なんとかもとの大きさに戻れた俺だったが長らく愛用していたベッドが半壊してしまった。
「どうするか……これ」
足元のさっきまでベッドだった物をみつめ途方に暮れる。
ちなみにメガネはというと俺をもとに戻すやいなやさっさと地下の自分の部屋に行ってしまっている。
「やっぱ新しいの買いに行くしかないよな……」
「……買い物行くの?」
アテナが見上げる。
「そうだな。これから行くかな」
「……わたしも行く」
珍しく積極的なアテナ。
「……パンツ買う」
「お、おう。そうか」
そういえばそんな話をしたばかりだったっけ。
でもさすがに俺が女性物の下着売り場に行くわけにはいかない。
たとえ子どもサイズだとしてもだ。いや子どもサイズだからなおさらか。
「もうすぐ昼だからミアに一緒に行ってもらおうか」
「……うん」
昼食を運んできてくれたミアに経緯を話すとミアは嫌な顔一つせず二つ返事で了承してくれた。
「お昼休み二時間もらってますから、先にアテナ様の下着を見てからカズン様のベッドも買いに行きましょうね」
「急で悪いな」
「いいえ。わたしも町に行きたいなぁと思っていたんです」
とミア。
う~ん、なんて優しいんだミアは。
あとで何かお礼しないとな。
「あっ、でもスズちゃんとお昼ごはん一緒に食べる約束してたんでした。どうしよう……」
ミアが戸惑う。
「だったらスズもここに呼んだらいいよ」
「え、いいんですか?」
「ああ、四人分くらいの量はあるし」
ミアが運んできてくれた昼食はかなりの量がある。俺とアテナとミアとスズで食べても充分足りるだろう。
アテナはリンゴしか食べないしな。
「じゃあスズちゃん呼んできますねっ」
ミアが部屋を出ていった。
そしてしばらくするとスズを連れて戻ってきた。
「お待たせしました」
「カズンどの、アテナどの、お邪魔します」
「ああ、入ってくれ。一緒に食べよう」
「……いただきます」
スズが来るのを待っていたらしいアテナがリンゴを手に取った。
俺たちはテーブルを四人で囲んだ。
「……へー、じゃあスズはその師匠から戦い方を学んだんだな」
「そうなんです。自慢のお師匠です」
「この前忍びの里に行った時はいなかったよな?」
「はい。任務であちこち飛び回っているので」
「わぁ、スズちゃんて本当にくのいちだったんだ~」
ミアが感心した顔でスズを見る。
「前からそう言っていましたが」
「うんそうなんだけどね。でも、ちょっと変わってるだけなのかなぁって思ってた。ごめんね」
「いえ、謝るほどのことではありません」
スズが口にソースをつけながら涼しい顔で返す。
「……パンツ買いに行く」
リンゴを三つたいらげたアテナが俺たちを急かす。
「ああ、そうだな。じゃあそろそろ行くか」
「はい」
「はい」
「……うん」
昼食を済ませた俺たち四人は部屋を出た。
するとエルメスとカルチェのダールトン姉妹と出くわした。
「あら、カズン王子」
「カズン王子様、こんにちわ」
「おう、二人で何してるんだ?」
「それはこっちのセリフですよ。四人で何してるんですか?」
「どこか行かれるんですか?」
エルメスとカルチェが訊いてくる。
「城下町に買い物に行くことになりまして」
ミアが答える。
続いてアテナも、
「……パンツ買う」
「え? パンツ? ですか?」
カルチェが驚き訊き返す。
「……うん」
エルメスが冷たい目で俺を見ている。なんかまた誤解しているな。
「アテナ、それ町では言うなよ」
俺の立場が悪くなる。
「……わかった」
「お二人は何を?」
スズが二人に目を向けた。
「私たちも買い物よ。新しい水着を買おうかなって、ね、カルチェ」
「え、ええ、まあ……そう、だね」
カルチェは俺の顔を見ながら言いにくそうにしている。
なんだ?
そんな妹を見てかエルメスが、
「いいこと思いついたわっ」
と手を叩いた。
お前は何も思いつくな。
「カズン王子、さっきあなたが小さくなってた時助けてあげましたよね?」
「あーうん。まあな」
助けたといっても部屋まで運んでもらっただけだが。
「そのお返しといってはなんですけど~……私たちを旅行に連れてってくださいっ」