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第106話

「アテナちゃんまたねー」

「じゃ、じゃあまた明日なアテナ」

「……うん。また明日」


ピッピとウントンに帰りの挨拶を済ませるとアテナは馬車に乗りこんだ。

「……ばいばい」

馬車の窓から自主的に二人に手を振るアテナ。


「ばいばーい!」

ピッピは馬車が見えなくなるまで大きく手を振り続けていた。


「おい、アテナが帰ってくるぞ」

「そうですね。じゃあ片付けましょうか」

そう言うとエルメスは水晶玉をテーブルから下ろしベッドの下に隠した。




「……ただいま」

しばらくしてアテナが魔術学校から帰ってきた。

リュックを背に部屋に入ってくる。


「おう、おかえり」

「アテナちゃんおかえり~。学校はどうだった?」

「……興味深い」

「楽しかったか?」

「……楽しかった」


アテナはベッドの上にリュックを置くとリュックから魔術書を取り出した。

「……」

ベッドに座り無言で読みふける。



「あーそうだアテナ、新しい教科書はすぐ届くからな」

「……うん」

「アテナちゃん、私今日暇だから魔術の勉強手伝ってあげようか?」

「……ほんと?」

「ええ、ほんとよ。じゃあこっち来て」

「……うん」


エルメスはソファに腰を下ろし隣にアテナを座らせると魔術書を開いた。

それから夕食までエルメスはアテナに魔術を教えてやっていた。

俺はというと腕立て伏せならぬ指立て伏せをしていた。

筋トレしてからの食事は筋肉になりやすいからな。



食事中。

「なあ、エルメス。カズン王子も魔獣を飼っていたって前に言ってたよなぁ」

「言いましたっけ」

「言っただろ。その魔獣って今どこにいるんだ?」

「さあ。カズン王子が亡くなった時にどこかに行ってしまいましたよ」

「ふーん、そうなのか」

ふと気になったから訊いてみたのだが……まあどうでもいいか。


「そんなことよりカズン王子。私とした約束の方も覚えていますか?」

「約束って?」

「百日間の有給休暇のことですよ。ミコトの呪いを阻止するときに約束しましたよね」

そういえばそんなことを言った気がするなぁ。


「お前自分に都合のいいことだけはちゃんと覚えてるんだな」

「国王様にかけあってくれました?」

「いや、まだだ」

だってさっきまで忘れていたのだから。


「国王に頼んでみるよ」

多分無理だろうと思いながらもこの場ではそう言っておこう。


「お願いしますね、カズン王子」

エルメスはナイフとフォークをテーブルに置くとアテナを見て、

「アテナちゃんお風呂一緒に入る?」

「……うん」

「じゃあ着替え用意して」

「……わかった」

二人して風呂場に行く。


もうすっかり我が物顔で俺の部屋を使っているエルメス。

自分の部屋が直ったらちゃんと出ていってくれるんだろうな……。

ちょっと不安になる。


二人が風呂に入っている間俺は国王のもとへ行きエルメスの件を伝えてみることにした。



「だめじゃ」

国王が無機質な顔で言う。

「有給百日などやれるわけなかろう。ふざけておるのか」

やっぱりか。

当然の答えが返ってきた。


「エルメスは優秀な魔術師じゃ。そんなに休みを与えるわけにはいかん」

「でもエルメスと約束してしまったんですけど……」

「わしには関係ないわい。それはお主の問題じゃ、お主がなんとかせい」

つっぱねられる。


どうするか。

有給の話はなかったことにしてくれなんて言ったらエルメスの奴、絶対怒るよなぁ。

あいつのことだ、また「呪ってやる!」とか言い出しかねない。


俺は国王に食い下がった。

「エルメスの仕事を代わりに俺が引き受けるっていうのはどうですかね。俺時間だけはあるんで」

「お主がか? う~む。お主に出来んことはないとは思うが、魔術師が必要な案件もあるからのう」

渋る国王。


「魔術師ならあてがあります」

「地下牢のサマルタリアの魔術師のことなら無理じゃぞ。あやつは近くサマルタリアに送還することになっておるからの」

「え、そうなんですか?」

前みたいにミコトを利用しようと思っていたのに……あてが外れた。


あっでも待てよ。魔術が使える奴ならもう一人いるじゃないか。


「どうする王子よ」

「俺に考えがあります」



「……というわけなんだ。学校が休みの土日だけでも俺に付き合ってくれないか?」

俺は部屋に戻ると風呂から出たばかりのアテナに頭を下げた。


パジャマ姿のアテナはバスタオルを体に巻いたエルメスにドライヤーで髪の毛を乾かしてもらいながら、

「……わかった」

とうなづいた。


「カズン王子、こんな小さい子に仕事をさせるなんて鬼畜ですか?」

エルメスが眉をひそめる。

「だったら有給の話は無しだけどそれでもいいか?」

「う……それとこれとは話が別ですよ」

言うと思った。

「だったら口出しするなよ」


俺はもう一度アテナに念を押す。

「本当にいいのか、アテナ」

「……うん。楽しそう」

「そっか。じゃあもしお前の力が必要になったらその時は力を貸してくれ」

「……わかった。それまでもっと勉強する」


髪が乾ききったアテナは俺を見上げ、

「……アイス食べていい?」

「ん、ああ、いいぞ」

冷蔵庫に向かうとアイスを取り出し口に含んだ。


なんかアテナ変わったかな?

アテナは学校に行くようになって少しだけ自主性が芽生えてきたのかもしれない。

一応の保護者としては嬉しい限りだ。

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