俺の秘密を知っているのは国王とエルメス、テスタロッサにミア、そしてカルチェとスズ。ついでにアテナもか……。
ずいぶん増えてしまった。
まあ、みんな黙っていてくれているようなので一安心だが。
俺は指立て伏せをしながらそんなことを考えていた。
「……四百九十九、五百っと。アテナ、もう降りていいぞ」
俺の背中に乗っているアテナに声をかける。
「……わかった」
読んでいた本をぱたんと閉じるとアテナは俺の背中からひょいと飛び降りた。
アテナは最近読書にはまっているらしい。
朝も昼も夜も難しそうな魔術書を図書室から引っ張り出してきては読みあさっている。
「面白いか、それ?」
「……うん」
小さくうなづくとベッドに腰掛けまた読書を開始する。
すっかり本の虫だ。
それに比べて……。
「ぐぅ……ぐぅ……」
俺のベッドでいびきをかきながら気持ちよさそうに眠っているエルメスを俺は見下ろした。
なんでも魔術の練習中に失敗したとかでエルメスの部屋は半壊してしまったらしく俺の部屋に勝手に転がり込んできたのだ。
姉妹なんだからカルチェの部屋に泊めてもらうようにと言ったのだがカルチェには「姉さんはいびきをかくから嫌だ」と断られたらしい。俺ならいいのか?
「……はっ!! ふぅ……よかった、夢だったみたいね」
突然声を上げ飛び起きたエルメスが周りを見回す。
寝汗を拭くエルメス。
どんな夢を見ていたのか知らないがびっくりするからやめてほしい。
ところで俺が言うのもなんだがこいつはいつ働いているのだろう。
宮廷魔術師として給料は貰ってるんだよな。
そんな俺の視線に気付いて、
「ちょっと何見てるんですか?」
と無い胸を押さえるエルメス。
「お前給料泥棒じゃないのか? もしかしてうちの財政があまりよくないのってお前のせいだったりして……」
「はぁ? ひきニートがよく言いますね。私はあなたと違ってちゃんと働いてますからねっ」
胸を張る。
「そんなとこ見たことないけど」
「今日だって国王様から直々に受けた魔獣退治の仕事があるんですからね」
「威張るなよ。だったら寝てないで早くすればいいだろ」
もう昼過ぎだぞ。
「その魔獣は夕方にならないと姿を現さないんですよ~だ」
エルメスが頬を膨らます。
「……魔術使うの?」
アテナが俺たちの話に食いついてきた。
「ええ、使うわよ。もしかして見たい? アテナちゃん」
「……うん」
ふんすと鼻息荒く答えるアテナ。
気合いが入っているな。目がいつもと違って輝いて見える。
「じゃあ私が華麗に魔獣を退治するところを見せてあげるわっ」
「……うん」
「アテナちゃんはいい子ね~」
アテナの髪をくしゃっと撫でる。
「おい、アテナが行くなら一応俺もついていくぞ」
万が一何かあったら困る。
「過保護ですね、カズン王子は。先が思いやられますよ」
「なんとでも言え」
俺はアテナには弱いんだ。