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第92話

この温泉旅館は混浴だったのか?

おいおい、混浴なんて聞いていないぞ。

もといた世界でだって混浴の温泉なんて入ったことないのに、知り合いが大勢いるこの状況で入るのか……。


エルメスたちは混浴のこの温泉に入っているのだろうか。


ガラガラ……と男と書かれた脱衣所に入る。

人は一人もいない。

俺は適当にカゴをとって脱いだ服を入れていった。

服を全部脱ぎ終わりタオルで前を隠すと、ドキドキしながら露天風呂への扉に手をかけた。


この先はどうなっているのだろう。

未知の領域だ。


俺は扉を開けた。


ぱあっと明るい視界が開けた。


とても広い温泉だ。


そしてそこにはエルメスたちがお湯に浸かっていた。


テスタロッサと目が合うと一瞬ぎょっとしてからぷいっとそっぽを向いた。

カルチェとミアはすでにのぼせているのか顔が上気している。

スズとアテナは平然としていた。


エルメスが、

「カズン王子、早く体洗って入ったらどうですか? 気持ちいいですよ~」

お湯に浸かりながら手を振る。


ていうかなんでみんな平気なんだ?

俺は男だぞ。

もしかしてこの世界では混浴が普通なのか?

だとしたら恥ずかしがっていたら逆に変なのかな。


俺は頭の中がぐるぐるしながらも体を洗いだす。

すると、

「せっかくですから背中洗ってあげますよ」

エルメスがお湯の中から立ち上がろうとした。


「いや、いいからいいから、見えるって、おわぁぁー…………ってえ? 水着?」


指の隙間から見えたエルメスのスレンダーな体には黒のビキニとパレオが巻かれていた。


「裸なわけないでしょう」


エルメスが近寄ってきて俺を見下ろす。

それにしても脚長いなこいつ。


「なんで水着なんか……お前たち、この旅館が混浴って知っていたのか?」

「はい、わたしが事前に調べておきましたから」

ミアも少し恥ずかしそうに立ち上がる。

フリルのついた水色の可愛らしいビキニだった。


「水着が無駄にならなくてよかったわよね。カルチェ」

「まあそうね。でも何もカズン王子様に秘密にしておくことはなかったんじゃない?」

「そのおかげでカズン王子のびっくりする顔が見れたんだから結果オーライでしょ」

カルチェは白いレオタードのような水着を着ていた。

なんか普段とギャップがあって……いいな。


ちなみにテスタロッサとスズは子どもが頑張って背伸びしたような水着姿で、アテナにいたってはスク水だった。

そんなもんこの世界にも売っているのか。


「なんか目つきがいやらしいんだけど、あんた」

テスタロッサがにらみつけてくる。

「いや、別にいつもと変わらないだろ」

とは言ってみたものの女性の水着姿なんて生で見るのは学校のプール以来だからな。普通にしてろって方が無理があるってもんだ。


特にエルメスとカルチェのダールトン姉妹は強力だ。

エルメスはモデル体型で綺麗だし、カルチェは水着でおさえつけられているはずなのに出るとこが出てて目のやり場に困るくらいだ。


「気に入りましたか?」

俺の心の中を見抜いているかのようにエルメスが訊いてくる。

どう答えろっていうんだ。


俺は中学生のような反応をして無言で体を洗い続けた。

いつもより長く洗っていたのは言うまでもない。

そしてみんなが出ていったのを確認してから俺はお湯に浸かったのだった。



「いいお湯でしたね」

部屋に戻るとミアが髪を乾かしながら話しかけてきた。

「ああ、来てよかったな」

「はい」


「……お腹すいた」

俺の浴衣をくいっと引っ張るアテナ。

「拙者もすきました」

とスズも続く。


「そうだな。夕飯までもうちょっとじゃないか。なぁミア」

「はい、たしか六時になったらお部屋に持ってきてくれるはずです」

「まだもうちょっと時間があるわね。あたしは少し寝るわ」

「じゃあ私も」

テスタロッサとエルメスは横になった。

ここまで歩いてきたことでやはり疲れていたのだろう。


「テスタロッサ様お風呂から上がってすぐ寝たら風邪ひきますよ。ほら姉さんも」

カルチェが部屋にあった毛布を二人にかけてやる。


「ミアどの、拙者たちは下でピンポンをしましょう。さっき台がありましたゆえ」

「うん、そうしようか……カズン様たちはどうしますか?」

「俺はいいや」

「私もここで休んでいるからいいわ」

「……行く」

アテナが立ち上がった。


「では拙者たちはピンポンに興じてきます」

そう言ってスズとミアとアテナは部屋を出ていった。


俺は目を閉じる。

と、

「カズン王子様、今回の旅行本当にありがとうございます。姉さんの無理を聞き入れてくださって」

「そんなことないから、気にするな。それよりお前は楽しんでいるか?」

「はい、もちろんです」

「それならよかった」


カルチェは寝ているエルメスを見て、

「カズン王子様といる時の姉さんはなんか子どもの頃に戻ったようにはしゃいでいて楽しそうです。それを見ていると私もなんだか嬉しくて……」

「ふーん。そうなのか」

「……私子どもの頃いじめられていたんです。あっ、とはいってもそんなひどいものではなかったんですけど。その時姉さんがいじめっ子をおかしな魔術で懲らしめてくれて……まあ、そのあと私も姉さんも両親に叱られましたけどね。ふふっ」


うーん、二人の子ども時代か。あまり想像できないな。


「呪いますよカズン王子~。むにゃむにゃ……」


不吉な寝言をつぶやくエルメスを俺とカルチェはただ見ていた。

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