城内での魔獣騒動から一週間後、城はいつも通りの平穏を取り戻していた。
大広間が多少破壊されたものの、魔獣による直接の人的被害はなかったため貴族たちももとの生活に落ち着いている。
今日も大広間の修繕工事が進む中、トントンとドアをノックする音がして、
「カズン様、朝食をお持ちしました」
ミアが部屋に入ってきた。
「おはようございます。カズン様、アテナ様」
「ああ、おはようミア」
「……おはよう」
ミアが運んできたテーブルの上からアテナがリンゴを一つとって食べる。
「いつもリンゴで飽きないか?」
「……飽きない」
「そうか。それならいいんだ」
「ふふっ。それを言うならカズン様も毎日鶏肉ばかりですよ」
口元をおさえ微笑するミア。
「俺はいいんだよ。鶏肉が好きなんだから」
筋肉にもいいし、それにミアが毎日いろいろアレンジして料理を作ってくれるからな。飽きが来ない。
「あっそういえば国王様が朝食が終わった後に部屋に来てほしいと言っていましたよ」
国王が? なんだろう。
「ああ、わかったよ」
朝食を済ませ国王の部屋に行こうとするとアテナが俺の服のすそを掴む。
「どうした?」
「……今日アテナと遊ぶ」
アテナは俺を見上げ、
「……約束した」
そっか、今日はアテナと遊ぶ日だった。
「国王の部屋に行ったらすぐ戻ってくるからそしたら遊ぼう、な」
「……」
無言で首を横に振った。
う~ん、国王を無視はできないし……。
「じゃあ、アテナも一緒に国王のところに行くか?」
「……うん」
そして俺はアテナを連れ国王の部屋に向かった。
「おお、アテナちゃんも一緒じゃったか。さあ二人とも入ってくれ」
国王に部屋に招き入れられるとアテナは一番大きな椅子にちょこんと腰掛けた。
「アテナ、そこは国王の――」
「まあよい王子よ。わしはこっちで……よっこらしょっと」
そう言って国王はソファに腰を下ろした。
俺もその隣のソファに座る。
「アテナちゃん、城の生活には慣れたかのう?」
「……うん」
「そうかそうか。それはなによりじゃ」
孫を見るような目でアテナを見ている。
「して、話は他でもないテスタロッサちゃんのことなのじゃが……」
国王が俺に向き直り本題を切り出した。
「テスタロッサちゃんが飼っておった魔獣、なんといったかの、ハー、ハー……」
「ハーレクインですか」
「そうそれじゃ。そのハーレクインの様子が最近おかしいそうなのじゃ」
そうなのか。そういやしばらく見てないな、あのカピバラに似た魔獣のことは。
「おかしいっていうのは具体的にはどういうことなんですか?」
「それがのう、エスタナ王に聞いた話じゃからわしも詳しくはわからんのじゃ」
それで俺にどうしろと。
「聞けばあの魔獣、エルメスが召喚したらしいではないか。だったらエルメスに見てもらうのが一番じゃろう」
「まあそうですね」
「そこでじゃお主にはエルメスと一緒にテスタロッサちゃんのもとへ――」
「お断りします」
「うむ、そう言うてくれると思うてたわい……って断るじゃと!?」
俺を二度見する国王。
「嫌ですよ。だってエルメスと一緒だと馬車に乗らなきゃいけなくなるでしょう。俺酔いやすい体質なんで」
「そんなことで国王であるわしの頼みを断るのか」
「歩きなら行ってもいいですけどね。恨むならエルメスを恨んでください」
「誰を恨めですって?」
エルメスが部屋のドアに寄りかかっていた。
「おお、エルメス来てくれたか」
国王はエルメスも呼んでいたのか。
ヒールを鳴らし部屋に入ってくるエルメス。
「自分が乗り物に弱いのをまるで私のせいみたいに言うんですね、カズン王子は」
見下ろしてくる。
ただでさえ俺より背が高いのにヒールなんて履いているもんだから見下されている気分だ。
「テスタロッサ様をこちらにご招待するというのはどうですか? 先日の魔獣騒ぎでせっかくの会が台無しになったままですし」
「おお! それはいい考えじゃなエルメスよ。では早速そのようにとりはかるよう大臣に言わなくてはのう」
そう言うと国王は部屋から出ていった。
エルメスが俺を見る。
なんだその勝ち誇った顔は。