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第103話

夕食の後、ミアが食器を片付け部屋を出ていった。


「それでお前はいつまでいるつもりなんだ?」


俺のベッドにうつ伏せになっているエルメスを見ながら言う。


「う~ん、部屋が元通りになるまでですから一週間くらいですかね~」

「その間俺はどこで寝ればいいんだよ」

「ソファがあるじゃないですか」

面倒くさそうに顔を上げソファを指差すエルメス。


「居候のくせに遠慮ってもんを知らないのか?」

「厳密に言えばこのお城に居候しているのはあなたですけどね」

「それはお前が俺を召喚したからだろうがっ」

「アテナちゃんが起きちゃいますよ」

エルメスはベッドにばふんと顔をうずめた。


「……すぅ、すぅ」

アテナは自分のベッドでもう眠っている。


「あ、カズン王子明かり消してください」

エルメスが俺を見ずに言う。


「……はいはい」


これがあと一週間か……長いな。

俺は明かりを消すとソファに横になった。



翌朝、俺が目覚めるとエルメスがテーブルで何か書類らしき物に目を通していた。


「おはようエルメス。どうしたんだ? お前にしては珍しく早いな」

「おはようございます、カズン王子」


俺は書類を手に取り、

「なんだこれ?」

「アテナちゃんのイリタール魔術学校への転入届けです」

あ~そういえばそんなことを言っていたっけ。


「魔術学校ってイリタールにもあるのか?」

「ええ、ちょっと前に新しく出来たんですよ。昔はサマルタリアにしかなかったんですけどね」


アテナは静かに眠っている。


「よくわからないんだが、エルフが学校行っても大丈夫なのか? あいつ見た目は子どもだけど俺たちよりもずっと年上なんだぞ」

「平気ですよ。むしろあなたと一緒に毎日ぐうたらしてるだけの方が問題です」

ぐうたらって……強く否定はできないけど。


「それにあの魔術の才能は伸ばすべきです。私が教えてもいいんですけど私もそれなりに忙しいので」

昨日の下水道での魔獣退治みたいなことを俺の知らないところでもやっているらしいエルメスが言う。


「これでよしっと……あとはカズン王子、ここにサインしてください」

エルメスは書類の署名欄を見せてくる。


「これは?」

「保護者の欄です。私も書きましたけど一応アテナちゃんの保護者はあなたですからね」

「そっか」

俺は促されるままエルメスの名前の上の欄にサインをした。


「じゃあ魔術学校に行く準備をしましょうか。ほらアテナちゃんそろそろ起きるわよっ」

「おい、待てって。魔術学校って今日から行くのか?」

「今日は見学だけですけどね。もちろんあなたにもついてきてもらいますよ、保護者なんですからっ」

ウインクしてみせた。



目をこするアテナを着替えさせたエルメスは用意がいいことにすでに馬車も手配済みだったらしく、颯爽と飛び乗った。

「アテナちゃんも」

アテナに手を伸ばすエルメス。


馬車は二人乗りだがアテナは小さいので俺たちの間にちょこんと座っている。

「……眠い」

俺の気持ちを代弁するかのようにアテナがつぶやく。


「アテナちゃん、これからアテナちゃんが通うことになる学校に行くわよ。楽しみでしょ?」

すると学校という単語にとがった耳をぴくんと反応させたアテナが、

「……学校楽しみ」

顔を上げた。


イリタール魔術学校までは馬車で十分という、まあ近いと言えば近い場所にあった。


全身を緑の服で固めたアテナとボディコンみたいなパツパツの服を着たエルメスとともに俺はイリタール魔術学校に降り立った。


「その恰好寒くないのか?」

「寒さよりオシャレです」

わけのわからない理屈を返すエルメス。

こんなのが保護者で大丈夫なのか?


アテナは俺とエルメスの手を握り、俺たちはまるで親子のように並んで歩く。

広い校庭を抜け校舎の中へと入った。



「お母様、寒くありませんか?」

学校を案内してくれている眼鏡をかけたおばさんの校長先生が訊ねる。

案の定服装に注目された。


「あ、私たち保護者ですけど親ではないんです」

「あらそうだったんですか、すみません。わたしはてっきり王子様の……ねぇ? ふふふ」

俺たち三人を順々に見回す校長先生。

てっきり俺のなんだ?

隠し子だとでも思ったのか。


調理室のようなところを通りすぎた時見た目アテナと同じくらいの子どもたちが調理実習をしていた。

「なんだ魔術に関係ないことも教えてくれるんだな」

「そりゃそうですよ、カズン王子。一日中魔術ばっかりじゃどうかなっちゃいますよ」

「うちの学校はのびのびとすこやかにがもっとうですから」

校長先生が教えてくれる。

もしかしたらエルメスはアテナを学校に通わせてやりたいだけだったのかもな。


その時、

「火を灯せ!」

魔術書を持った子どもたちが一斉に声を上げた。

すると何もしていないのにコンロに火がついた。


「わあっ、あの魔術あんな小さい子たちでもみんな使えるんですね~」

エルメスが感心している。

「ええ、みんなとっても優秀ですよ」

校長先生も鼻が高いようで笑みがこぼれる。



一通り校舎内を見させてもらったところで学校のチャイムが鳴った。

廊下に大小さまざまな子どもたちが出てくる。中には高校生くらいの生徒たちもいた。

その中でも、

「あー先生その子だれー?」

「新しいおともだちー?」

小さい子どもたちが集まってきた。


「そうよ、アテナちゃんていうの。みんな仲良くしてね」

「は~い!」

元気な声で答える子どもたち。


「アテナちゃんあっちで遊ぼうっ」

女の子たちがアテナの手を引き教室へと連れていく。

見るとじゃんけんをして楽しそうに笑っている。

アテナはいつもと変わらず無表情だが馴染んでいるようだ。


「父親の気分ですか?」

エルメスが話しかけてくる。

「さあな」

女性と付き合ったこともないのに父親の気分なんてわかるわけない。


「結構大丈夫そうですね」

「ああ、そうだな」


子どもたちと遊ぶアテナを見て俺はそう返しておいた。

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