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第116話

俺とテスタロッサの婚姻の儀が行われるという話はすぐに国中に広まった。

俺はどうすべきか悩んでいた。


しかしその答えは出ないまま婚姻の儀当日を迎えてしまった。



トントン


「ミアです。失礼します」


ミアが朝食を運んで部屋に入ってきた。


「おはようございます、カズン様。アテナ様」

「ああ、おはよう」

「……おはよう」


「今日は婚姻の儀ですね。これ今日のカズン様の服です」

ミアが俺の今日着る服を取り出す。

婚姻の儀では俺も含め出席者はみな正装で出る必要があるらしい。

「ああ、ありがとう」


「あれ、カズン様目の下にクマが出来てますよ」

「うーん、あまり眠れなかったからかなぁ」

今日の日のことを考えていたから昨夜はほとんど寝ていない。


「そうなんですか? でしたらこれどうぞ」

緑色の飲み物を勧めてくる。


「これは何?」

「わたしの特製栄養ドリンクです。わたしも疲れがたまった時にたまに飲むんです。味はちょっと苦いかもですけど効果は保証しますよ」

笑顔のミア。


「……わたしも飲んでみたい」

「ん? アテナも飲みたいのか?」

「……うん」

「わかった。じゃあ半分ずつな」

俺は二つのグラスに栄養ドリンクを注いだ。


「……いただきます」

「どうぞ、アテナ様」

アテナがグラスを両手で持ち栄養ドリンクを口に含んだ。

「……ぅえ~」

口から出す。


「どうしたアテナ?」

「アテナ様、苦かったですか?」

「……ひがひ」

舌を出しながら言うアテナ。


「あ~あ、こぼしちゃって、ほら」

俺はタオルを取って拭いてやった。

「……カズン、ありがとう」

「どういたしまして」


そんな様子を見てミアが、

「仲がいいんですね」

と言ってくる。


「そうか?」

「……仲良し」

「ではわたしは失礼しますね」


部屋を出ていこうとして……立ち止まるミア。



振り返り、


「カズン様はテスタロッサ様のことが好きですか?」


「……っ」


予想していなかった質問に固まってしまう。


「す、すみません。出過ぎたことを……失礼しますっ」


ミアはそそくさと部屋を出ていった。


正直テスタロッサのことは嫌いじゃない。

嫌いじゃないが結婚となるとなぁ……。


「……カズン困ってる?」

「うん? まあそうだな……」



朝食を終えた俺はアテナと城内の大広間に向かった。

そこでエルメスとカルチェをみつける。

優美なドレスに身を包んだダールトン姉妹はいつにも増して綺麗だった。


「何ぼけーっとしてるんですか? カズン王子」

「ちょっと姉さんっ」

ヒールを履いた二人が寄ってくる。


「もしかして私たちに見惚れてました?」

「ちょっと姉さんてばっ」

「うん、そうだな」

眠くて頭が回らない。

ミアのくれた栄養ドリンク、全然効かないじゃないか。


「へ? カ、カズン王子どうしました? いつもと反応が違いますけど」

「カズン王子様、今なんて言ったんですか? もう一度お願いしますっ」

エルメスは俺の顔を覗き込むように、カルチェは目をキラキラさせて俺を見てくる。


「アテナ、エルメスたちと一緒にいろよ。いいな」

「……わかった」

「アテナのこと頼むな」

そう言い残し俺は三人から離れた。


テスタロッサがいる前のステージに向かって歩いていると、

「おーい、王子よこっちじゃこっち!」

国王が手招きしている。


俺は王族が座るテーブル席に近寄る。

そこには国王とエスタナ王、エスタナ王妃にセルピコが座っていた。


「なんだセルピコも来ていたのか」

「なんだとはなんだっ。同盟を結んでいるのだから当然だろう」

偉そうにふんぞり返るセルピコ。

横にはいつもの美人秘書が立っている。


「カズンくん、今日はよろしく頼むよ」

「カズンさん。これからも末永くよろしくお願いしますね」

「あ……はい」


「ほれ、テスタロッサちゃんが待っておるぞ」

ステージを見てあごをしゃくる国王。


「じゃあ、失礼します」

俺は王族席を離れテスタロッサのもとに向かった。


「よう、おはようテスタロッサ」

「あ、おはよう……」

俺を見上げ声を出すがいつになく元気がないテスタロッサ。


「眠れたか? 俺は眠れなかったよ」

「うん、まあ……ね」

普段とは大違いで連れてこられた仔猫のように静かだ。


ステージからはみんなの様子がよく見えた。

右側にはアテナがエルメスとカルチェと同じ席にいる。

そこには宮廷魔術師になったばかりのミザリーもいた。

メイドの席もありミアとスズは一緒のテーブルだ。

そして左側には王族席とダンの姿もあった。

あいつやっぱり来ていたか。


「……ねぇカズン。あたし、あんたのこと、嫌いじゃないわよ……」

「ん?」

「というかむしろ――」

「ながらくお待たせいたしました。今日の婚姻の儀の司会進行を務めるさせていただきます、パネーナと申します」

パネーナが司会かよ。

「あ、悪い。今何か言ったか?」

「……何も言ってないわよ」


午前九時から始まった婚姻の儀はつつがなく進んでいった。

途中、兵士たちによる寸劇のようなものも見させられた。


そして今まさに婚姻の儀は佳境を迎えていた。


兵士たちの寸劇があった時とはうってかわって厳かな雰囲気に包まれている。


国王がステージに立ち、


「それでは最後に……」


会場のみんなを見渡す。


「この婚姻の儀に異議のあるものはおるか? 異議のある者は手を上げよ」


するとさっきまでしーんと静まり返っていた会場がざわざわとどよめく。

やっぱりか。

ダンの奴が手を上げたんだな。

俺は顔を上げ会場を見た。

すると、


「っ!?」


予想通りダンはたしかに手を上げていたが、なんと他にも五人の人間が手を上げていた。

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