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第69話

イリタール王国がラファグリポスを手中に収めたという噂は水面下で大陸中に広まっていった。

時を同じくして隣国のエスタナ王と大国パデキアの国王セルピコから同盟の申し入れがあった。

ラファグリポスの真贋は確かめようがないものの、今後のことを考えイリタール王国と手を結んでおいた方がいいと思ってのことなのだろう。

そして国王はそんな二国との同盟の申し入れを受けることにした。


「王子よ。今日はエスタナ王とセルピコ王がこの城にやってくる日じゃ。くれぐれも失礼のないようにの」


謁見の間に朝から呼び出された俺は国王の前にひざまづき話を聞いていた。


「王子には後継者としてわしの傍らで同盟が成立するのを見守っていてもらいたいのじゃ」

「わかりました」

玉座に座った国王に俺は答えた。


「国王様! エスタナ王とセルピコ王がたった今参られました!」

兵士が謁見の間の扉を開けやってくる。


「通してくれ」

「はっ」


すると護衛の兵士を引き連れエスタナ王とテスタロッサが姿を現す。その後ろからやはり兵士を引き連れたセルピコと美人秘書が部屋に入ってくる。


「お久しぶりです国王陛下。この度はお招き感謝します」

エスタナ王が発した。

続いてテスタロッサが俺を一瞥した後、

「ご機嫌麗しゅう国王陛下」

ドレスのスカートを手で持ち仰々しく挨拶をした。

猫を被ってるな。


「久しいなイリタールの国王よ。同盟を受け入れてくれたこと感謝する」

エスタナ王とテスタロッサの前に出てセルピコが口を開いた。。

こいつたしか十五歳だったよな。相変わらず偉そうな奴だ。

俺が国王の横で立っているとセルピコが俺に視線を向けニヤリと口角を上げた。


ん、なんだ?


「では早速じゃが書面の作成に取り掛かるとするかのう。みなわしの部屋に来てくれ。それとすまぬが護衛はなしで頼む」

そう言って国王は自室へと足を運ぶ。

エスタナ王とテスタロッサ、セルピコと美人秘書が後に続いた。

俺もその後ろをついていく。


螺旋階段を上がり国王の部屋へ。


「まあワインでも飲んでくつろいでくれ」

国王がお盆の上に乗ったグラスを全員に手渡す。


「うん、うまいですね」

「おいしいですわ」

「なかなかいい味だな」

「そうですね、セルピコ様」


俺もワインを口に含む。

う~ん、酒はあまり飲まないからおいしいかどうかよくわからないな。っていうかセルピコは飲んでもいいのか?


「っ!? おお! もしやこれがラファグリポスですか!?」

エスタナ王が声を出す。


部屋の中央には大きなテーブルがありその上には書類と石板が置かれていた。


「そうじゃ。みなもこれに興味があると思うての」

「これがラファグリポス? ただの薄汚れた石板のようだが」

セルピコがもらす。

「む……」


「すばらしいですわ。オーラが違います」

「さすがテスタロッサちゃん、見る目が違うわい」

猫被り発動中のテスタロッサが国王を手のひらの上で転がす。


「セルピコ様……」

美人秘書がセルピコになにやら耳打ちする。と、

「そ、そういえばそうだな。この石板は雰囲気があるな」

「そうじゃろ、そうじゃろ」

セルピコが国王の機嫌を取る。


「国王陛下、この――」

「テスタロッサちゃん、いつものようにお義父様と呼んでくれて構わんよ」

にやけただらしない顔を見せる国王。

気持ち悪い。


「それではお義父様、この石板に何か願い事はしたのですか?」

「いや、しとらん。何かもったいなくてのう」

「しかし願い事をしてみないことには本物かどうかわからないではないか」

セルピコが言う。


「これは本物じゃ。王子がエルフと協力して手に入れたものだから間違いないわい。そうじゃろう王子よ?」

「は、はい、まあそうですね」

「ほら見い」


「セルピコ様。あまり不用意な発言は……」

小声で美人秘書がセルピコに話すのが聞こえた。


「あ、ああすまない。疑ったわけじゃないんだ。許してくれ」

手を振り国王に謝る。

セルピコはこんなんでよく王の座が務まるな。

コミュ障の俺でも空気くらい読めるぞ。


「構わん。それより同盟の書類うんぬんはこっちで用意しておいたからあとはお主らがサインするだけでよい」

そう言って万年筆をエスタナ王とセルピコに渡した。


二人は書類に目を通す。

エスタナ王はすぐさまサインし、セルピコは美人秘書とこそこそ話し合った上でサインをした。


「これでわしら三国ははれて同盟を結べたわけじゃな。ほっほっほ」

国王は高笑いをする。

なんか悪役みたいな笑い方だ。


「ところで先ほど話に出たエルフというのはどういうことですか?」

エスタナ王が訊いた。

「うちの王子がエルフと友達になってのう……」

「エルフと友達にですか!?」

「ああ、すごいじゃろ。エルフは希少種の上にかなりの人見知りじゃというのに」

自分の手柄のように話す国王。


気分がよくなったのか国王は、

「王子よ、エルフの子はお主の部屋におるのじゃろ? 連れてきてはくれんか」

「えっ今から連れてくるんですか?」

「頼む、この通りじゃ」

手まで合わせてきた。

酔っぱらってるんじゃないのか、このじじい。


「わかりましたよ」

俺は自分の部屋に向かった。



「……っていうわけなんだ。ちょっとついてきてくれるか?」

アテナにいきさつを説明する。

「……うん」

「いいのか? 悪いな」

なんか見世物にするみたいであまり気分はよくないのだが、アテナがいいと言うのならまあいいだろう。

ちらっと顔見せてさっさと戻ればいい。


俺はアテナと手をつないで国王の部屋へと赴く。


はぁ……面倒くさい。


国王の部屋の前に差し掛かった時、


バリィン!


ガラスの割れるような音がした。

俺とアテナは顔を見合わせ、すぐに部屋のドアを開けた。

すると中には両手にかぎ爪をつけた黒装束の男たちが二人いて、テスタロッサとセルピコを人質にとっていた。

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