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第113話

メガネが作ってくれた大型テントに入ると俺とミザリーは寝袋を使って休息をとった。

ミザリーは疲れていたのかすぐに眠りにつく。


おそらく緊張やらプレッシャーやらで気を張っていたのだろう。

幼子のように眠りこけている。


そんな様子を横目で見て、

「俺も眠るか……」

俺は目を閉じた。



「……お、おはようございます、王子様」

気が付くとミザリーが長い銀色の髪を垂らし俺を上から見下ろしていた。

いつの間にか夜は明けていた。


「おう。おはようミザリー」

「お、おはようございます」

「昨日はよく眠れたか?」

「は、はい。お、おかげさまで」


「あれ? もしかして服着替えたのか?」

ミザリーは昨日の服とは違う服になっていた。

どちらも地味なことに変わりはないのだが。


「は、はい。き、着替えは持ってきていましたから」

バッグを掲げてみせるミザリー。

「そうか。用意がいいんだな」

俺は昨日の服のままだ。


……ところでいつどこで着替えたのだろう。

恥ずかしがり屋のミザリーが眠っているとはいっても俺がいるテントの中で着替えるとは思えないし。外かな?


「どこで着替えたんだ?」

つい言葉にしていた。


「ね、寝袋の中でこ、こうやって……」

体をかくかくくねらせ説明するミザリー。

その動きがちょっと……いやだいぶ貞子っぽくて不気味だった。



テントの外に出て、

「あ、しまった」

声を出す。

俺はメガネに貰った大型テントをもとの大きさに戻す方法を聞き忘れていた。


「これ、どうやって戻すんだ?」

テントの外側をぐるりと見て回るがスイッチらしきものは何もない。

内側も調べてみたがやはりそれらしいものはなかった。


「も、もとの大きさに戻せなくなったんですか?」

「ああ。そうらしい」

どうするかこれ。

このまま草原の真ん中に置いていくわけにもいかないしなぁ。


その時ミザリーがぶつぶつとつぶやき始めた。

何を言っているのだろうと振り向くと、ミザリーは魔術書を開き呪文を唱えていた。髪が揺れる。


「……万物の声に耳を澄ませ、収縮!」


するとテントがみるみるうちに縮んで小さくなっていく。


「おおっ!」


ゲルのように大きかったテントが最終的に手のひらサイズまでになった。

俺はそれを拾い上げ凝視する。


「すげー。小さくなっちゃったぞ。今のも魔術か?」

「そ、そうです。ぶ、物体を二十四時間だけち、小さくする魔術です。お、大きな物を持ち運ぶのに便利です」

「お前ってすごいんだなぁ」

俺は素直に感心していた。

「そ、そんな滅相もないです」

ぶんぶんと首を横に振るミザリー。


人は見かけによらないな。

こいつは本当にエルメス以上の魔術師かもしれない。

こんな奴が埋もれていたなんて。


「わ、わたし、お役に立てたでしょうか?」

「ああ、もちろんだ」

「そ、そうですか。よ、よかった」

ミザリーは胸に手を置いた。

髪の隙間から笑顔が見える。


俺は小さくなったテントをポケットに押し込むと、

「じゃあそろそろ行くか」

「は、はいっ」

エスタナに向けて出発した。




「久しぶりだねカズンくん」

エスタナ王が口を開く。

俺たちはエスタナ城に着くとすぐにエスタナ王と王妃のもとに通された。


「お久しぶりです、エスタナ王。エスタナ王妃」

「よく来てくれましたねカズンさん。そちらのお嬢さんも」

「は、はじめまして。わ、わたしはミザリーと申します。イ、イリタールの宮廷魔術師見習いです」

「ミザリーさんね。よろしく」

「は、は、はいっ」

恐縮しきっているミザリー。

まあ一国の王と王妃を目の前にして、周りには護衛の衛兵が沢山居並んでいたら無理もないか。


「今日はテスタに会いに来てくれたのかな?」

「それもありますけど、今日は国王からの封書を届けに来ました」

「イリタール王からの封書?」

虚をつかれた様子のエスタナ王。

本当はテスタロッサになんか会いに来てないんだけどまあいいだろう。


「これです」

前に進もうとするが大臣が俺のもとに近付いてきてくれた。

「わたくしがお渡しします」

「あ、すみません」

大臣に封書を手渡す。


「開けていいかな?」

大臣から封書を受け取ったエスタナ王が俺を見る。

「はい」


封書に目を通すエスタナ王。

「ふむ、なになに……おお! これはめでたい!」

一人声を上げた。


「どうなさったの、あなた?」

エスタナ王妃が訊く。

俺も中身が気になる。


すると、エスタナ王が答えた。

「来週テスタとカズンくんの婚姻の儀を執り行うそうだ」

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