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第102話

エルメスの部屋はたしかに半壊状態だった。

ドアは半分なくなっていて壁には焼け焦げた跡があり、床には物が散乱していた。


「何をどう失敗したらこんなになるんだ?」

「どうせ姉さんのことですからまた怪しい魔術でも試していたんじゃないですか。カズン王子様がこの世界に来る前まではこういうことはしょっちゅうありましたから」


床には散乱した物の隙間から魔法陣が見える。


「だから姉さんの部屋だけこんな離れたところにあるんですよ……これでは着替えの服もだめかもしれませんね」

そう言いながらへしゃげたクローゼットを強引にこじ開けるカルチェ。

クローゼットの中には服がたくさん入っていたが、

「やっぱり」

その全てが破れていたり焼け焦げていたりと着られる状態ではなかった。


「仕方ありませんから私の服を持っていきますよ。カズン王子様は先に部屋に戻っていてください」

「別についでだから俺も行くけど」


カルチェの部屋はエルメスの部屋と同じ階のはずだ。


「そうですか。カズン王子様がよいのなら」

「ああ」


エルメスの部屋は何度も訪れているがカルチェの部屋には一度も行ったことがない。

俺はカルチェの後ろをついていく。


三分ほど歩いたところで、

「ここです。ではカズン王子様はここで待っていてもらえますか。すぐ済みますから」

とカルチェは部屋に入っていくとドアを閉めた。


一瞬ちらっとだけ部屋の中が見えたがカルチェの部屋は城の中とは思えない和風テイストな造りになっていた。

鎧というのか甲冑というのかそういった物も飾ってあった。


「お待たせしました」


ほとんど待つことなくカルチェがバッグを持って出てきた。


「早くカズン王子様の部屋へ行きましょうか。姉さんがもうお風呂を出ている頃かもしれないですから」

エルメスなら少しくらい待たせたっていいのに。

やっぱりカルチェは姉思いの優しい奴だ。

俺はカルチェの背中を見ながらそう思った。



「おっそーい! 何やってたのよもう! 風邪ひいちゃうじゃないっ」


風呂場から聞こえてきたわざわざ着替えを持ってきてくれた妹に対するエルメスの第一声がこれだ。


「何それ、お礼くらい言えないのっ?」

「寒いから早くそれ貸してよ」

「お礼は?」

「わかったわよ、ありがとうカルチェ。どう? これでいい?」

「まったく姉さんは……はいこれ」


姉妹のやり取りを聞きながら俺は前に視線を移した。

俺の目の前ではすでに風呂を出た様子のアテナがアイスを食べていた。


「それ、どうしたんだ?」

「……もらった」

「誰に?」

「……ミア」


アテナとの会話は無駄なラリーが多くなる。

もう少し詳しく訊いてもよかったが俺はとにかく風呂に入りたいので話を切り上げた。


「アテナ、俺風呂行ってくるから」

「……うん」


アテナに言い残し部屋を出た。



城の中にある俺専用の風呂場はかなり広い。

タオルや服も常に完備されている。


俺は湯船に浸かると、

「あ~、気持ちいい~」

思わず声をもらした。


窓の外を見る。

辺りは薄暗くなってきていた。


「もうそろそろ夕飯かな……」


体を念入りに洗い下水道の臭いを落とした俺は新しい王子の服に着替えて風呂場をあとにした。



自室に戻るとアテナとエルメスがジャスというカードゲームで遊んでいた。

トランプみたいなものらしい。


「あ、夕食の時間までカズン王子もやりますか?」

エルメスがドライヤーで髪を乾かしながら俺に訊ねてくる。

「そうだな。混ぜてもらおうかな」

「じゃあ最初からね、アテナちゃん」

「……うん」


カードをシャッフルして三等分に配る。


「はい、カズン王子から引いてください」

「ああ」

俺はアテナの持つカードから一枚引く。

同じ図柄のものがあったら揃えて出す。

そして俺の持つカードから今度はエルメスが一枚引く。


要はババ抜きだな、これ。


異世界のカードゲームを楽しんでいるとミアが夕食を運んできてくれた。

「失礼します」


「お開きですね」

負けていたエルメスがカードを置いた。

「……お腹すいた」

アテナが腹を押さえる。


「エルメス様もこちらで食べられますか?」

「ええお願いするわ」

「ではエルメス様の分もお持ちしますね」

「ごめんねミア。あっそうだミアも自分の分持ってきてここで食べていきなさいよ。夕食まだでしょ?」

「まだですけど、でもいいんですか?」

ミアが俺を見た。


「俺なら全然構わないぞ」

「……ではお言葉に甘えてそうさせてもらいますね」

笑顔で返すミア。



それから二人分の食事を持って戻ってきたミアとともに俺たちはテーブルを囲んだ。

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