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第119話

「毒だって!?」

「はい。それもかなり強力な毒です。拙者でさえしばらく動けなくなったくらいですから」

ふらつきながらスズが言う。


「お前、このカレー食べたのか?」

「ランペイジどのには失礼だと思ったのですが毒見させていただきました」


俺はランペイジさんを見た。


ランペイジさんは、

「そ、そんな。毒だなんて入っているわけ……」

「でしたらランペイジどの、そのカレーを一口食べてみてください」

額から汗が流れ落ちる。


「ランペイジさん?」

俺たちの視線がランペイジさんに集中する。

一点をみつめているランペイジさん。


そして小さくつぶやいた。

「……このチビが……」

ん?

「……このチビが邪魔しやがって!」

さっきまでの温和な表情とはうってかわって麻薬でハイになった常用者のような血走った目でスズをにらみつけるランペイジさん。


「ランペイジさん!?」

「本性を現しましたね、ランペイジどの」

「おれはランペイジなんて名前じゃねぇ! ヤコクのナナシだっ!」

人が変わったように暴力的な言葉遣いになるナナシ。


「せっかくの王子を殺す機会を潰しやがって、チビがっ! てめぇからぶっ殺してやるぜっ!」

ナナシは隠し持っていた二本の包丁を構えた。

「毒で暗殺なんて卑怯な真似をする者は捨て置けません。カズンどの助太刀は無用ですから」

スズもナイフを構える。

ふらついているけど大丈夫か?

っていうかスズも前に俺を暗殺しようとしたよな。

その隙にカルチェは「ひえぇぇ~」と声を上げる大臣とアスナロさんを部屋から連れ出していた。


ドン!


振り向くとスズが床に押し倒されていた。

「くっ……」

「毒殺なんてする奴は弱いと思ってたか、チビめっ!」

「毒が残っていなければ……」

スズが力負けしている。


助太刀無用とか言っていたけど助けた方がいいよな。

俺は長テーブルをよけナナシの横に回り込んで下から思いっきり腹を蹴り上げた。


「ぶふぉおえぇぇーーー」


天井を突き抜け城外に吹っ飛んでいくナナシ。


「あ、やりすぎた……」

上を見ると城に大きな穴が開いていた。

そこから太陽の光が差してくる。


「……まぶしっ」



ランペイジさんあらためナナシは城の外の森の中で重傷を負って倒れているところを発見され地下牢に入れられた。


後日我に返ったナナシの話を聞いた限り、どうやら本物のカズン王子に毒を盛ったのもナナシで間違いないようだった。

これで暗殺犯もわかり一件落着……でいいのかな。


俺は日記を書き終えると机の上に置いた。

そしてベッドに横になる。


と、

「カズン、入るわよ」

廊下からテスタロッサの声がして俺が返事をする前にドアが開いた。


「……あたしとの結婚どうするつもりなの?」


いつになく真面目な顔のテスタロッサ。


そうだ。

まだこの問題が残っていたんだった。


だが悪夢はこれだけでは終わらず、「みんなも入ってきていいわよ」と外に呼びかける。


みんな?


すると廊下から女性たちがぞろぞろと俺の部屋になだれ込んでくる。


前から順番にミア、スズ、カルチェ、エルメス、そしてミザリーだ。

部屋にいたアテナとテスタロッサを含めると部屋には七人の女性陣。


「あの、テスタロッサ。これはどういう……」

「あの後みんなで話し合ったの」

あの後というのは婚姻の儀の後のことだよな。


「そして一つの結論に達したわ」

テスタロッサはびしっと俺を指差して言った。


「カズン。あんたはあたしたち全員と結婚しなさいっ!」


「へ!?」


みんなが俺を見て優しく微笑んでいる。


「いや、何言ってるんだよ。冗談だろ……冗談だよな?」

俺はみんなの顔を見回す。


「わたし精いっぱいカズン様のお世話をさせていただきますっ!」

ミアが両手を前にして力を込めて言う。


「拙者カズンどののためならたとえ火の中水の中」

スズが俺の目をみつめる。


「ふつつかものですがよろしくお願いいたします!」

カルチェが全力でお辞儀をする。


「ふふっ。この世界では重婚は認められていますから大丈夫ですよ、カズン王子」

エルメスが楽しそうに笑っている。


「わ、わたし王子様がは、初めてだったんです。ほ、褒めてもらったの……」

前髪を切ったミザリーが口角を上げて薄ら笑う。

なんでこいつまでいるんだ。


「……カズンなら結婚してもいい」

アテナが俺の服の袖を引っ張る。


「まあ、そういうことだからこれからよろしくねっ、カズン」

テスタロッサが可愛らしくウインクしてみせた。


そんな~……。



俺のカズン王子としての生活はまだまだ続きそうだ。

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