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第16話 黒魔術師一家の君 改め本の妖精さん

「ついたよ、小鳥ちゃん。ここが図書室だ」


 ルド様に促されるまま中庭から校舎に入り、渡り廊下を過ぎ、校舎を通り抜けて再び外に出て、校舎と少し離れた場所に建つ建物を見上げる。


「この建物全部ですか?」


「そうだね」


「これは図書室ではなく図書館ですね……」


 淑女学校の図書室も小さくはなかったが、お洒落なステンドグラスで飾られたドーム状の建物一棟丸ごとであれば、これは図書館と言って差し支えなさそうである。


「もとは普通に校舎内に図書室があったらしいと聞いているけど、ヴァーレン家が寄贈した……って話しだったかな」


「へー……。お金があるところにはあるんです……え? ヴァーレン家ですか?」


「そうだね」


 聞き流しかけた内容に聞き捨てならない名前が出て、思わず聞き返す。バッとガロウさんを振り向くと、うんうんとうなづいている辺り想定範囲内の内容らしい。


「……ヴァ、ヴァーレン家はすごいんですね……」


「一族の歴史からしてそんじょそこらの貴族とは格が違うよねぇ」


「…………」


 また不安になってきたなぁと言う不安感を努めて考えないようにしながら、ひとまず行きましょうか。とルド様に声を掛ける。


「えーっとねぇ、本の妖精さんはいるかなぁ……っと……」


 館内に入り、キョロキョロと周囲を見回すルド様御一行は、既に図書館の注目の的と化していた。好奇の視線が痛い。


 図書館は、とても綺麗だった。ドーム状の建物の1番高い屋根部分からは、円状に青空が見え、その青空を飾り立てるように周囲を色とりどりのステンドグラスが飾る。日の光がステンドグラスを通して入り込み、図書館内は優しげな彩りに溢れていた。


「綺麗……」


「小鳥ちゃん、本の妖精さんは2階の個室にいるそうだよ」


 はー……っと見惚れているうちに、ルド様は手近な女生徒に本の妖精――もといヴァーレン家のご子息の居場所を聞き出して戻ってくる。


 聞き出された女生徒はぼんやりしながら未だルド様に目を奪われている。ルド様の言動を見ていた訳ではないけれど、あの様子では過剰なお礼でもしたのでは……と疑ってしまう私がいた。


「個室なんてあるんですか?」


「勉強部屋の延長みたいなものだと思うよ。とはいえ、本の妖精さんの個室は専用みたいな扱いみたいだけどね」


 そういって、ルド様は壁際にある階段を指差す。


「すごい蔵書数ですね」


「本についてヴァーレン家が相当数を寄贈したって噂だねぇ」


「そ、そうですか……」


 ヴァーレン家恐るべし。とゲンナリしながら階段を上がり、図書館とは別の空間として区切られた細めの通路を進むと、扉のついた部屋が並ぶ一角に出た。


 いくつかの部屋には使用中、未使用などのプレートがかかっていたり、扉自体開いている部屋もいくつかあるのが確認できる。


「……多分、あの一番奥の部屋かな?」


「……扉……開いてますね……」


「……ひとまず僕が見てこようかな。同級生で多少面識もあるしね」


「あ、私も一緒に……」


「本当? 心強いなぁー」


 変に扉が開いている方が覗くみたいで緊張するな。と思いつつ、でも扉が閉まっていたらそれはそれで緊張するかと思い直す。


 ふーっと息を吐いて、そろりとルド様の背後から顔を覗かせた私は、室内の人影を視認した直後に思わずルド様の服を思い切り引っ張って後退った。


「うわっ!? 小鳥ちゃん!?」


 思いがけない事態にルド様もさすがに驚きを隠せないでいたが、私はそれどころではなかった。


「ル、ルド様、お静かに……! あっ……ご、ごめんなさい、失礼を……!」


「いったいどうしたの、小鳥ちゃん?」


 半分パニックになりながらわたわたと焦る私に、ルド様もガロウさんも何事かと見てくる。


「ま、まずいです! あ、兄がいました……っ!」


「えっ!?」


 私の告白に、ルド様とガロウさんが同時に声を上げた。

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