城の地下には地下牢へ続く通路とメガネの研究室へ続く通路、そして下水道へ続く通路がある。
俺たちは下水道への道を歩いていた。
レンガ造りでところどころヒビが入っている。
「歩きづらいです~」
「ヒールなんて履いてくるからだろ」
エルメスはいつもの露出高めの服ではなく、ローブにとんがり帽子と魔術師っぽい服装をしているくせに下は高いヒールの靴を履いていた。
「カズン王子おんぶしてくださいよ」
「断る」
「女子と合法的に接触できる機会ですよ」
「黙れ」
ヒールのコツコツという音が地下に響く。
しばらく進むと、
「ちょっと臭ってきましたね」
エルメスの言う通りなんか臭くなってきた。
「ここから下水道みたいですね」
ハンカチで鼻を押さえるエルメス。
俺も手で鼻を覆う。
「アテナは大丈夫か?」
「……大丈夫」
先頭をずんずんと進むアテナが脇目も振らずに答える。
道中ネズミが数匹足元を通り過ぎていった。
俺は生で実物のネズミを見たのは初めてなので「おわっ!」と声を上げると、エルメスが「今からそんなんで大丈夫ですか?」とあきれた様子で俺を見た。
実物って結構大きいんだな。
下水道の奥に進めば進むほど臭いがきつくなり、視界も悪くなっていった。
エルメスの魔術で下水道内を照らしながら歩くこと十分、突き当たりにたどり着いた。
すると目の前に大きな影が見えた。
エルメスが明かりで照らす。
「うわっ、なんだ!? 気持ちわり~」
「あれが今回退治する魔獣ですよ」
「……大きい」
大きなネズミのような魔獣が下水道の鉄格子をかじっていた。
魔獣が明かりに照らされこっちを振り向く。
鉄格子をかじるのをやめ、俺たちの方にじりじりと近付いてきた。
「おい、早くなんとかしろよ」
「そう言われても私は今魔術を使っている最中なので……」
たしかにエルメスは魔術書を広げて持ち、魔術で辺りを照らしているが。
「魔術って二つ同時に使えないのか?」
「そうですよ」
そんな何当たり前のことをみたいな顔で言われても困る。
俺とエルメスは魔獣を見据えながらちょっとずつ後退する。
アテナはじっと魔獣と目を合わせていた。
「こっちに来いアテナ」
「カズン王子、いつもみたいにパンチでドカーンとやっちゃってくださいよ」
俺の袖を引っ張る。
「嫌だっ。あんなばっちいのに触りたくない」
大きなネズミの形をした魔獣はさっきまで汚水に入っていたのか体毛がつやつや濡れている。
魔獣がアテナの目の前まで迫った。
「アテナ、一旦退けっ」
「アテナちゃんっ」
大きな前歯でアテナにかじりつこうとする魔獣。
その時、アテナがおもむろに服の中に手を入れ魔術書を取り出し開いた。
「……冷気の射矢」
ぼそっとつぶやくと魔術書から氷の矢が魔獣めがけて放たれる。
「ヂュウィィー!」
氷の矢が命中し魔獣が瞬時に凍りついた。
「アテナ……お前魔術使えたのか?」
振り向くアテナ。
「……勉強した」
「勉強したってお前……」
魔術なんてそう簡単に使えるようになるもんなのか?
ほら、エルメスだって大口開けて驚いているじゃないか。
「ね、ねぇ、アテナちゃん。もしかして事前詠唱していたの?」
エルメスが興味深そうに訊いた。
「……うん」
「……ふふっ。すごい、すごいわアテナちゃん!」
エルメスはアテナを持ち上げ高い高いする。
アテナは相変わらずの無表情だが心なしか照れているようにも見えた。
「……エルメス下ろして」
「ああっ、ごめんごめん」
そう言ってアテナを地面に立たせる。
「カズン王子、アテナちゃんは魔術の素質がありますよ。今からでも魔術学校に通わせるべきです!」
俺の手を取り熱心に語るエルメス。
「イリタールにも魔術学校が出来ましたからそこに通わせましょう」
エルメスの迫力に気圧されそうになるが、
「ちょっと待てって、まずはアテナの意見を聞かないと」
「そ、そうですね。あまりにびっくりしたので焦っちゃいました」
「それでアテナ、どうなんだ? 魔術の学校行きたいか?」
少し間が空いてからアテナは「……行きたい」と答えた。
「書類とかその他もろもろは私とカズン王子で準備するからアテナちゃんは楽しみに待っててねっ」
自分の方がよっぽど楽しそうな顔をしてエルメスはまた勝手なことを言い出した。
「俺も何かやるのか?」
「当り前ですよ。アテナちゃんの保護者として学校にもついていってもらいますからね」
まじか……なんか面倒なことになっちゃったなぁ。
「なぁ、それよりとりあえずここ出ないか? 臭くて鼻が曲がりそうだ」
「そうですね、それには賛成です。続きはカズン王子の部屋で話しましょう」
一仕事終えた俺たちは国王へ報告を済ましてから俺の部屋へと戻った。
あれ……っていうかエルメスの働いている姿結局見ていないじゃないか。