夕方になってテスタロッサが兵を引き連れ城にやってきた。
その報告を受けた俺はアテナと双六をしていた手を止め大広間へと足を運ぶ。
大広間の修繕工事は終わっていたようですっかり元通りになっていた。
大きなテーブルに豪勢な料理が並べられている。
国王とエルメスとテスタロッサはすでに大広間にいて席についていた。
「来てやったわよ」
俺を見るなり俺のフィアンセ様が口にする。
その小さい顔の横にいつも浮かんでいるはずのハーレクインはいない。
「ハーレクインはどうした? あいつに何かあったんじゃないのか?」
すると表情が曇るテスタロッサ。
「ここにいるわ」
ペットを入れる用のカバンというかカゴというか、とにかくその中にハーレクインが入っている。
それをテーブルの上に置くと悲しげに俺をみつめた。
「この子最近元気がないのよ。飛ぼうともしないしごはんも全然食べてくれないの……」
俺はカゴの中に入ったハーレクインをながめる。
ぷるぷると小刻みに震えている。
「病気じゃないのか?」
俺は訊くが、
「病気ではありませんよ」
とエルメスが答えた。
「じゃあなんなんだ?」
「それは……わかりません」
エルメスはうつむいた。
すると俺についてきていたアテナが口を開いた。
「……もうすぐ進化する」
俺たちは一斉にアテナを見る。
今アテナはなんて言ったんだ。進化?
その時――。
「キュイィィィィ~!」
ハーレクインが大きな鳴き声を上げた。そして全身からぱあっと光を放った。
まばゆい光が大広間を埋め尽くす。
「まぶしっ」
テスタロッサの声がしたが、光で姿は見えない。
ぎゅっと服を掴まれる感覚がした。
アテナかな。
そして次の瞬間光が収まった。
するとテーブルの上にはさっきまでハーレクインが入っていたカゴが粉々になった残骸があった。
「ハーレクインはどこなのっ!」
俺の服を掴んでいたテスタロッサが声を上げる。
「……上」
アテナが上を指差した。
俺を含めみんなが見上げる。
するとそこには大広間の天井を覆いつくすほどの羽を広げたハーレクインの姿があった。
姿かたちは前の不細工なカピバラ面だが羽だけが異様なほど大きくなっている。
「なんじゃこれは!?」
「……進化した」
驚きを隠さない国王と無表情のアテナ。
「あんたほんとにハーレクインなのっ」
テスタロッサの声に反応したのかハーレクインが羽を大きく動かす。
それによって凄まじい強風が巻き起こる。
吹き飛ばされたテーブルが直したばかりの大広間の壁に穴をあける。
「きゃ!」
エルメスが珍しく可愛らしい声を発した。
「ハーレクインなのね。こっちにいらっしゃい」
ハーレクインはこうもりのように器用に羽をたたむとテスタロッサの手の中に降り立った。
「ん、あんたちょっと重くなったわね」
「キュイイィッ」
鳴き声で返事をするハーレクイン。
「ま、なにはともあれハー、ハー……」
「ハーレクインです、国王様」
「ハーレクインが元気でなによりじゃ」
また大広間の修繕工事が必要みたいだがな。