「パデキアを救う? どういうことだセルピコ」
「今我が国ではとある病が流行っていてな、その病にかかると突然強力な睡魔に襲われるようだ。そのせいで事故は頻発するわ、仕事にならないわで国自体の存続が危ぶまれているのだ」
「それは大変だな。でも俺は医者じゃないし、出来ることはないぞ」
「いや、ある」
セルピコは力強く言い放つ。
「というのもどうやら病の元凶は魔術師による呪いらしいのだ」
「呪い?」
「ああ、だからその元凶である魔術師を探し出して捕まえてほしい」
とセルピコ。
「ほら見ろ」
やっぱり面倒くさそうなことになったじゃないか。
俺は誰にでもなく小さく口にした。
「一応訊くがなんで俺がそんなことをしなくちゃいけないんだ? お前の国にも兵士だの魔術師だのいるだろう」
「そなたはいい奴だ。そして強い。さらにラファグリポスも探し当てた。これほど適当な人材が他にいるだろうか。いや、いない」
強く言い切る。
「もちろんタダでとは言わない。そなたの要求に出来得る限り応えるつもりだ。なぁ?」
横に立つ美人秘書に問いかけるセルピコ。
「はい、カズン王子様のお望みの物ならなんでも」
「我に貸しをつくっておくというのは悪い話ではないと思うぞ」
二人してたたみかけてくる。
う~ん、なんか上手く丸め込まれている気がしないでもないんだが、貸しをつくるというのは一理ある……。
「……わかった。だが俺一人じゃ手に余るから助っ人を入れるけどいいか?」
「もちろんだとも」
「だからってなんで私が協力しないといけないんですかっ」
「おい、図書室では静かにしないと」
「私たちしかいないんだからいいでしょうがっ」
ここは図書室。
エルメスを探して行き着いた先がここだった。
「パデキアの王様が困ってるって言ってるんだぞ」
「私には関係ないですっ」
エルメスは図書室の柱にしがみついている。
「なあカズン王子、彼女かなり嫌がっているみたいだが」
図書室には俺とエルメス、そしてセルピコと美人秘書がいる。
「大丈夫だ、待っててくれ、今すぐ説得するから」
「エルメス、ちょっとこっち来い」
「嫌です、行かないですっ」
「いいから来い」
「嫌です~!」
半ば力づくでエルメスを図書室の奥に引っ張り込む。
「セクハラとパワハラで訴えますよ」
恨みがましい目でエルメスが俺を見てくる。
「そういう言葉だけは勉強してるんだな、お前は」
「あなたの世界のことは大体把握してますからね」
セルピコたちには聞こえないように話す。
「俺も面倒だがセルピコに貸しをつくっておくチャンスだからさ……お前だって願い事の一つや二つあるだろ」
「う、それはそうですけど……」
「ちゃちゃっとその魔術師捕まえて終わりだから、な?」
「う~……じゃあ有給休暇百日分ください」
有給を百日!?
なんてがめつい奴なんだ。
「それがだめなら協力なんてしませんからねっ」
ぷいっとそっぽを向くエルメス。
子どもか。
「わかった、それは俺がなんとかする」
「ほんとですね? 裏切ったら私があなたを呪いますからね」
「怖いことを言うな」
「話は済んだか?」
戻った俺たちにセルピコが話しかけてくる。
「ああ、喜んで協力するってさ」
「それはよかった。期待しているぞ二人とも」
セルピコは俺とエルメスの肩をぽんと叩いた。
「えっ私たち二人だけですか? セルピコ様たちは?」
エルメスが訊く。
「我らはそなたたちの足手まといになりたくないからな。魔術師が捕まるまではここで厄介になるつもりだ。なあ?」
「はい、セルピコ様」
セルピコと美人秘書が言った。
「ちょっとカズン王子、二人だなんて聞いてませんけど」
「いや、俺も今知ったところだ」
すると美人秘書が俺に近付いてきて、
「何か不都合でも?」
「いや別に、特には……」
「ではお願いいたします」
俺の手を優しく握った。
こうして俺とエルメスはパデキアに病の呪いを振りまいている魔術師を二人で捕まえることになった。