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第68話

城に戻った俺とアテナはミアと別れると自室に向かった。

部屋に着くなりアテナはずっと鏡を見ている。

新しく買った服を気に入ってくれているのかな。


俺は買ったばかりの剣を壁に立てかけた。

うん、装飾品としても見栄えがいいな。


しばらく鏡を見ていたアテナだがすっと向きを変えると椅子にちょこんと座った。

俺はというと最近は石板探しで忙しくて筋トレをしていなかったので筋トレをすることにした。

今は小指一本で腕立て伏せの最中だ。


時刻は午後三時。

俺は置き物のようになっているアテナを尻目に黙々と筋トレを続けていた。

その間アテナは何をするでもなくじっと俺に視線を向けていた。

一度さすがに気になって「アテナ暇か? どこか行くか?」と訊いたが、アテナは「……ううん」と首を小さく横に振って返すにとどめた。


結局それから三時間、俺とアテナは一言も発することなく同じ部屋で同じ時を過ごした。


「ふぅ……久しぶりにいい汗かいたなぁ」

俺は汗を拭きながらミア特製ドリンクを飲む。


「アテナ、そろそろ腹減っただろ?」

そう言ってアテナを見やるとすぅすぅと寝息をたてていた。

いつの間にか眠ってしまっていたようだった。


起こすのもなんだしこのままにしておくか。

そう思った矢先、


「カズン王子いますかー!」


といきなり大きな声とともにドアが開けられた。

エルメスが部屋に上がり込んでくる。

テスタロッサといいエルメスといい、なんで俺の周りにはノックをしない奴が多いんだ。


「……んん」


ほら見ろ、アテナが起きちゃったじゃないか。


「あ、アテナちゃんもいたんだ」とアテナを一瞥してからエルメスは俺の方を向く。

そしてとある要求を告げてきた。


「カズン王子、欲しい魔術書があるんですけど図書室に仕入れてもらえませんかね」

「突然どうしたんだ? 俺にそんなこと頼むなんて」

「私、石板探しに協力したじゃないですか……」

役に立ったかどうかはともかく同行はしてくれたな。


「だから何か対価が欲しいな~と思って」

転んでもただでは起きない奴。

「前から気になってた魔術書があったので国王様に相談したら、石板探しの旅に出る時カズン王子に渡した金貨がまだ余ってるはずだからカズン王子に頼むようにって言われたんですよ」

「あーそういえば……」

国王から金貨を十枚渡されたっけ。


アテナの服と俺の剣を買ったから残りの金貨は六枚ってとこか。

「でもそういうことならカルチェとスズにも何か買ってやった方がいいよな。お前だけ特別扱いは出来ないし」

「あの子たちなら欲がないから気にしなくても大丈夫ですよ」

「いやそういう問題じゃないだろ。残りの金貨は六枚あるから二枚ずつ三人で分けるといい」

俺はポケットから金貨を全部取り出すとじゃらっとエルメスの手のひらの上に落とした。


「ちゃんとカルチェとスズにもやれよ」

「はーい。わかりましたよ」

……なんか不安だなぁ。


「やっぱり四枚返せ。二人には俺が後で直接手渡すから」

「ちょっと、私どんだけ信用ないんですかっ。くすねたりなんかしませんてばっ」

「そう言いながらちょっと笑ってるじゃないか」

「笑ってませんよ。生まれつきこういう顔なんです!」

エルメスと押し問答が続いたが、


「……カズン、お腹すいた」


というアテナの一言で事態は収束した。


「じゃあ私が渡しときますからね、失礼しまーす」

言うが早いかエルメスが金貨六枚を持ち部屋を出ていく。


「あっ、おい……」

止める間もなかった。

うーん、大丈夫だろうか。


「……カズン」

くいっくいっと服のすそを引っ張るアテナ。

「ああ腹減ったんだよな、俺もだ。もうすぐミアが夕食を運んできてくれるから待ってような」

「……わかった。待ってる」



チキン料理とフルーツの盛り合わせをたいらげた俺たちは風呂に入ってからとこについた。

アテナが風呂に一人で入れるかどうか心配だったのでミアにお願いしたのだが、余計な世話だったようだ。

「アテナ様ならお一人で大丈夫でしたよ」

ミアが風呂上りにアテナを部屋に連れてきてくれた時に発した言葉だ。


そうだよな。見た目と寡黙さでついつい忘れそうになるが、アテナは五百年以上も生きているエルフだ。

俺みたいなニートより人生経験豊富に違いない。


「……おやすみなさい」


アテナがベッドに片足をかけてよじ登ろうとする。アテナの背丈にはベッドがやや高いからだ。

俺はアテナの腰を持ってベッドに乗せてやった。


「明日にでももっと低いベッドに替えてもらうか」

「……カズンと同じでいい」


俺のベッドとアテナのベッドは同じサイズのものなのだ。


「お前がいいって言うんならいいけどさ」

「……いい」

「そっか……じゃあ電気消すぞ」

「……うん」


俺はベッドに横になるとすぐに眠りについた。

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