地面に描かれた巨大な魔法陣探しは意外とあっけなく終わった。
二日目の夜のこと。
野宿をする場所を探して馬車をゆっくり走らせていたら前方に明かりが見えた。
黄色い光だったので民家かと思いきや近付いていくとそれは魔法陣の放つ光だった。
「おい、エルメス。これってまさか……」
「ええ、当たりです。これが呪いの元凶の魔法陣ですよ」
早速俺たちは魔法陣を消す作業に取り掛かる。
「っていっても魔法陣を消すって具体的にどうすれば――」
俺はエルメスの方を向く。
とエルメスが砂の上に描かれた魔法陣を足で払って消していた。
「魔法陣は一部でも欠ければ効力を失いますから。カズン王子もやってください」
俺は見様見真似でエルメスと一緒に魔法陣を消していく。
巨大な魔法陣なので多少時間はかかったが何事もなく魔法陣の一部を完全に消し去ることに成功した。
すると、さっきまで煌々と光っていた魔法陣が光を失っていく。
「これでこの魔法陣を描いた魔術師が様子を見に現れるはずです」
「あとはそいつを捕まえればいいってわけだな」
「そういうことです。交代で仮眠をとりながらここで待ちましょう」
俺たちは軽めの夕食を済ませるとまず初めにエルメスが馬車の中で眠りについた。
俺はたき火の番をしながら魔法陣を描いた魔術師を待つ。
ちなみに馬車の運転手である兵士には具体的な話はしていないので少し離れたところで休んでもらっている。
たき火の温もりと揺れる明かりが眠気を誘う。
俺はうつらうつらしながらもたき火に枯れ枝を投げ入れる。
風情のある虫の音が耳に入ってくる。
俺は耳を澄ます。
すると馬車の中からエルメスのいびきがかすかに聞こえてきた。
女でもいびきってかくのか……などと思っていると、
「そこにいるのは誰どすか?」
着物を着た妙齢の女性が暗闇の中から現れた。
俺を見てぱあっと表情を明るくさせると手を叩き、
「あ~らたくましい殿方やないの」
近付いてきて俺の腕に抱きつく。
そしてしゃがみ込むとたき火に手をかざした。
「うち道に迷うてしもたんよ。ちょっとお邪魔してもええかしら?」
「あ、ええ、いいですけど……」
こんな夜更けに女性が一人で何をしていたのだろう。
……まさかこの人が俺たちが探していた魔術師なのか?
それにしては敵意を感じないが。
「助かります、一人で心細うて。あっうちミコトいいます」
「あー、俺はカズンです」
王子としての名前を答えた。
今は別に変装もしていないしいいだろう。
「カズンはんどすか。ええ名前どすな」
そう言いながら距離を詰めてくる。
俺の隣に座ると、
「お一人で旅してはるん?」
「いえ、もう一人……いや二人います」
馬車の中で寝ているエルメスと離れたところで休んでいる兵士だ。
そういえばそろそろエルメスと交代する番だな。
「ちょっとすみません」
俺は腕にしなだれかかっていたミコトさんを置いて馬車まで行くと、
「おいエルメス起きろ! 交代だ!」
声を上げた。
待つこと十数秒、
「……はぁ~あ、もう交代の時間ですかカズン王子」
大きなあくびを手で隠そうともせずエルメスが馬車の中から出てくる。
恥ずかしい奴。
ミコトさんには聞こえないように、
「おい、俺は寝るけど彼女の相手頼むな。どうやら道に迷ったらしいんだ」
「彼女?」
エルメスはミコトさんに視線を向けると、閉じかけていた目をぱっと見開いた。
「……なっ!? ミコト!? なんであんたが!」
「なんだエルメス、ミコトさんと知り合いか?」
エルメスの反応からしてミコトさんのことを知っているようだ。
「ミコトさんって、カズン王子……こいつは魔術学校の同期で今はサマルタリアの宮廷魔術師です」
魔術師、この人が?
「魔術学校時代から性悪女で有名でしたよ」
じゃあ、ここにあった巨大な魔法陣を描いたのは……。
「久しぶりやなエルメスはん。ところで……どっちや? うちの魔法陣消してくれはったんは」
顔を上げ、女魔術師ミコトはニヤリと笑った。