俺はその日は自ら進んで国王のもとを訪れていた。
「……というわけです」
「ほう。してこれがその魔獣が入っているというカプセルか」
俺はメイド喫茶を襲った男たちが持っていたカプセルを拾ってきていた。
「どういう仕組みなのじゃ。こんな小さなカプセルの中に魔獣を入れるとは」
「さあ、私にもわかりません」
エルメスも宮廷魔術師ということで魔獣に詳しいからと同席している。
「ただそれを知っているかもしれない人間に心当たりならありますけど……」
「それは誰じゃ?」
「サマルタリアの宮廷魔術師ミコトです」
ミコト……着物を着たえせ京都弁みたいな口調の女か。
たしかエルメスと同期だと言ってたな。
「今はうちの城の地下牢にいます」
……え、そうだったの? 知らなかった。
「うむ、ではそやつから話を聞きだしてみてくれんかのう」
「わかりました。カズン王子も一緒でいいですか?」
エルメスが言う。なんで?
「王子もか? 別に構わんが……」
「多分カズン王子がいた方が上手く話を聞きだせると思うんです」
「じゃったらお主も行くのじゃ」
国王があごをしゃくる。
はぁ……ミコトか。あいつ、なんか不気味で苦手なんだよな。
俺は足取り重くエルメスのあとをついていく。
「おい、なんで俺も行かなきゃいけないんだよ。ミコトはお前の同期だろ」
「同期だから彼女の性格はよく知ってるんですよ」
階段をとにかく下りて下りて地下に行く。
冷たい空気が漂う地下の螺旋階段を下っていくと地下牢が見えた。
「カズン様、エルメス様どうしたのですか?」
地下牢の見張りをしている兵士に声をかけられる。
「ミコトに会いに来たんだけどいい?」
「ミコト? ああ、サマルタリアの女魔術師のことですね……一番奥の牢屋にいます」
「ありがとう」
奥に進めば進むほど通路が細く暗くなっていく。
突き当たりの牢屋にたどりついた。
「ミコトいる?」
暗くて牢屋の中がよく見えない。
「……その声は……エルメスはんでっか?」
暗闇の中で赤く目が光った。
「ええ、そうよ」
「なんの用や?」
「ちょっと魔獣の入ったカプセルについて話を聞きたくてね」
「……それやったらあの素敵な王子はんがおったら話してもええよ」
「そう言うと思って連れてきてるわよ」
すると二つの赤い光が鉄格子まで近付いてくる。
ミコトの姿があらわになった。
前に見た時と同じ着物姿だ。
「やっぱりええ男やなぁ、カズンはん」
「うおっ」
手を伸ばして俺の顔を触ろうとしてきた。
「性悪なだけじゃなくて男好きな性格も相変わらずみたいね」
「女にとってそれはほめ言葉やで、エルメスはん」
ニタリと笑った顔は恍惚の表情を浮かべている。
「さあ、カズン王子を連れてきたんだから話してもらうわよ」
「……ラハールはんにあげた魔獣はうちが召喚した魔獣が進化したもんや。他にもいろんな殿方にあげたさかい数はよう憶えとらへん」
「このカプセルはあんたが作ったの?」
エルメスが人差し指と親指で掴んだカプセルを見せる。
「そうどす……と言いたいとこやけどちゃうわ。それは貰いもんやからな」
「貰いものって誰から貰ったのよ?」
「それを教えたらうちの切り札がのうなってしまうやないの」
ミコトの口角が上がる。
「はぁ? 切り札ってあんた自分の立場わかってるの? 取引できる状況じゃないわよ」
「充分わかってるつもりですえ。エルメスはんこそうちの協力なしでどうするつもりなん。うちは別に困らへんし」
「……んぅ」
エルメスが言い負かされている。
「なあ、ちょっといいか」
俺はエルメスを呼び、耳元でささやくように話す。
「カプセルの出どころってそんなに重要なのか?」
エルメスも小声で、
「魔獣をこんなちっちゃいカプセルで持ち運び出来るんですよ。もし悪用されてイリタールに攻め込まれたりしたらどうするんですかっ」
「お前結構真面目に考えてるんだな」
「どういう意味ですか」
「近い近い。わかったよ、ちょっと俺が話してみる」
エルメスから逃げるように牢屋の前に立つ。
「ミコト、お前の望みはなんだ? カプセルを作った人間を教えてくれたら出来る限りのことはする」
「別に望みなんてあらしまへん。うちにカプセルをくれたお人のもとへ案内させて欲しいだけどす」
案内?
牢屋を出て案内するってことか?
「だめよそんなの。認められないわっ」
エルメスが割って入る。
「エルメスはん、今はうちとカズンはんとの甘~い一時どす。邪魔せんといてくれます」
「要はここから出せってことだろ。逃げるつもりなんじゃないのか?」
「そんな気あらしまへんし、もしその時はまたうちを気絶させたらよろしいやろ。ふふふ」
思い出したように笑いだすミコト。
「悪いが俺の一存では決められない。国王に訊いてみないとな」
「では訊いてきてくださいな。うちはここにおりますさかい」
笑顔で手を振るミコトを置いて俺とエルメスは国王の部屋へときびすを返した。