揺らし、歩みを合わせるので必死であった私を敏感に察知して振り返ったルド様に、スッと腕を差し出され……そうになっていくらか変な沈黙が降りた。


 私はその手をしばし見つめてチラリと視線を上げると、先を歩くヴァーレン様が一瞬こちらを見た気もしたが、直ぐに何ごともないそぶりで歩いていく。


 一方中途半端な体勢で停止したルド様は、差し出しかけた手を違和感のある動きで誤魔化すように一振りするとヘラリと笑う。小さくごめんねとジェスチャーで謝罪され、私はとんでもないとブンブンと頭を振った。


 細やかな気遣いをしてくれるルド様であるからこその言動に、変に気を遣わせて巻き込んでいる現状が申し訳ない。


「少しゆっくり歩いても大丈夫かな?」


 少し先を行く2人に呼びかけたルド様を振り返ったヴァーレン様は、コクリと頷くも、ライト兄様と進める歩みのスピードは変化があるようには見えなかった。


「んー……? まぁ、大丈夫みたいだし、ゆっくり行こうか? 歩ける? エスコートが必要だったら喜んでさせて貰うし、いつでも言ってね」


「はい、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」


 微妙な空気の漂う現状を掴みかねているであろうに、ルド様がウインク付きでにこりと笑う。


「あ、そう言えばなんだけどね」


 いくらか緩まった歩みのおかげで前方の2人と距離が開いた頃、ルド様がおもむろに口を開いた。


「一応報告と思いながら言うタイミングがなかったんだけど、僕の兄の婚約者と、呪いの件なんだけどさ」


「はい」


「怒られちゃった」


「えぇっ!?」


 えへ、とおどけてみせるルド様の言葉とは裏腹な内容に、私は思わず声をあげる。


「呪いの一件はフォルン伯爵家が関わっている以上、どうしたって父の耳に入るからさ。仕方なく説明したら、何で言わないんだーって。父と兄からダブルで」


 あはははと軽く笑うルド様を眺めやり、私はまぁそうなりますよねと苦笑する。


「父には軽口ばっかり叩く癖に本心は言わんだの、そんな娘はこっちから願い下げだの、これに懲りたら僕もさっさと意中の恋人を1人に絞れだの、もぉ五月蝿いったら」


「あはは……」


 やれやれと言うジェスチャー付きでため息をつくルド様は、苦笑する私の顔を見てふっと微笑む。


「……兄には、侮るなよって襟首掴まれちゃった」


「えぇっ!?」


 あははと笑っているものの、とても穏やかとは言えない言葉に私は今度は青くなる。


「僕に心配されるようなら私もまだまだだし、父もこれで懲りただろうから、自分の嫁くらい自分で探す、だって。私の心配をするくらいならさっさと相談してこいってさ」


「ーーそうでしたか」


 僕の努力は何だったんだーとおどけてみせるルド様の、けれどさっぱりとした穏やかなその表情に、私は隣を歩きながら頬がゆるむのを感じていた。

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