「え? そこまでですか? 一番重要な部分が聞けてなくありませんか?」
サラサの真剣な問いかけに、私はやっぱりなと視線を逸らす。絶対にそう突っ込まれると思っていた。
「そのままライト兄様が帰るって騒ぎに騒いで、ルド様とヴァーレン様をその場に放置して、引きずられて帰らざるを得なかったんだもん……」
「そこは婚約者で妹なんですからもう少し食らいつきませんと」
「サ、サラサ。ルド様もいるから少し落ち着いて……」
あまりのまだるっこさに、サラサのテンションがわずかばかり狂っていることに私は焦る。友人の完璧な評判に、自分のアホさで傷をつける訳にはいかない。
「……ルーウェンて、山のように猫かぶってる八方美人優等生クールキャラっぽいと勝手に思ってたんだけど、地だとあんな感じなんだねぇ」
焦っている私を他所に、ルド様が突然に聞き流せない単語を連発することに私は目を丸くして振り返る。
「え? ライト兄様学校では八方美人優等生クールキャラなんですか!?」
まさかのルド様の発言に私はくい気味に繰り返し、その美しい顔を凝視する。
「僕が個人的にそう思ってただけだけどねぇ。何でもそつなくこなして、クールにさらっとしてるイメージかなぁ。いやー昨日のルーウェンは面白かったなぁ、仲良くなりたい」
そう呟くルド様は、昨日のことでも思い出したのか再びくくくと笑う。
「……ヴァーレン様も仰ってましたけど、地のライト兄様と仲良くなっても大変なだけだと思いますよ……」
地のライト兄様に幼少の頃から色々と被害にあっている私としては、げんなりとする他ない。
「……けれどその話しぶりですと、ハンナのお兄様はヴァーレン様ととても仲がよろしそうですね。ヴァーレン様は侯爵位ですが、普段のお2人のご様子を伺いますと特別にお互い気を許している間柄に感じます」
「確かにヴァーレン卿とルーウェンは今はクラスも違うけど、図書館で会ってたり、よく話してたりしているのは見たことあるかも知れないなぁ」
「婚約について昨日の帰りに何か話したりしなかったのですか?」
「うーん……多分ニース……あ、弟も一緒に馬車に乗ってるし、あんまり込み入ったことを話したくないんだと思う」
「そうですか……。それにしてもヴァーレン様の物言いが気になりますね。そのまま受け止れば婚約は簡単に破棄してくれそうではありますが……。とは言え隠れ蓑と言う言い方も引っかかりますね。あることであるとは言え、婚約破棄は決して良いイメージでもない訳ですから……」
ふむぅと顎に手を添えて考えるサラサの言葉に私はにわかに浮かれる。
「サラサもそう思う? だよね、ヴァーレン様も本意じゃないってことよね?」
思わず身を乗り出す私だったけれど、身を乗り出したままに押し黙った。
急に静かになった私を不審に思い、サラサとルド様がこちらに視線を向ける。
「……って言うか、私……ヴァーレン様を怒らせちゃったかな……? い、一族郎党とか……ないよね……?」
さささーっと血の気が引く私を眺めながら、束の間の後にルド様が口を開く。
「ヴァーレン卿は優しそうだし、大丈夫じゃない?」
「ハンナから話を伺っているヴァーレン様も、世間的な評判のヴァーレン様も、そう言う感じの方とは印象にありませんね」
「だ、だよね、私もすごい優しいイメージだし……」
「ただ……」
「え、ただ?」
ホッとしたのも束の間、サラサの続けた言葉に私は止まる。
「ヴァーレン様はお優しい方のようですが、現当主のヴァーレン様のお父様は、冷酷無比との噂に名高い方ではありますね」
「…………そうですか……」
サラサの言葉に、私はガクリと肩を落とした。