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第66話

「カズン様起きてください」

ミアの声が降ってきて、

「んん……」

脳が覚醒する。


いつも聞こえるはずのミアのノックの音が聞こえなかった。

俺は熟睡していたようだ。

よほど長旅の疲れがたまっていたのだろう。


俺は上半身だけむくりと起き上がって布団をめくった。

すると、

「おわっ!」

すぐ隣でアテナが眠っていた。


「おいアテナ俺のベッドで何してんだっ!?」

「……ん、もう朝?」

寝ぼけまなこで俺を見上げる。

アテナは俺の腕に抱きついていた。

それも裸で。


それを見てミアが、

「カズン様……テスタロッサ様という方がいながらまさかアテナ様と?」

わなわなと体を震わせる。

「おい、なんか誤解してないか」

「わたし、カズン様のこと……すごく見直してお慕いしていたのに……不潔ですっ!」

そう言い残してすごい勢いでミアは出て行ってしまった。


きゅるるる~


アテナの腹の虫が鳴く。


「……カズンお腹すいた」

「はぁ……とりあえず服着てくれ」




「変な誤解をしてすみませんでしたっ」

ミアが深々とお辞儀をする。

数十分後、朝食を無言で運んできたミアに俺が事情を説明するとなんとかわかってもらえたようだった。


「そうですよね、昔のカズン様ならともかく今のカズン様がそんなことするわけないですよね」

本物のカズン王子の評価って一体どうなってんだ?


