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第115話

「よく戻った、王子よ。封書はちゃんと届けてくれたかの?」

「はい」

俺とミザリーは国王に報告をしに謁見の間に立ち入った。


「して、ミザリーはお主の目から見てどうじゃった?」

「宮廷魔術師として申し分ないかと思います」

「そうかそうか。ではミザリーよ、お主は今をもって宮廷魔術師見習いから正式な宮廷魔術師とする」

「え……い、いいんですか? わ、わたしで」

きょろきょろと首を動かすミザリー。


「よかったな、ミザリー」

「で、でもわたしエスタナ王様と王妃様の前でし、失神してしまいましたし……」

「そんなこと気にするな」

俺だって大学の始業式の日、気分が悪くなって医務室に運ばれたことがある。


「ぅ、ぅぅ、嬉しいです……あ、ありがとうございます。せ、精いっぱい頑張りますっ」

ミザリーは大きく頭を下げた。

その時ミザリーの目から涙が落ちるのが見えた。


「住む部屋はエルメスの部屋の向かい側でよいじゃろう。エルメスの部屋ももとに戻ったようじゃしのう」

国王が言う。

そうかエルメスの部屋はやっと直ったのか。

これで俺の部屋から出ていってくれるぞ。

俺はミザリーとわかれ、自分の部屋に向かった。



「あ、お帰りなさ~い。カズン王子」

俺の部屋にエルメスがいた。

自分の部屋のように薄着で俺のベッドに横になっている。


「お前なんでまだいるんだよ。部屋直ったんだろ」

「昨日夜遅くまでアテナちゃんに魔術を教えていたので眠くって。私今起きたところなんですよ。はぁ~あ」

あくびを隠そうともせず大口を開けるエルメス。


「知るかよ。俺も疲れてるんだからそこどけ」

ベッドから無理矢理起こす。

「ちょっと~、女の子にはもっと優しくしないとモテませんよ、カズン王子~」

四捨五入したら三十路のくせに女の子はないだろう。


「そうだ。ミザリーが正式に宮廷魔術師になったからな」

「あら、それはよかったですね。お祝いしましょうか」

「お前は酒が飲みたいだけだろ。まあ追い出されないようにお前も頑張るんだな」

「有給使い終わったら頑張りま~す」

エルメスはふらふらとよろつきながら風呂場に入っていった。



俺が仮眠をとっていると風呂から上がったエルメスがバスタオル姿で出てきた。

「服着ろよなぁ」

「着替え忘れたんで取りに出てきただけですよ」

エルメスはそう言ってアテナのベッドの上に置いてあった着替え用の服を持ってまた戻っていく。


「それでカズン王子~。国王様の届け物ってなんだったんですかー?」

風呂場の脱衣所から声が聞こえてくる。


「来週俺とテスタロッサの婚姻の儀をやるって話だった」

「婚姻の儀ですか。カズン王子ほんとにテスタロッサ様と結婚する気なんですかー?」

「さあな。わからないよ」

「ふーん」


「一悶着ありそうですね」

着替えを終えたエルメスが出てくる。

また露出の多い服を着ている。


「どういうことだ?」

「婚姻の儀の最後の方に異議申し立てという形式上の時間が設けられているんです。普通は誰も異議なんて唱えませんがダンさんならやりかねませんから」

異議申し立て?

そんな制度があるのか。


「異議を唱えるとどうなるんだ?」

「さあ。前例がありませんから」

牛乳を飲みながらエルメスが微笑んだ。

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