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第107話

「早速じゃがエルメスの代わりに仕事をしてもらおうかのう」


俺は国王に呼び出され謁見の間に来ていた。

いろいろあって俺はエルメスへの仕事を代わりに引き受けることになったのだった。


「あのう、なぜ王子がエルメスの仕事をやる必要があるのですか?」

大臣がもっともな質問をしてくる。

「いや、俺には社会経験が足りないと思ってさ。そんなことじゃあ将来いい国王になんてなれないだろう。だから苦労を買って出ることにしたんだ」

考えておいた答えを口にした。


すると大臣は、

「おおおお、なんということでしょうか。あのカズン王子がそのような立派なことを……」

涙ぐんでいる。


「大袈裟だなぁ、大臣は」

「いいえ、そんなことありません! お妃様も天国でさぞお喜びになっていることでしょう……ぅぅぅ」

ハンカチで目元を押さえながら言う。


大臣は泣き上戸なのか?

とにかく長居は無用だな。さっさと仕事とやらを教えてもらうか。

「それで国王、仕事というのは?」

「うむ、それなのじゃがな……」



「失礼しました」

俺は謁見の間をあとにすると部屋に戻るさなか国王の言葉を思い出す。


「……うちの宮廷魔術師はエルメスだけじゃ。今後のことも考えるともう一人くらいほしいところでのう。王子にはエルメスと同等の力を持つ優秀な魔術師をみつけてうちの宮廷魔術師としてとりたててほしいのじゃ」


優秀な魔術師か……。

さすがにアテナにはまだ荷が重いよな。


部屋に戻った俺を待っていたのは俺のベッドの上でくつろぐエルメスだった。


「国王様のお話ってなんでした~?」

「食事の後にすぐ寝ると牛になるぞ」

「なんですかそれ? 何かの比喩かなんかですか」

仰向けのまま訊いてくる。

ちなみにアテナはもう学校に向かって城を出ている。


「お前の部屋、まだ直らないのか?」

「そうですね~。あともう二、三日かかるそうですよ」

「俺のおかげで暇になっただろ、アテナに魔術でも教えてやったらどうだ?」

「そのつもりですよ~。今日もアテナちゃんが帰ってきたら復習に付き合う約束してますからね」

ごろんと寝返りを打つエルメス。


俺はそんなエルメスを見下ろす。

「なあ、この国で優秀な魔術師って知ってるか?」

「私以外でですか?」

「ああそうだよ、お前以外で」

「そうですね~……」

エルメスは起き上がりぺたんと女の子座りになった。


「カルバンインが多分私の次に優秀ですよ」

「誰だそれ?」

初めて聞く名だ。


「サマルタリアの魔術学校時代の後輩です。昔は私に匹敵するほどの魔術師でしたよ」

「そいつにはどこに行けば会えるんだ」

「城下町でパン屋を営んでいるはずですよ。パン屋は一軒しかないのですぐみつかると思いますが」

魔術師がパン屋?

あまり想像がつかないが。

まあ、なんにせよ一度会ってみるか。


「俺ちょっと出てくるわ」

「いってらっしゃ~い」


我が物顔で居座るエルメスを置いて俺は城下町へと繰り出した。



ダンが働いている花屋の横にパン屋はあった。

いい香りが外まで漂ってきている。

俺の好きないい匂いだ。


俺はパン屋に入ると店の中を見回した。

繁盛しているようで客が沢山いる。

俺は人の波の中から白い服を着た店員らしき背の高い女性に声をかける。


「すいません、ここにカルバンインていう方いますか?」

「はいはい……ってあれ、あなた王子様じゃないっすかっ。うちの店に来てくださったんすかっ!?」

女性はいきなり俺の両腕をがしっと掴むとテンション高く声を上げた。

みんながこっちを見る。「あら、カズン王子だわ」と客が口々に声に出す。

うちの店?


「なあ、もしかしてお前がエルメスの後輩のカルバンインか?」

「ええ、そうっすよっ。それが何か?」

食い入るように俺を見下ろしている。

でかい女だ。エルメスよりもさらに頭一つ分くらいでかい。

ていうかカルバンインて女だったのか。


「エルメスの後輩だって聞いたけど、魔術は使えるのか?」

「魔術っすかー。最近はご無沙汰っすからなまってるかもしれないっすけど一応使えると思うっすよ」

片腕を回しながら答えるカルバンイン。

すっすうるさい奴だなぁこいつ。


「……単刀直入に訊くが、お前宮廷魔術師になる気はないか?」

「宮廷魔術師っすかー……あっちょっと待っててくださいっす、お客さんが列を作ってるんで」

そう言うと俺を置き去りにして客の待つレジカウンターに回り込んだ。


「いらっしゃいませっす!」

元気よく客に応対するカルバンイン。

うーん、悪い奴ではなさそうだ。


店の雰囲気も悪くないし、しばらく待ってるとするか。

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