「……ごめんなさい」

アテナが頭を下げる。

「……夜トイレに起きたらそのまま」


どうやら寝ぼけて自分のベッドと俺のベッドを間違えたみたいだった。


「アテナ夜寝る時は服は着ていてくれ。俺と同じ部屋で寝たいんだったらこれは約束だ」

「……わかった」

アテナと指切りをする。


「それとミア、あとで時間あるか? 町までアテナの服を買いに行きたいんだ」


アテナは葉っぱで出来た服を着て朝食のくるみパンをほおばっている。

葉っぱで出来た服はなんとなく寒そうだ。


俺に女の子の服なんて分かるわけないからな、ミアにみつくろってもらえると助かる。


「いいですよ。それじゃあわたしのお昼休みでどうですか?」

「俺は全然いいけどミアは大丈夫なのか?」

「はい、今日はお城の外でお昼にしようと思っていたので。今日は休憩時間も二時間もらっていますから」

「そっか。じゃあ頼むよ」


ミアが部屋を出ていった。

俺はアテナを見る。

浅い皿に入ったコーンスープをスプーンを使わずごくごくと一気飲みしている。

スプーンの使い方くらいは教えておくか。



お昼休みの鐘が鳴る。

兵士やメイドたちが続々と食堂に向かっていく。

俺とアテナは昼食をとらず城の入り口でミアを待っていた。


「……カズンお腹すいた」

服を引っ張るアテナ。

「もう少し待ってろ。城下町で何か食べさせてやるから」

「……わかった」


下から視線を感じる。

見るとアテナが俺をじっと見上げていた。

「アテナどうかしたか?」

「……カズン変な恰好」

「ああ、これか」

俺は城下町に行くときはいつもサングラスと帽子で変装している。

「変か?」

「……変」


すると、

「すみません、お待たせしました!」

ミアが駆け寄ってきた。


少し息を切らした様子で胸をおさえ、

「はぁ、はぁ……じゃあ早速お買い物に行きましょうか」

「ああ、悪いんだが服よりも昼ごはんを先にしてもいいか。アテナが腹減ってるみたいだから」

「ええ、はい。いいですよ。わたしの行きつけのお店でもいいですか?」

「構わないよな」

アテナを見る。

「……うん」


俺たちはミアの行きつけだという大衆食堂に向かった。

ミア曰く安くておいしいと城下町で評判なのだそうだ。


通り過ぎる人たちが俺たちを注視している。

俺が王子だとバレた……わけではなく、アテナの服装が浮いているのだ。

やっぱり葉っぱで出来た服なんて目立つよな。


だがミアとアテナはそんな町の人の視線など意に介さず、

「アテナ様は苦手なものはありますか?」

ミアがアテナの顔を覗き込む。

「……ない」


ミアはアテナのことを敬意をこめてアテナ様と呼ぶことにしたらしい。

見た目は少女だが俺たちよりずっと長く生きていることを俺が教えたからかもしれない。

ちなみに俺に対しては町の中では敬語を使わないように言ってある。

王子だとバレると面倒だからな。


アテナは俺とミアの手を両方の手で握り先導するように歩く。

はたから見たらまるで仲良し親子のようなシルエットになっているだろう。


「アテナ様、そんなに急ぐと危ないですよ」

「おいアテナ、お前は店の場所知らないんだから先歩くなよ」

「……お腹ぺこぺこ」

「あっそこ左ですっ」


ずんずん歩くアテナに引っ張られながら俺たちはミア行きつけの大衆食堂に着いた。

店名はあおむらさきだそうだ。

居酒屋みたいな名前だと思った。


「いらっしゃいませー!」

あおむらさきに入った途端、店員さんの元気のいいかけ声が店内に響き渡る。

本当に居酒屋みたいだ。


「おっミアちゃん久しぶりだねぇ。なんだい今日は彼氏連れかい?」

「や、やめてくださいよ、そんなんじゃないですからっ」

店員さんがミアに気さくに声をかけてくる。

やっぱりミアはこの店の常連なんだな。


こういうノリにはちょっとだけ憧れる。

俺はもといた世界でよくコンビニを利用していたが買い物に関する会話以外はしたことがない。

店員さんと友達のように喋るなんて経験は俺にはなかった。


「いつもの三つください」

「いつものね」

ミアは慣れた様子で注文を済ませると俺たちに向き直った。

小声で、

「勝手に注文しちゃいましたけどここのお店の一押しなんです。ぜひお二人に食べてもらいたくて」

勝手知ったるなんとやらだ。

「ああ、任せるよ」

「……大丈夫」



「はいよ、お待たせ」

数分後、店員さんが特大のオムライスを三つ運んできた。


まるで大盛りチャレンジのような大きさだが、

「いただきまーす」

「……いただきます」

ミアもアテナも平然とそれを食べ始めた。

アテナは朝食の時教えた通りスプーンを器用に使いこなしていた。


俺も特大オムライスに手をつける。


口いっぱいにケチャップライスの酸味と旨味が広がり、オムレツがそれをマイルドに包んでくれている。

完成された一品だ。

間違いなくこれまで食べたどのオムライスよりおいしい。


「うん、最高だな。この味」

「よかった~喜んでもらえて……アテナ様はどうですか?」

「……おいひい」

リスみたいにほっぺたを膨らませながら食べているアテナ。

満足そうだからいいか。



「ごちそうさまでした。あ~お腹いっぱい」

最初に食べ終わったのはミアだった。

そして間を開けずアテナも、

「……ごちそうさまでした」

完食した。


俺はまだ半分近く残っているというのに。


たしかにとてつもなくおいしいのだが量が多い。

食が進まなくなってきた。


俺の様子を察したミアが、

「ここはお持ち帰りも出来るんだよ」

と教えてくれる。

それならお言葉に甘えて、

「そうさせてもらうかな」


店員さんにオムライスを箱詰めしてもらうと俺たちは精算を済ませ店を出た。


「よかったの? おごってもらっちゃって」

「いい店を紹介してもらったお礼だよ」

「ありがとう。カズンさ、あ……ユウキくん」

俺が王子だとバレないように町の中では本名で呼んでもらうことにしてある。


「じゃあ次はアテナ様の服を買いに行こうか。ユウキくん」

「ああ、頼む」

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