夕食を済ませた俺たちは床に布団を敷き詰めた。
大部屋といっても七人分の布団を敷くとさすがに結構な場所をとる。
俺はもちろん一番端でその隣にはアテナの布団が敷いてある。
「そろそろ電気消すけどいいか?」
「いいですよ」
「お願いします」
「じゃあ、みんなおやすみ」
俺は部屋の電気を消した。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……すぅすぅ」
「みんな起きてる?」
エルメスが声を発した。
「どうかした姉さん?」
「うきうきして眠れないんだけど」
「あっそれ実はわたしも同じです」
「拙者も同じく」
「なんか眠るのもったいないっていうかさ~」
「わかります~」
「ちょっと静かにしてよ。眠れないじゃないっ」
「あっすみませんテスタロッサ様」
「でもテスタロッサ様だって寝てないじゃないですか」
「あんたたちがうるさいからでしょ」
「そうよ姉さん、大体疲れてたんじゃないの姉さんは」
「今は目が冴えちゃって、もうギンギンよ」
「変な言い方しないでよ姉さん」
「変な言い方ってどういう意味よカルチェ?」
「そ、それは……」
「かまととぶってるんじゃないわよ」
「かまととってなんですか?」
「ミアは知らなくてもいいのよ」
「拙者は知っておりますよ。たしか……」
「あんたたち、いい加減にしなさいよっ」
「はーい」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……すぅすぅ」
「せっかくだしみんなで枕投げでもする?」
「黙って寝ろ」
次の日、俺が目覚めるとすぐ横にアテナの顔があった。
目を開けてこっちを見ている。
「おはよう、アテナ」
「……おはよう」
「俺の顔に何かついてるか?」
「……目と鼻と口と――」
「いや、もういい」
みんなはもう起きているのだろうか。
俺は上半身を起こし周りを見た。
「テスタロッサとエルメスはまだ寝てるのか……」
二人の布団は膨らんでいる。
あとのみんなはどこに行ったのだろう。
すると、
「あっおはようございます、カズン様」
タオルで顔を拭きながら洗面所の方からミアがやってきた。
顔を洗っていたのかな。
「おはよう、ミア」
ミアは普段からあまり化粧っけがないためすっぴんでもさほどいつもと変わらないな。
というより俺の周りの女性たちはエルメス以外あまり化粧はしていないっぽい。
「おはようございます、カズンどの」
トイレの流す音がしたと思ったらスズがトイレから出てきた。
「ああ、おはよう」
女性経験がないからよくはわからないが、普通はトイレから出るところを見られたら恥ずかしいとか思うもんなんじゃないのか。
その割にはスズはしれっとしている。
羞恥心がないのかそれとも俺を男と意識していないのか。
「カルチェはどうした?」
「先ほど旅館の中庭で剣を振っているのを見ましたが」
俺の問いにスズが答えた。
「あいつ慰安旅行に剣なんて持ってきてたのか」
真面目というか融通が利かないというか。
カルチェにだけは俺の秘密がバレないようにしないとな。知られたらあの性格からして黙っていてくれるとは到底思えない。
「そろそろ朝食の時間なので呼んできましょう」
そう言うとスズはさっと部屋を出ていった。
「じゃあわたしはみなさんのお布団を片付けますから、カズン様はすみませんがテスタロッサ様とエルメス様を起こしてもらえますか?」
「ああ、わかった」
俺は起き上がるとテスタロッサの布団に近付く。
「おい、テスタロッサ朝だぞ。起きろ」
「う~ん、ママあと五分だけ……」
誰がママだ。
「こら起きろ」
俺はほっぺたを軽くぺしっとたたいた。
「いたっ!」
起きた。が、
「ちょっと、今あんたあたしのことぶったでしょ!」
朝から機嫌の悪いテスタロッサにキレられた。
寝起き悪いなこいつ。
「悪い、手加減はしたつもりだったんだけど……」
「当たり前でしょ。じゃなかったらあたし死んでるわよっ」
「全くもう」と言いながら洗面所に行くテスタロッサ。
その姿を見送っているとミアと目が合う。
苦笑するミア。
「全くもう」はこっちのセリフだ。
そして気持ちよさそうに眠っている奴がもう一人。
エルメスだ。
俺はエルメスの布団の横に立った。
もう面倒くさいから一気に布団をひっぺがすか。
「よいしょっと……っ!?」
俺は布団をめくってすぐ慌ててもとに戻した。
一瞬しか見ていないがエルメスの奴、下着姿だったぞ。
男と一緒の部屋で普通下着姿で寝れるもんなのか?
……だめだ。彼女がいたことがない俺にはわからない。
とにかくミアには気付かれていなかったようだしエルメスもまだ寝ている。
こいつのことはミアに任せて俺も顔を洗いに行こう。うん、そうしよう。
「みなさん、またいらしてくださいね」
「ありがとうございましたー」
朝食を済ませた俺たちは女将さんたちに見送られながら旅館をあとにした。
「また連れてきてくださいね、カズン王子」
「お、おお。そうだな」
「? 顔赤いですよ熱でもあるんですか?」
下着姿を俺に見られたこともまるで気付いていないエルメスは顔を寄せてくる。
「ないって」
「? 変なカズン王子」
罪悪感からか俺はその日はまともにエルメスの顔を見られなかった。
ふぅ……全くもう。