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第86話

俺は城の地下へ下りていく。

そこには屋内なのに小屋があった。

サマルタリアから移動させたメガネの小屋だ。


小屋のドアをノックする。

「はいは~い」

中からメガネの声が聞こえてきた。


俺は小屋に入る。

「元気でやってるか?」

「そうだね~。科学者が元気っていうのもどうかと思うけど元気だよ」

白衣姿のメガネがはんだごてを持ちながらなにやら作業している。


メガネは一切俺の方は見ずに、

「きみってこの国の王子だったんだね~。まあ僕にはどうでもいいことだけどさ」

興味なさげに話をする。


「今は何を作ってるんだ?」

「面白いものさ。もうすぐ完成するよ~」

「そうか。ここの暮らしには慣れたか?」

「慣れるも何も前とあまり変わらないよ~。食事が用意されてるのはありがたいけどね」

メガネがイリタールの城に来てから一週間、この小屋にこもりっきりだ。

食事の出し入れの時だけドアを開けているようだ。


「……出来たっ!」

メガネが声を上げる。


「なんだ、何が出来たんだ?」

メガネの後ろから覗き込む。

そこには……キラリと光り輝く指輪があった。


「指輪か?」

「た~だの指輪じゃないよ。これは魔獣カプセルを改良して作った物だからね~」

あのカプセル、魔獣カプセルって名前だったのか。


「それでこれはなんなんだ?」

「縮小リングだよ」

メガネは振り返り指輪をつまんで俺に見せる。

「これをこうして君の指にはめて……と……」

メガネが俺の手を取り指輪をはめる。

男にされても全然嬉しくない。


「それでこのダイヤの部分をポチッと……」

押し込んだ。

すると、


「おわっ!?」


みるみるうちに俺の体が小さくなっていく。


「お、おいっ、どうなってんだっ!?」


あっという間に背丈がメガネの靴くらいまで縮んでしまった。

どういうわけか服や靴も一緒に縮んでいる。もちろん指にはめた縮小リングとやらも。


「おい、これもとに戻れるんだよな?」

俺はおそるおそる訊いた。


「えっ、何か言ったかな~? 声が小さくてよく聞こえないないんだけど」

耳に手を当てるポーズをとるメガネ。


「もとに戻れるのかって訊いたんだよ!」

「あ~、はいはい。それなら縮小リングのダイヤの部分をもう一回押したら戻れるよ~」

「ったく、本当だろうな」

俺は半信半疑でダイヤ部分を押してみた。



…………。


「戻らねぇじゃねぇかっ!」


ダイヤが奥に押し込まれすぎてて、もう一回押してもうんともすんとも言わない。

「あ~れ~、おかしいな~」

床に四つん這いになり首をかしげながら俺を見る。おかしいのはお前の頭だ。


「どうすんだよこれっ。まさか一生このままじゃないだろうな!」

そうだったら軽く死ねるぞ。

その前にこいつも殺してやるが。

「あははっ。それは大丈夫だよ。とりあえずそれ外して僕に見せてくれる~」

「ほらよっ」

俺は縮小リングを外し上に放り投げた。


「おっとと……」

メガネがそれを両手で受け取る。

「じゃあちょっと見てみるから、少し待っててね~」

手をひらひらさせすっくと立ちあがると椅子に座って顕微鏡を手元に置いた。


「どれくらいかかる?」

「え、何?」

「どれくらいかかるんだ!」

「さあね~。一分かもしれないし一日かもしれないし、どうだろう~」

「わかったから早くしてくれ!」

「りょ~か~い」


顕微鏡を覗き込むメガネが縮小リングを直している間、そうだな……俺は筋トレでもしているか。


床に両手の小指をつき腕立て伏せならぬ指立て伏せを開始する。

こんなこと前の世界でやったら突き指確定だがこの重力十分の一の世界なら問題ない。

それにもともと五本指でならやってたからな、指立て伏せは。


「いち、にー、さん、し――」


カサカサ。


背後から不穏な音がした。

この聞き覚えのある音。

やめてくれよと思いながら後ろにゆっくり首を回す。


カサカサカサ。


黒光りした生物がすごい速さで近付いてきていた。


「うわぁっ!!」


一瞬にして全身に鳥肌が立つ。


カサカサカサ……。


俺は一目散にそいつから離れるため地下室から逃げ出したのだった。

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