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第105話

給食の時間が終わると校庭で魔術の実技の授業に移った。


「やっと魔術の授業か」

午前中は一般教養の授業だけだったからやっと普通の学校との違いが見られる。


「カズン王子、魔術学校だからって魔術ばっかり教えてるわけじゃないんですよ」

エルメスが俺の隣で説明してくれる。

たしか学校見学の時にも似たようなことを言われた気がする。


昼食を終わらせた俺とエルメスは水晶玉を食い入るように見る。


生徒たちはみんな魔術書を持って移動する。

ピッピはアテナをつれて校庭に出た。

その後ろを給食の時間にアテナにちょっかいを出した男子生徒が気まずそうに続く。


あとでわかったのだが彼の名前はウントンというらしい。

そのウントンはさっきの出来事を気にしてかピッピとアテナの様子をうかがっていた。


「ちょっとウントン、まだ何かあるのっ!」

「いや、別にそうじゃないけどさ……さ、さっきの仲良くなりたかっただけなんだ、だから機嫌直してくれないかな……」

ウントンが振り絞るように言った。

こいつ結構素直な奴だな。


「……別に怒ってない」

アテナがウントンをみつめる。

「で、でも怒った顔してるし……」

「……わたし普段からこんな顔」

無表情のアテナが返す。


「何? あんたアテナちゃんのこと好きなの? わっかりやすいわね~」

「う、うるさいな。ピッピには関係ないだろっ」

「関係あるも~ん。わたしとアテナちゃんは親友だもんね~」

アテナに顔をすり寄せるピッピ。


「……うん」


いつの間に親友になったんだ。

子どもは仲良くなるのが早いな。


「よーし注目。それじゃあ、あの木の棒めがけて火の玉を飛ばしてみろ」

担任の男性教師が手を叩く。

男性教師が言う木の棒は生徒たちから三十メートルくらい離れた地面に刺さっていた。


「詠唱はこうだ、いいか?」

男性教師は目をつぶった。

今から手本を見せるようだ。


「天にまします神よ、今火の精霊と神の御名において我にご加護を与えたまえ。大気中の発火物質よこの手に集まれ。灯の火弾!」


その瞬間、男性教師の持った魔術書が赤く光り、伸ばした手の先から小さな火の玉が飛び出した。

火の玉は木の棒に命中して弾けとんだ。


「うぉーすげー!」

「きゃあ、すご~い」

見ていた生徒たちから声が上がる。


「慣れてくれば前の部分は事前詠唱で省けるようになるからな。じゃあウントン、先生の真似をしてやってみろ!」

「は、はい」


ウントンは魔術書を開き、目をつぶる。

「天にまします神よ、今火の精霊と神の御名において我にご加護を与えたまえ。大気中の発火物質よこの手に集まれ」詠唱をつぶやき、


「灯の火弾!」


手を前に向けた。


ウントンの手から火の玉が飛び出したが、木の棒に届く前に勢いなくぽとっと地面に落ちた。


「あぁ~」

生徒たちからため息がもれる。


「惜しかったなウントン、よし次ピッピ行くか!」

「はいっ」

指名されたピッピが魔術書を開く。


「お前は魔力量が多いんだから慎重にな」


目をつぶり、

「……」呪文を詠唱する。そして、


「灯の火弾!」


大きな火の玉がピッピの手から飛び出した。


「危ないっ!」


先生が叫んだ。

ピッピが放った大きな火の玉はブーメランのように弧を描いてピッピ自身に襲いかかってくる。


「きゃぁー!」

ピッピがとっさにしゃがみ込む。

その時、アテナがピッピの前に立ち魔術書を開いた。


「……冷気の射矢」


ぽつりとつぶやくとアテナの手から氷の矢が放たれた。

大きな火の玉にぶつかり蒸発して消えた。


「っ!?」


男性教師と生徒たちがその一部始終に驚き声を失くす。

ウントンはあんぐり口を開けている。


「大丈夫かピッピ?」

男性教師がピッピのもとへ駆け寄る。

「だ、大丈夫です……アテナちゃんのおかげで」

ピッピがアテナを見上げた。


「……ピッピはわたしが守る」

「アテナちゃんありがと~」

アテナに抱きつくピッピ。

「怖かったよ~」


「それにしてもアテナ、お前あんな高等魔術をよく使えたな」

「……勉強しました」

男性教師アテナの肩をぽんと叩いた。

「先生驚いたぞアテナ」


「アテナ、すげー!」

「カッコイイ、アテナちゃん」

「わたしにもさっきの魔術教えて~」

生徒たちが口々に言う。


ウントンはまだぽかーんと大口を開けていた。

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