「私のパン屋でバイトさせていたんすけどミザリーは恥ずかしがり屋で接客に向いていないっす。だから宮廷魔術師にしてやってほしいっす」
「いやいやいや」
俺が言うのもなんだが、こんなコミュ障みたいな奴とても使い物にならないだろ。
ミザリーは黙ってうつむいている。
俺が下から顔を覗きこむように見上げると口元が見えた。
まるで口裂け女のように口角が上がっている。
「うおっ」
思わず声が出てしまった。
まずい。女性に対して今のは失礼だったな。
「王子様、ミザリーは宮廷魔術師になりたいらしいっす。そうっすよね、ミザリー?」
「う、うん。わ、わたしお姉ちゃんのお荷物になりたくない。や、役に立ちたい」
絞るように声を出すミザリー。
家族の荷物になりたくないって気持ちはニートだった俺にはよくわかる。
出来ることならミザリーによくしてやりたいけど……。
「カズン王子、私が彼女の実力を見てみますよ。判断はそれからで」
エルメスが言う。
「わかった、頼む」
「さ~て、ミザリー。あんたの今出来る最高の魔術を私に見せてちょうだい。可能性を感じれば宮廷魔術師に推薦してあげるわ」
「感謝するっす、エルメス先輩。ほらミザリー、あなたの力を見せてやるっすよ」
そう言われたミザリーはなにやらぶつぶつとつぶやいている。
独り言を言っているのかと思ったが、どうやら呪文を唱えているらしい。
エルメスが腕を組みその様子をみつめる。
「……天上に奇跡を起こせっ!」
ミザリーが突然叫んだ。
……。
何も起こらない。
残念だがミザリーを宮廷魔術師にすることは出来ないな。
そう思った時、体がぶるっと震えた。
なんだ?
なんか寒いぞ。
「嘘でしょ……」
エルメスが窓の外を見てもらす。
俺もつられて外を見る。
すると、もう春だというのに雪が降ってきていた。
夕日に照らされ雪がオレンジ色に光り輝く。
まさかミザリーの奴。魔術で雪を降らせたのか……。
「おい、エルメス。これって……」
「信じられないですがミザリーの魔術です。こんなこと私にも出来ませんよ」
「ってことは宮廷魔術師合格か?」
「ええ、文句なしに」
「すごいっす、ミザリー。やったっすよっ」
カルバンインがミザリーに抱きつく。
カルバンインに揺さぶられミザリーの銀色の長い髪も揺れる。
その瞬間目元があらわになった。
ミザリーの目に涙が浮かんでいるのが見えた。
なんだか俺も自分のことのように嬉しくなった。
「……これあげる」
「わ、わたしに? あ、ありがとう」
見るとアテナがミザリーにリンゴを渡していた。