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第110話

「私のパン屋でバイトさせていたんすけどミザリーは恥ずかしがり屋で接客に向いていないっす。だから宮廷魔術師にしてやってほしいっす」

「いやいやいや」

俺が言うのもなんだが、こんなコミュ障みたいな奴とても使い物にならないだろ。


ミザリーは黙ってうつむいている。

俺が下から顔を覗きこむように見上げると口元が見えた。

まるで口裂け女のように口角が上がっている。


「うおっ」


思わず声が出てしまった。

まずい。女性に対して今のは失礼だったな。


「王子様、ミザリーは宮廷魔術師になりたいらしいっす。そうっすよね、ミザリー?」

「う、うん。わ、わたしお姉ちゃんのお荷物になりたくない。や、役に立ちたい」

絞るように声を出すミザリー。


家族の荷物になりたくないって気持ちはニートだった俺にはよくわかる。

出来ることならミザリーによくしてやりたいけど……。


「カズン王子、私が彼女の実力を見てみますよ。判断はそれからで」

エルメスが言う。

「わかった、頼む」


「さ~て、ミザリー。あんたの今出来る最高の魔術を私に見せてちょうだい。可能性を感じれば宮廷魔術師に推薦してあげるわ」

「感謝するっす、エルメス先輩。ほらミザリー、あなたの力を見せてやるっすよ」

そう言われたミザリーはなにやらぶつぶつとつぶやいている。


独り言を言っているのかと思ったが、どうやら呪文を唱えているらしい。

エルメスが腕を組みその様子をみつめる。


「……天上に奇跡を起こせっ!」


ミザリーが突然叫んだ。


……。

何も起こらない。


残念だがミザリーを宮廷魔術師にすることは出来ないな。

そう思った時、体がぶるっと震えた。


なんだ?

なんか寒いぞ。


「嘘でしょ……」

エルメスが窓の外を見てもらす。

俺もつられて外を見る。

すると、もう春だというのに雪が降ってきていた。

夕日に照らされ雪がオレンジ色に光り輝く。


まさかミザリーの奴。魔術で雪を降らせたのか……。


「おい、エルメス。これって……」

「信じられないですがミザリーの魔術です。こんなこと私にも出来ませんよ」

「ってことは宮廷魔術師合格か?」

「ええ、文句なしに」


「すごいっす、ミザリー。やったっすよっ」

カルバンインがミザリーに抱きつく。

カルバンインに揺さぶられミザリーの銀色の長い髪も揺れる。

その瞬間目元があらわになった。


ミザリーの目に涙が浮かんでいるのが見えた。

なんだか俺も自分のことのように嬉しくなった。


「……これあげる」

「わ、わたしに? あ、ありがとう」

見るとアテナがミザリーにリンゴを渡していた。

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